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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 「いやー、矢崎に詰められる陽介、面白かったなー。本人にとっては深刻な状況だから、笑っちゃうのは可哀想なんだけど。」

林は、思い出し笑いをしながら話していた。

今日は美化委員の当番で、私たちは、花壇の管理に必要な道具の点検作業を二人でしていた。

「あれだけ、あずにゃんのこと見てて、周りに見ているのに気付かれてないと思ってるのがすごいよね。でも、危機感がないのはまずいよ。あずにゃん可愛いし、良い子なんだから。」

2人になると、笹井とあずにゃんの話題が出るようになった。

「一応、2年生の時に俺も言ってたんだけどねー。山下さんは普通に可愛いから、彼氏できる可能性全然あると思うよーって。でも、奥手でシャイなんですよ、彼は。そして、矢崎が、想像以上に山下さんのこと好きなのもよく分かった。」

林にそう言われ、

「うん。あずにゃんのこと大好きなんだよね。あの子は、自分自身をしっかりもってて、周りの意見に左右されないで、良いと思ったら良いって言ってくれるから、なんか安心する。ほら、私は、いつも周りの顔色を見て上手く立ち回ることばかり考えているから…正直、羨ましくて、眩しい気持ちもある。あんな風に真っ直ぐ育ちたかったなー私も。」

話していて、思いの外しんみりしてしまったので、別の話題に変えようとしていると、

「周りの顔色、窺っちゃうの分かるよ。俺も、敵意を持たれたくなくて、必要以上に笑顔でいるからさ。」

林はそう言って少し悲しそうに笑った。

「もしかして、矢崎もそうなのかなって思ってたけど、いつも笑顔で感じ良くするのって、上手くやるための処世術だよね。」

あぁ、やっぱり、私たちは似ている。この感覚は間違いではないんだ。

「うん。自惚れてるとか、調子に乗ってるとか思われるかもしれないけど、私、男ウケ良い顔してるらしくて、割とモテるんだ。そのせいで、女子の中の人間関係が上手くいかないこともあったから。私としては、基本的にいろんな人と仲良くしたいんだけど、何も考えずに行動すると、思わせぶりとか、男好きとか、調子に乗ってるとか、色々言われちゃうから。人間関係で揉めないように、まず、男女問わず、笑顔で、愛想良く、ノリ良くを心がけて、良い子だなって思われるように努力してる。それに男子と話すときは予防線をたくさん張りまくって、告白まではさせないようにしている。素直に思った通りの行動を取って、上手くいった試しがない。」

一度話し出すと、止まらなかった。ダメだな。普段はこんなこと言わないようにしているのに。男子相手に自己開示をしすぎるのは、好意を持たれるきっかけになってしまうのに。

それでも、林には、つい、話したいと思ってしまった。

「そっか。大変だったんだね。分かるよ、とか気軽に共感するのは良くないかもしれないけどさ。俺もさ、わりと家庭が複雑なんだけど…大人達って、不機嫌で静かな子供よりも、いつも笑顔で愛想良い子の方が好きなんだよね。それに気付いてからは、基本的に笑顔でいるのがクセになっちゃって。そのまま成長しちゃったもんだから、今も必要以上に笑顔を見せちゃう。でもさ、笑顔で、物腰柔らかく、自己主張せずにいるとさ…舐められるんだよね。結構。だから、いい加減、愛想良くし過ぎるの辞めたいんだけど、長年のクセって怖いね。なかなか変えられない。…困っちゃうよね。」

そう話す、林は笑顔だけど、とても悲しそうに見えた。

笑顔で、愛想良くいることは、周りと上手くやるための処世術だけど、たまに自分の心が削られる感覚になる。本当は怒りたいのに、悲しいのに、辛いのに、それでも笑顔でいることは、自分の心に嘘をつくことなのだ。それは時として、とてもしんどい。

「林、もうさ、お互い2人でいるときは、愛想良くを心がけず、気楽に話そうよ。似たもの同士なのがよく分かったし。」

私がそう言うと、林は少し驚いた表情をした後に、いつもより優しい笑顔になった。こんなことを言って、林に好意を持たれたら困ると考える前に、自分と同じことで困っている友達の気を少しでも楽にしてあげたいと思った。

「…じゃあ。優しい友達の言葉に甘えようかな。」

そう応える林は、いつもより穏やかな表情をしていた。

「矢崎が山下さんのこと好きなように、俺も…陽介のこと好きなんだよね。あいつは、素直だし、嘘ついたり、誤魔化したりしないから、結構、素の自分でいられる。なんていうか、信頼できる。だから…矢崎が、陽介を山下さんに相応しいって、認めてくれたら、嬉しいな。今のところ、一番の関門は矢崎な気がする。」

