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憂鬱な気持ちで教室に戻ると、もう帰ったと思っていた林がその場にいて驚いた。
「え、びっくりした。帰ってなかったんだ。」
私が言うと、
「いやー、なんか、女子に呼び出されるのって、あんまりいいことじゃなさそうな気がして。大丈夫だった?カツアゲとかされてない?しめられてない?」
林は少しふざけながらも、私のことを心配してくれていたようだった。その気遣いが嬉しくて、少し泣きそうになってしまった。
「カツアゲはされてない。しめられても…いや、しめられたっちゃ、しめられたか。」
私が笑いながら言うと、
「え?大丈夫?」
林が心配そうな顔をした。
「うーん。まぁ、よくある話なんだけど、林君。きみ、モテるじゃないですか?」
私が少しふざけたように言うと、林は何かを察したようだった。
「あー。俺と矢崎が付き合ってるか確認してきた感じ?」
「そう。なので、友達だと伝えたら、じゃあ、林との仲を取り持ってほしいとお願いされた感じですね。」
私が苦笑いをしながら言うと、林も苦笑いしていた。林と友井さんの仲が今後、近づく可能性も考えて、彼女たちに抱いた負の感情は伝えないようにした。もし、林と今のような距離感でいられなくなっても、私は林に嫌われるのは嫌だった。
「よくある話か...なんか、ごめんね。俺のせいで。俺に直接声かけてくれれば良いのにね。矢崎を呼び出してた、あの場に俺もいたんだから。」
林は困ったように笑いながら話していた。
「まぁ、仕方ないよ。きっと彼女なりに慎重に動きたかったんじゃない?
それで、勝手に決めちゃって申し訳ないんだけど、林と話したいらしいから、明日委員会の当番が終わったら、彼女のクラスの前に、行ってきてあげられるかな?本当にごめん。そう言わないと、解放してもらえなさそうな雰囲気だったから。」
私は両手を合わせて謝りながら、伝えた。
「明日ね...分かった。大丈夫だよ、謝らなくても。空気読まなきゃいけなかった感じでしょ?まぁ、俺からも話しておかなきゃね。」
林はそう言っていた。
翌日、当番が終わったあと、私は2組に向かう林を見送ってから、家へと帰っていた。
もし、林が友井さんと付き合うことになったら、私は林と今までのように仲良くはいられないな。やっと、同じ”地球の人”だと思える人だったのに、残念だな。でも仕方ないか、だって
私は誰かと付き合うことはできないんだから。
そう思っていたタイミングで、メッセージが届いた。確認すると、林からだった。
“今帰り道?もし今日予定ないなら、どこか行かない?”
メッセージの内容に驚いた。友井さんのことは大丈夫なのだろうか?でも、私も林と話したかったので、すぐに返信して、近くのコンビニで落ち合うことにした。そこに向かうと、既に彼は着いていて、雑誌コーナーで立ち読みしていた。
「お待たせ。大丈夫だったの?」
私が聞くと、
「うん。まぁ、大丈夫なんじゃない?それに、俺、誰と仲良くするかは、自分で決めたいしね。」
林にそう言ってもらえたことが、私はとても嬉しかった。私も林と仲良くしていきたい。これからも。だから、私はあの話を林にしようと決めた。
「何か食べに行く?遊びに行きたいところとかある?」
林に聞かれて、
「そうだね...。ここは、青春っぽく、海、見に行こうよ。なんか飲み物とか買って。」
私が言うと、
「おお、それは青春っぽい。やろう。」
林は笑顔で同意してくれた。コンビニでお互いに飲み物を買って、歩いて30分ほどの海に向かった。
「天気良くてよかったねー。きれいに見える。」
2人で堤防に腰をかけて、買ってきたお茶を飲みながら、私は言った。
「本当だね。これでもし、荒れてたら、青春感が減るなぁ。青春なら、晴れてるきれいな海じゃないと。」
林は笑いながら話していた。私は話している林の横顔を見ながら、話そうと決めていたことを、切り出していた。
「あのさ、急だけど...ちょっと、重い話しても大丈夫?今まで、誰にも話したことないんだけど、林には話したくて。」
私が真剣な表情で切り出すと、林は少しだけ驚いた表情をした後に、優しい笑顔になった。
「俺でよければ、どうぞ。話して。」
私は深呼吸してから、口を開いた。
「私さ、たぶん、誰かと付き合うのができないんだよね。」
