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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 前夜祭当日。行灯行列が始まる3時間前に、私たちは全ての衣装製作を終えた。

「終わったー!やったー!」

衣装担当の4人でハイタッチをして、お互いの労をねぎらった。

「本当にお疲れ様。琴音ちゃんが頑張ってくれたおかげだよ。」

彩綾ちゃんにそう言われ、

「いやいや、皆が頑張ってくれたから、なんとかなったよ。本当にありがとう。お疲れ様。」

私はそう答えた。実際、私は、マッドハッターの帽子とアリス、ハートの女王の衣装にかかりきりだったので、その他の多くのクラスメートの仮装は彼女たちがやってくれていた。お願いした通りに作業してくれて、想像以上の出来映えの衣装を完成させてくれた彼女たちには頭が下がる思いだった。

私たちは早速、衣装をクラスメートに配った。私があずにゃんにアリスの衣装を渡すと、

「すごいね!アリスだ!ふわふわしてて可愛い。本当に私が着ちゃって良いのかな?」

彼女は目を輝かせながら、衣装を見ていた。

「あずにゃんのサイズぴったりに作ったから、あずにゃんに着てもらわないと困るよ。私、今から自分の衣装に着替えて、ヘアメイクしてくるから、終わったら、次、あずにゃんのヘアメイクするね。それまではまだ着替えずに、クラス展示の作業を続けても大丈夫だから。」

クラス展示の作業が少し残ってそうだったので、そう言うと、

「分かった。ありがとう。ことちゃんの準備が終わったタイミングで着替えるね。」

あずにゃんはそう言って、また作業に戻っていた。相変わらず彼女は真面目だ。

私はハートの女王の衣装に着替えてヘアメイクを始めた。あずにゃんのアリスと対比になるようにロング丈のドレスにした。白い襟は首回りを囲むように高く立っており、この状態をキープさせるために中に下敷きを入れている。この襟を作るのにとても手間取ったので上手く立っている状態がキープできていて私は満足した。胸元が開きすぎると100%胸を見られると思ったので、出しているのは鎖骨までにした。髪の毛はお団子にして、王冠を被り、メイクはいつもよりもアイラインを濃いめに引いて、シェーディングをしっかり入れて、全体的に威圧感のありそうなメイクにした。鏡の前に立って、完成した自分の姿を確認すると、自分の想像通りのハートの女王になっていた。セクシーだったり、可愛くやり過ぎると、私のキャラクター的に、やっかみを受けそうだったので、全体的に怖い印象を受けるようにした。

「はーい。ハートの女王完成。どう?」

私が女子達の前に姿を見せると、

「すごい!ハートの女王だ!ちょっと怖いくらい。」

「衣装しっかりしてるねー、クオリティ高すぎる。」

「おおー格好いい感じ!」

概ね良い反応をもらえた。次はいよいよあずにゃんのヘアメイクをやらなければ。私は彼女に声を掛けた。

「あずにゃん。私の準備終わったから、あずにゃんもメイクしよう。」

声を聞いて、私の方を見たあずにゃんは、

「ことちゃんカッコいい!ハートの女王にしか見えない!」

そう言って笑顔を見せてくれた。

「ありがとうー。頑張った甲斐があった。次はあずにゃんがアリスにならないとね。」

私はそう話して、あずにゃんに着替えてもらった。

アリスの衣装は、白いエプロンをつけた水色のワンピースで、ミニ丈になっており、パニエを下に履くことで、メイド服のように仕上げた。足元は白色のニーハイソックスを履き、手首には白のレース製のリストバンドを着けて、肩からは白いフリルのついた小さなポシェットをかけた。髪の毛はエクステを付けてロングヘアにした。アイロンを掛けて緩くウェーブをつけるとぐっと印象が変わった。もちろんアリスのトレードークの黒いリボンがついたカチューシャも装着した。メイクは、そもそも彼女は色白で肌がキレイだけど、ファンデーションを塗ることで、肌はさらにつやつや感が増した。可愛い印象を与えたかったので、アイシャドウは淡い色合いにして、アイラインは薄く、まつ毛はビューラーとマスカラで長くして、ピンク色のチーク、ツヤツヤのリップを付けてヘアメイクも完成した。

「これで完成。いやー、あずにゃん!すっごい似合ってる!やっぱり私の目に狂いはなかった。」

姿見の前で自分の姿を確認したあずにゃんはとても驚いていた。

「うわー…すごい…。自分じゃないみたい。こんなに短いスカート履いたのも幼稚園以来だ。…ちょっと派手じゃないかな?」

彼女は恐縮した様子で私に話してきたが、

「何言ってんのあずにゃん!ものすごーく似合ってるから。膨張色の白のニーハイ履いても足がむくんで見えないなんて、細すぎだよ。

こんなにキレイな脚は出さなきゃ損だから。そして予想通りメイク映えするよねー。さて、皆に見せよう。」

私はそう言って、あずにゃんの心配を打ち消した。彼女を想像以上に可愛いアリスにすることができて大満足だった。この可愛さなら、さすがの笹井も良い意見しか言えないだろう。彼もきっと教室の前の廊下で着替えているはずだ。私は皆の前にあずにゃんを連れて行った。

