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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 笹井の出る大会はまだ少し先なので、それまでの間、笹井があずにゃんのことを相変わらず見ているだけなことには目を瞑ろうと思った。学校以外で会えるのであれば、さすがに、少しは2人の距離も近づくだろう。

その日の放課後、教室で美化委員の仕事をしているときに、私と林はまた2人について話していた。

「陽介は、なんかずっとご機嫌で嬉しそうだったよ。まぁ、自分が一生懸命やってきたことを、見てもらえるなんて、絶対気合い入るだろうしねー。頑張って欲しい。」

林は目を細めて嬉しそうに話していた。

「あずにゃんは、次の休憩時間には、いつも通り勉強に集中してた。これが勉強中も上の空になるくらいになれば、上手くいくと思うんだけどねー。」

さっきまでの興奮が嘘のように、一瞬で切り替えて勉強に集中するあずにゃんの姿は、通常運転過ぎて少し面白かった。

「なるほどねー…てか、さっきから気になってたんだけど、そのキーホルダーってもしかして…。」

林が、私の筆箱についてるキーホルダーを指さした。

「あぁ、これ?この前、観に行った映画のグッズ。面白かったから、記念に何か欲しくて、つい、買っちゃった。」

私が観た映画は、比較的マイナーな作品で、上映されている映画館が少なく、市内の映画館では上映していなかったので、電車を乗り継いで、近隣で一番大きいK市の映画館で観たのだった。

「びっくりした。俺もこの前それ観た。K市まで行って。えー、俺以外に観に行ってる人初めて観た。」

林はそう言って嬉しそうに笑っていた。

「そうなの?!私もびっくりした。私以外に観てる人いるんだ。」

まさか、自分以外に観ている人間が身近にいると思わず、私はテンションが上がった。そこからお互いに今まで観た中で、好きだった映画やアニメ、ドラマ、本、漫画の話をしてみると、被っている物が多いことが分かった。極めつけに、中学生の時、全員提出が義務付けられていたため、ふざけて書いて提出した、標語が、文化祭のスローガンとして採用されてしまったことがあるという共通のエピソードがあった。

「気が合うとは思っていたけど、ここまで被ってくると逆に怖いわ。え?双子とかなの私たち?」

私が笑いながら言うと、

「さすがに、それはない。」

林も笑っていた。

「え?矢崎、バンドでベース弾いてないよね?」

林は校外の人と組んでいるバンドで、ベースを担当している。

「残念ながら、楽器はリコーダー以外触ったことない。え、林って私みたいに、趣味、裁縫じゃないよね?ミシンとか持ってたりする?」

私は裁縫が趣味で、手芸はもちろん、ミシンでも色々作るのが好きだった。

「残念だけど、ミシンは持ってないし、手芸はやったことはない。」

そう言ってまた笑い合っていた。おそらく私と林は感性が似ているのだろう。ここまで自分に似ていて、仲良くできる人に私は人生で初めて出会った。これはとても貴重だ。…もしかしたら、あの話を共感してもらえるかもしれない。引かれるかもしれないけど、もしも、私と同じように感じてもらえたら、本当に嬉しい。私は深呼吸をしてから口を開いた。

「…あのさ、私、友達との関係って、天体で例えられるかなって思ってるんだけど…ちょっと語ってもいい?持論。」

私がそう言うと、林は興味深そうに私の顔を見てきた。

「えー、何それ、聞きたい、教えて。」

そう言って笑ってくれたので、私は語り始めた。

「宇宙ってたくさんの銀河があるじゃん?で、その中の、天の川銀河の中の、太陽系に地球があるけど、話していて、感覚が合うなって思う人は、同じ太陽系の人で、仲良くなれる友達。合わないけど、人として好きだなって人は、太陽系ではないけど、同じ天の川銀河の人。全然合わないし、人としても苦手だなって人は、違う銀河の人。それで、同じ太陽系の惑星の中の人でも、特に仲良くなれる距離感の近い、水星、金星、火星、木星辺り人と、距離感は遠いけど、友達って言える、土星、天王星、海王星くらいの人がいて、究極に仲良くなれるのは、私と同じく地球にいるなって感じる人。正直、今までの私の人生で、同じ地球にいる人だなって思える人は、いなかった。あずにゃんは、大好きだけど、私と違ってて、羨ましいなって思うこともあるから、なんとなく火星の人のイメージ…この説明で伝わってる?」

林が静かに聞いていたので、反応が気になって聞いてみると、

「うん。分かる気がする。あと、天体の勉強になって面白い。」

林はそう言って笑っていた。

「…それで、私は...林は同じ地球の人だなって思った。友達として、ここまで感覚とかが合う人がいなかったから、なんていうか…感動してる。」

話しながら、まるで愛の告白だと思った。そんなつもりはないのだけれど、なんとなく、林になら、この感覚を分かってもらえる気がした。友達として、ここまで自分を出せる相手に出会えたことを、私は奇跡的に感じていた。

林はしばらく黙っていたので、もしかして引かれてしまったかもしれないと思い、内心少し焦っていると、

「…矢崎の持論、分かる気がする。確かに俺も、同じ太陽系の人は出会ってきたけど、地球の人は…いなかったかな。それに、これが大事なことだけど、俺としても矢崎は初めての同じ地球の人かもしれない。だから、矢崎にそう思ってもらえて、嬉しい。」