私は昔から恋愛感情というものがよく分からなかった。友達として仲良くしたいという気持ちを持つことはあっても、誰かを好きで、付き合いたい、触れ合いたいという気持ちを持つことはなかった。だから、周りの友達が好きな男の子の話をしていても、あまりピンと来なくて、お付き合いをしてる友達が、相手と触れ合えて喜んでる姿も、自分にはよく理解できなくて、不思議な感覚で見ていた。
中学生の頃、友達だと思っていた同級生の男子から、告白され、正直困ってしまった。付き合ってほしいと言われても、その感覚が分からないと伝えると、友達みたいな感覚でいいからと押し切られて、しぶしぶ了承した。
すると数日後、彼から今日は親がいないから、家に来ないかと誘われた。私はその言葉の意味がよく分からず、何も考えずについて行った。彼の部屋に入ると、急に手を握られた。今まで彼に触れられたことがなかったので、驚いて彼を見ると、彼は鼻息荒く私のことを見ていた。彼の目はギラギラしてて、私に対して欲情しているのが分かった。その目がとても怖くて、気持ち悪いと思った。私が何も言えずにいると、そのまま抱きしめられて、押し倒された。胸を触られて、キスをされた瞬間、私は嫌悪感でいっぱいになった。
「やめて!」そう叫ぶと、彼は少し怯んだので、必死で身体を押し避けて、その場から逃げた。帰り道、私は震えが止まらなくて、泣きながら帰った。
その日のうちに彼に”別れてください”とメッセージを送って、翌日から彼のことを避け続けた。
それ以来、私は、自分に性欲を向けられることがとても嫌なことが分かった。好きな相手に触れたいという感覚が分からなかった。それに気づいてから、私は誰かとお付き合いをするということが無理なんだと悟った。
「だから、それ以来、誰かに告白されても断ってたし、そもそも告白させないように気をつけることにしたんだ。この人、私のこと、恋愛対象として見てるなとか、性欲の対象として見てるなって分かると、嫌だし、怖くなる。あくまで、友達としてなら、仲良くできるけど、それ以上の感情を向けられるのが、どうしても無理なんだよね。こんなんだから、きっと私は、誰かと付き合うとか、ましてや結婚するとかできないだろうなって思う。仕方ないんだけどさ。」
林は、私の長い話を静かに聞いてくれていた。
「林はさ、私に対してそういう目線で見てないなって思ったから、話しちゃった。私の勘違いだったら申し訳ないけど。」
私がそう言うと、林は黙ったままだった。私はだんだん不安になってきてしまった。
「...なんか、ごめんね、急にこんな話して。迷惑だったらごめん。」
ずっと1人で抱えてきて、誰にも言えなかったことを、話したいと思う相手が現れて、つい話してしまったけど、これで否定されたり、拒否されたら、きっととても悲しい。私は林がどんな反応をするのかが、すごく怖かった。
すると、しばらくして、林が口を開いた。
「...大変だったね。矢崎。話してくれてありがとう。」
そう言われて、彼が私のことを優しく見てくれた瞬間、私は泣いてしまった。
あぁ、分かってもらえたのかもしれない。
すると、林は持っていたポケットティッシュを渡してくれた。
「えーっと、あくまで友達として、矢崎を慰めるために、背中をさすりたいんだけど大丈夫?触られるのが嫌だったら言ってね。」
そう確認してくれる林の優しさが嬉しくて、私は何度も頷いた。
「嫌な経験したね。大変だったね。自分が望んでいない気持ちを、誰かから向けられるって、しんどいよね。」
林は私の背中をさすりながら優しく声をかけてくれた。
「俺は、矢崎のこと大事な友達だって思ってる。今のまま、仲の良い友達として、付き合っていきたいと思ってる。だから安心してほしい。」
あぁ、こんなに嬉しいことはない。こんな風に言ってくれる異性の友達が現れるなんて、夢みたいだ。
「ありがとう、林。これからも友達でいてくれるのが嬉しい。」
私は泣きながら、笑顔を作って、感謝を伝えた。
そんな私を見た林は、いつも以上に優しく笑っていた。
しばらくしてから泣き止んだ私は、とても晴れやかな気持ちになっていた。
「あー、良かった。本当に。話を聞いてくれてありがとう。すごい感謝してる。」
おそらく、ひどく腫れたままの目で私は林を見つめながらお礼を言った。
「どういたしまして。同じ”地球の人”だからさ。俺は。役に立てて良かったよ。」
林はそう言った後、少し考えるように黙ってから、口を開いた。
「良かったら、俺も自分の話してもいい?」




