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「おはようー。」
林から到着したと連絡が届いたので、家の前に出ると、彼がそこで待っていた。
「おはよう。眠そうだね。昨日何時くらいまで作業してたの?」
目の下に隈ができて、明らかに眠そうな私の姿を見て、林が質問してきた。
「うーん。一旦寝て、早起きしてから作業再開しようかなとも思ったんだけど、一旦寝たらすぐに起きれなさそうだったから、2:30までは頑張ってた。」
現在時刻は6:30で、身支度の時間も加味すると、実質3時間半しか寝ていなかった。
「頑張ったねー。大丈夫?序盤から飛ばしすぎてない?」
林は少し、心配そうだった。
「ありがとう。作業してる間は、アドレナリンが出てるのか、全然眠くなくて、アイデアが思い浮かんで、止まらなかったから、今日はやれるだけやろうって思って頑張れたんだよね。ただ、やっぱり眠いから、今日からは無理しない。でも頑張ったおかげで、デザインとスケジュールは決められたから、良かった。それに、ハートの女王の王冠はできたから、あとで見てみて。」
私が笑顔で言うと、
「そっか、良かったね。でも、やっぱり無理しないようにね。」
彼はそう言うと、私が持っていた、ボストンバッグを持ち上げた。
教室に入ると、クラス展示担当のクラスメートが数人既に教室に来ていた。彼らに挨拶をしたあと、荷物を置いて、マッドハッターの帽子を林の前に出した。
「じゃーん!どうかな?貸してもらってた林のジャケットに、色味はかなり近い生地を使ってるから、違和感はないと思う。サイズ合ってるか見たいから、被ってみて。」
私に促された林は、帽子を被ってくれた。デザインは悪くないけど、実際に被ってもらうと、少し緩そうに見えた。
「うーん、サイズ合わせたつもりだったけど、もう少し、小さい方が良かったかもね。調整するよ。内側にタオルとか、かませようかな。」
私がそう言うと、
「でも、ちょっと緩いだけだから、被れないことはないし、良くできてるから、このままでも大丈夫だよ。落ちそうになったら、俺、手で押さえるし。」
私の作業量が増えるのが心配なのか、林がそう言ってくれたが、
「いや、やっぱりこだわりたい。行灯行列中は、両手が塞がることもあるだろうし、しっかりしたやつ作って、衣装部門でも優勝したいし。」
私がそう言うと、林は被っていた帽子を渡してきた。
「矢崎が燃えているのが分かった。頑張ってね。でも無理せず。」
優しくそう言われ、
「うん、頑張る。でも無茶はしない。たぶん今日どっかのタイミングで昼寝するかも。結構眠くなってきた。」
私がそう言うと、林は自分の鞄から、タオルを何枚か出してくれた。
「タオルあれば枕になるし、頭に掛ければ、暗くなって寝やすいし、寝顔も人に見られないから良いんじゃない?貸しておくよ。」
なんという気遣い。やっぱり林はとても優しい。
「ありがとうー。助かる。明日からは枕とアイマスク持ってくる。」
私がそう言うと、
「いや、家で寝なよ。これ以上荷物増えたら、さすがに運ぶのしんどいでしょ。」
林はそう言って笑っていた。
「あ、そうだ、女王の王冠見てよ。」
私は自分の荷物から王冠を取り出して、自分の頭に載せた。
「おおーちゃんとしてる。すごい立派だね。ひれ伏さないとダメな気になる。」
林がそう言ったので、
「そうだね、頭が高いわよ。ひれ伏してちょうだい。」
ふざけて言うと、
「ははー、女王様」
林も頭を下げるふりをしていた。
「えー、ひれ伏し方がうまい。もしかして、ひれ伏し慣れてる?」
「ひれ伏し慣れてるってなんだよ。そんなわけないじゃん。」
いつものように他愛もないやりとりで笑っていた。
林が体育館に行くのを見送った後、マッドハッターの帽子にタオルをかませてサイズを調整した。おそらくこれでぴったりになったはずだ。私は完成したマッドハッターの帽子の出来映えに、満足していた。
アリスの衣装のサイズを決めるために、あずにゃんに声を掛けた。
「あずにゃん、衣装のサイズ確認したいから、採寸させてもらっていい?」
真剣に作業をしていた彼女は、私に話しかけられたことに気付いて、こちらを見た。
「分かった、今すぐ行くね」
そう答えると、私の近くまで来てくれた。早速、採寸を始めると、彼女の華奢さがよく分かった。ウェストを測ると、56cmしかなくて、驚いてしまった。
「あずにゃん、細すぎ。ちゃんと食べてる?心配になってきた。華奢すぎる。」
私が言うと、
「食べてるよー。甘い物も好きだし。」
彼女は笑顔で話していた。
「…もしかして、食べてもあんまり太らないタイプ?」
私が尋ねると、