「見て見て!3年6組のアリスです!」

歓声が上がり、皆が口々に褒めてくれた。

「やばい!可愛い!」

「てか、あずにゃん脚細すぎでしょ、羨ましいー」

「エクステもメイクも似合ってる!可愛すぎるー!さすがことちゃん!」

皆から褒められて、あずにゃんは顔が真っ赤になっていた。なんて可愛いんだろう。

教室から歓声が上がったのを聞いて、廊下でトランプ兵に着替えていた男子達も教室の中を覗いてきた。

「え!山下さんすごいじゃん!」

「可愛い~」

「似合ってる似合ってる!」

男子達にも褒められて、あずにゃんはもじもじと居心地が悪そうにしていた。

「やっぱり、そもそもが可愛いだけじゃなくて、普段の頭が良くて清楚なイメージとのギャップもプラスに作用するよね。我ながら良い判断だった。」

私は自画自賛しながら、教室にいる面々を見渡した。

…笹井いないじゃん。トイレかな?

「…全く、タイミング悪いんだから。仕方ない、見せに行ってあげますか。あずにゃん行くよ。」

私はそう言って、彼女の手を引いて廊下に出た。

2人で歩いているとすれ違う人々の視線を感じる、通り過ぎた後に、私たちを見て可愛いと言っている声も聞こえて、私は意気揚々とトイレに向かった。

「ちょっと!林!笹井!」

遅う通り、トイレの前に、トランプ兵の格好をした笹井君と、鮮やかなオレンジ色のジャケットを羽織り、マッドハッターの仮装をした林がいた。

「はーい、我らのアリスを連れてきました。どう?」

私はそう言って、二人に私の姿を見せた。

「えー!めっちゃ似合ってる!可愛いね、山下さん!いつもと全然雰囲気が違う。」

林は笑顔で褒めていた。やっぱりそうだよね。可愛いよね。

「...ありがとう、ことちゃんのおかげでこんな感じです...。林君もマッドバッター似合ってるね。」

確かにあずにゃんの言う通り、林の仮装もよく似合っていた。頑張って作った帽子も、バッチリ決まっていた。

「ありがとう。元々バンド衣装で使ってたやつだからね。矢崎も似合ってる。もう、女王様にしか見えない。ひれ伏さなきゃ。」

林に讃えられたので、

「ふふふ、頭が高いわよ、皆の衆。」

とノリノリで答えた。

ふと笹井君を見ると、黙って頭を抱えていた。

さぁ、笹井、あずにゃんを褒めるんだ。そう思って、しばらく笹井が話し出すのを見ていたけど、彼は何も言わずに頭を抱えたままだった。

嘘でしょ?ここまで色々お膳立てしてあげて、まだ何も行動できないの?

これは、さすがにちょっと、いい加減にしてほしい。

しかし、その後も、笹井は何も言わなかった。

私は呆れながら口を開いた。

「...はい、もう時間切れです。全く意気地なし。いい?笹井。チャンスの神様は前髪しかないんだからね。じゃあ、また、のちほど。行灯行列で会いましょう。ごきげんよう〜。」

私はそう言うと、あずにゃんの腕を引いて、その場から連れていった。

「せっかくチャンスをあげたのに、本当に、ダメだねー。」

私はぶつぶつと文句を言いながら廊下を歩いていた。あそこまでやってあげたのに何もできない笹井はヘタレだ。もう少し頑張りを見せてくれないと、いくら林の友達とはいえ、私も笹井のことを応援したくなくなってしまう。そんなことを思っていると、3年5組の教室の前を通ったタイミングで、声をかけられた。

「あずちゃん!」

アシタカの衣装を着た浪川が、教室から廊下に出てきて、驚いた様子であずにゃんの姿をまじまじと見ていた。

「...似合ってる。アリスの仮装。可愛い。」

そう言うと、笑顔になっていた。これは、表情と態度が分かりやすい。あずにゃんのことが好きなのがよく伝わってくる。

「...ありがとう。友達が色々やってくれたおかげで、こんな感じです。浪川君もアシタカ似合ってるね。」

あずにゃんは褒められて照れくさそうだったけど、浪川の気持ちには気づいてなさそうだった。

「...写真撮ろうよ、一緒に。いい?」

おお、浪川、頑張るじゃん。偉い。

「アリスとアシタカだと、全然世界観違うけどね。それでもよければ、どうぞ。」

やっぱり浪川の真意には気づいてなさそうだけど、あずにゃんは笑顔で了承していた。

「...やっぱり、こうあるべきだよね。うんうん。では、私が写真を撮りましょう。」

私はそう言って、撮影係を申し出た。

撮影している間も浪川はずっと嬉しそうだった。なんとなくチャラそうなイメージを持っていたけど、こんな風に喜んでいる姿を見ると、真剣にあずにゃんのことを好きなように思えた。

「ありがとう。あずちゃん、本当にその仮装似合ってるから、撮れてよかった。じゃあまたね。」

浪川君は笑顔でそう言って、教室に戻っていった。

「...やっぱり、イケメンはいちいちスマートだよねー。これは、かなり差をつけられてる。」

あずにゃんを褒めることすらできない笹井と、しっかり褒めたうえに写真までお願いできていた浪川には、どう考えても、大きな差があるように見えた。このまま、浪川とあずにゃんがくっつくのもアリだと思えたけど、やっぱり林のことも考えると、あと一回くらいは笹井にチャンスをあげたい気持ちにもなった。


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