林がそう笑顔で応えてくれて、私は泣きそうになるほど嬉しかった。

林は私の大切な友達だ。

「…じゃあ、これからも同じ”地球の人”として、よろしくお願いします。」

私がそう言って頭を下げると、

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

そう言って林も頭を下げた。そのあと、目が合うと、お互いに吹き出して、しばらく笑っていた。

 林を”地球の人”認定した日から、私たちはますます、よく話すようになった。そんな風に一緒にいることが多くなると、周囲から、付き合っているのか質問されることが何度かあった。でも、その度に友達だと答えていた。今までだったら、トラブルに巻き込まれたり、誰とでも分け隔てなく話す矢崎さんというイメージを守るために、特定の男子と仲良くなることを避けていたけれど、周囲の目を気にするよりも、林と一緒にいるほうが圧倒的に楽しかった。しかし、そんな風に過ごしていると、やっぱり問題が起きた。


「矢崎さんって、林君と付き合ってるの?」

2組の美化委員で、吹奏楽部所属の友井さんに質問された。委員会終わりに、友井さんに、聞きたいことがあるから来て欲しいと声を掛けられたのでついていくと、その場には同じく吹奏楽部に所属する2人の女子がいた。なんとなく嫌な予感がしていたら、先ほどの質問をされたのだった。やっぱり予想通りで、私は気が重くなった。しかし、それを顔に出すと、トラブルの元になる。私は気を引き締めて、笑顔を作った。

「付き合ってないよ。委員が同じになったから、話す機会が増えて、友達になっただけで。」

私はにこやかに、感じ良く、愛想良くを心がけて、質問に答えた。

「よかったー。2人が仲よさそうだし、付き合ってるんじゃないかって噂聞いたから、私たち、びっくりしちゃって。」

友井さんの隣にいた女子がほっとしたような表情で話していた。確か、小川さんだったかな。

「実は、有紗、ずっと林君に片思いしてて…一緒の委員会になったから、距離を縮められるかもって話してたら、ほら、矢崎さんといつも話してるし、なかなか話す機会も作れないみたいで…。」

もう1人の女子が私の顔色を窺いながら、話してきた。名前なんだっけ?分からないけど、まぁいいか。つまり、友井さんと、林が仲良くなるのに、私が邪魔だって言いたいことは分かったから。

「矢崎さん、林君と仲良いなら、間、取り持ってくれない?私、せっかく同じ委員になれたのに、まだ話せてなくて、焦っちゃって。」

そう言いながら上目遣いでこちらを見てくる友井さんと、彼女を手助けするように私に”空気を読め”と言う目線を送ってくる彼女たちは、絶対に、私とは違う銀河の人間だ。

「…協力すればいい感じかな?どうすればいい?林には友井さんの気持ち、どれくらい伝えても大丈夫?」

私が作り笑顔で応えると、3人は顔を見合わせて、やったね、と言い合っていた。

「私が、林君のこと、気になってるって言うのは…もう伝えてもらって大丈夫。可能なら、一緒に帰るようになりたい。」

友井さんが照れくさそうに言うと、隣にいた2人は、きゃーきゃー言いながらはしゃいでいた。私は、内心冷めていながらも、笑顔の仮面を被り、その様子を見ていた。

「…じゃあ、明日、ちょうど、私と林、美化委員の清掃当番の日だし、友井さん達も、そうだよね?終わったら、友井さんのクラスの前で落ち合う感じはどうかな?林に言っておくよ。」

私が作り笑顔を崩さないまま、そう提案すると、友井さん達は喜んでいた。

…ばかばかしい。そんなに林と仲良くなりたいなら、自分で動けば良いのに。自分1人では動けなくて、関係のない友達に一緒に居てもらえないと、私に声を掛ける勇気もないくせに…いや、これはあえて、牽制をしている面あるのだろう、林に近づくなって、圧をかけているつもりなのかもしれない。いずれにせよ、彼女たちのようなタイプの女子が、林と付き合うことを想像するだけで嫌だけど、私に彼の恋愛事情に口を出す権利はない。林に許可を取らずに、約束を取り付けたのは申し訳ないけれど、ここでヘタなことを言ったら、どんな噂を流されるか分からない。空気を読んで行動することに長けている林なら、たぶん、分かってくれるだろうと思った。

こんな状況は初めてではない。私がそこそこ仲良くしている男子と付き合いたい女子が、私に仲を取り持つ様に言ってきて、ついでに私に邪魔をするなと牽制してくるのだ。こんなのは慣れっこだ。

…でもそのたびに思ってしまう。私とその男子が今まで築いてきた友情よりも、彼のことを好きだというその女子の愛情の方が、絶対的に優先されるのはおかしいと思ってはいけないのか。

そんなことを口にしたら、きっと私は猛攻撃を受けるんだろう。分かっている。自分が言っていることは世間一般に受け入れられることではないって。

"彼氏"と"彼女"の関係性こそが最も優先されるべきなのだって。


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