「うーん。確かに、あんまり変わらないかも。」
彼女がそう答えていて、食べた分だけ太る私は羨ましい限りだった。
「これで良し。ありがとうね。もう全部、測れたから、戻ってもらって大丈夫だよ。」
あずにゃんにお礼を言うと、
「分かった。ことちゃん、ありがとうね。本当にお疲れ様。」
彼女もお礼を言ってきて、さっきまで作業をしていた自分の席に戻っていった。
あずにゃんは華奢だけど、ウエストが細く、しっかりとくびれがあるので幼児体型ではない。ウエストの切り返しをしっかりつけて、細くてキレイな脚を見せるためにスカートはミニ丈にしよう。採寸したあずにゃんのサイズの一覧を見ながら、完成イメージを膨らませた。絶対可愛いアリスにしなければ。
午前中いっぱい作業を続けて、お昼ご飯を食べ終わった後に、抗いきれない眠気に襲われた。
「…ごめん、昨日3時間半しか寝てないから、少し寝ても良い?30分くらいしたら起きます。」
衣装担当の皆に宣言して、林から借りたタオルを枕にして、頭の上からもタオルを掛けて、机の上に突っ伏した。タオルから林の匂いがして、なんだか穏やかな気持ちで眠りについた。
目覚ましのアラームが鳴ったので目を覚ますと、テーブルの上にクッキーの小袋が置かれていた。買った覚えがないので不思議に思っていると、
「あ、おはよう、琴音ちゃん。さっき、先生からの差し入れのお菓子を林君達が持ってきてくれて、皆、一斉に取りにきて無くなりそうだったから、林君が琴音ちゃんの分取って置いといてくれてたよ。」
真理子ちゃんが教えてくれた。優しいな林。
クッキーの小袋を手に取ると、裏に何かくっついていた。裏返すと、付箋が貼ってあった。
”ゆっくり休んでね。ファイト。”
林からのメッセージだった。私はそれを読んで思わず顔がほころんだ。
私が恋愛できない人間だから良いけど、普通の子だったら、こんなこと書かれてたら好きになっちゃうんだろうなと思ってしまった。
行灯は進捗状況が思わしくないらしく、20:00まで作業した後も、担当のメンバーが集まって、ファミレスで作業を続けるとのことだった。私はその日は真っ直ぐ家に帰り、引き続き作業を続けた。すると林からメッセージが届いた。
“明日も朝、迎えに行こうか?荷物あるでしょ?”
自分も夜遅くまで集まって作業しているのに、私のことを気遣うとは、本当に優しい。でも、ミシンを使う作業は学校でやることにして、ミシンを学校に置いてきていたので、
“ありがとう。でも、ミシンは学校に置いておくことにしたから、大丈夫だよ。林も今日遅くまで作業しただろうから、明日は直接学校で会おう。おやすみなさい。”
そう返信して、私は作業を終えて寝ることにした。
翌朝も6:30に家を出て、学校に向かった。教室に入ると、そこには林がいた。
「おはよう。昨日はお疲れ様、何時くらいまで作業してたの?」
私が尋ねると、
「おはよう。実は昨日、ファミレスで作業しようとしたら、店員さんに注意されたから、あんまりできてないんだよね。だから、リーダーの高野が今日と明日もう少し夜遅くまで作業できないか、 先生に交渉するらしい。間に合えば良いんだけどねー。」
林は困ったように笑っていた。
「そっかー。チェシャ猫って構造複雑そうだもんね。早くできると良いね。頑張ってね。」
私がそう伝えると、
「ありがとう。とにかくリーダーの指示通りに動いて、なんとか完成させるよ。矢崎はちゃんと寝た?昨日教室ですごいぐっすり寝てたから。」
林に爆睡していたことを指摘されて、私は少し恥ずかしくなった。
「いびきかいてなかったかが心配。本当に気絶したくらいの勢いで寝たから、自分でびっくりした。貸してくれたタオル、今日洗ってもらってるから、明日には返すね。あと、クッキーもありがとう。メッセージもすごい嬉しかった。おかげで頑張れた。」
林の気遣いのおかげで、休めたうえに、元気が出た。私は直接感謝を伝えたかった。
「それならよかった。クッキーすごい勢いでみんな食べてたから、取っておかないと無くなりそうだったんだよ。」
おそらく、クッキーに群がるクラスメートを思い出したのか、楽しそうに笑いながら話していた。
「じゃあ、お互い頑張りましょうってことで。...あ、マッドハッターの帽子直したからつけてみてくれる?」
私は帽子を取り出して、林に渡した。
林が帽子をつけると、今度はサイズがぴったりだった。
「すごい。ぴったり。矢崎ありがとう。本当にお疲れ様。」
彼は、鏡に映る帽子を被った自分の姿を見ながら、嬉しそうにお礼を言っていた。
「これで、マッドハッターは完成したから、あとはハートの女王とアリスを完成させるのみ。よし、あと3日頑張る!」
私は気合いを入れ直した。