林が私の表情を窺うように、言ってきて、私は思わず笑ってしまった。

「人を、意地悪なお姑さんみたいに言わないでよ。まぁ、少なくとも、私は林のことを信頼しているから、その林からの信用を勝ち取っている笹井のことは、前向きに認めてあげても良いかもしれない。でも、いつまでもただ見てるだけで、行動を起こさないなら、どうかなー?まだ保留で。」

私がそう言うと、

「いやー手厳しいなあ。うちの陽介君をよろしくお願いしますよ。」

林がそう言って、手でゴマをする動きをしていたので、私は吹き出してしまった。

「ちょっと、分かりやすくゴマすらないでよ。」

私が笑いながら言うと、

「陽介、実はダンスやってて、踊ってる姿はいつもと全然雰囲気が違って、カッコいいので。ギャップも満載なので。」

笹井がダンスをやってる話を始めて聞いた。

「え、笹井ってダンスやってるの?部活じゃないよね?」

驚いて、私が質問すると、

「あー、本人が自分から話してないから、知らない人も多いけど、結構、本格的にダンスやってるんだよ。確か小学生のときからスタジオ通ってて、今はキッズクラスのトレーナーもしてるはず。いろんな大会で優勝してて、連覇とかもしてるし、わりとすごいんだよ。」

林はまるで自分のことのように嬉しそうに話した。その表情で、林が笹井を大切な友達だと思っているのが分かった。

笹井、ダンスやってるんだ。確かにギャップがすごい。

「あー、何かがきっかけで、山下さんが、ダンスしてる陽介に興味持ったりしないかなー。」

天を仰ぎながら話す林を見て、

「いやー、そんな上手くいくかなあ?」

私はそう言った。


 しかし、数日後、そのまさかの展開になった。いつものように、朝、人がまばらな教室に入ると、なんと、あずにゃんが、興奮しながら、満面の笑みで笹井に話しかけていた。彼女が、あそこまで楽しそうに話す姿は、宝塚歌劇団について語るときくらいしか見たことがなかったので、正直、とても驚いた。そして、話しかけられている笹井は、真っ赤な顔をして、動揺しながらも、すごく嬉しそうだった。その様子を横目で見ながら、私は自分の席に座った。笹井と話し終わったあずにゃんは、とても満足そうに、自分の席に戻ってきた。これは…一体、何が起こったのだろう。

「ことちゃん、おはよう。」

いつもよりも5割増しくらいの笑顔で、あずにゃんは挨拶してきた。これはご機嫌だ。

「おはよう。さっき、笹井と何話してたの?」

なぜ、あんな展開になっていたのかが気になり、質問すると、

「笹井君ってダンスやってるんだよね。昨日たまたま、受験対策の時に聞いたんだけど。それで、笹井君が通ってるダンススタジオのホームページを見たら、ダンス動画が載ってて、それを見たら…笹井君、信じられないくらいダンス上手くて、すっごいかっこ良かったの。私、動画観て、興奮しちゃって…何回も繰り返し観ちゃった。それで、すごい感動したことを本人に伝えたら、もうすぐ大会があるらしくて、観に来る?って誘ってもらえて、ダンス、生で観られることになったの。もう、すごい楽しみ。笹井君、振り付けも自分で作ってるらしくて、本当に天才だと思う。」

とても楽しそうに話す、あずにゃんを見て驚くともに、笹井にとって、またとない大チャンスが来ていると思った。なによりまず、この状況を願っていた林に報告したい。

数分後、教室に入ってくる林を確認した私は、彼の元に駆け寄った。

「おはよう、今すぐ報告しなければいけない、大ニュースがあります。ちょっと外で話そう。」

小声だけど、一気に早口で捲し立てる私の勢いに押されながら、

「おはよう、緊急事態って感じか。行く行く。」

林はそう答えてくれたので、一緒に人気の少ない昇降口の辺りに向かった。

「あのね、林の予想が当たった。あずにゃん、笹井のダンス動画見て、笹井のダンスに夢中になってる。今朝、教室で、笹井に興奮しながら話しかけてて、本当にびっくりした。話しかけられてた笹井は顔を真っ赤にしていました。」

私が報告すると、林はとても驚いていた。

「え!本当に?まさか、現実になるとは...山下さん、そんなに陽介のダンスにハマってくれたの?」

信じられないという表情で、彼は話していた。

「すごかったよ。 大絶賛。もう、宝塚の話してる時くらい目がキラキラしてた。しかも、今度、笹井が出る大会を見に行く約束までしてたよ。これは...さすがに仲が進展するかも。いや、本当にまさかだわ。」

私も状況を説明しながら、信じられない気持ちでいた。基本的に他人を気にしないあずにゃんが、自分から、あそこまで興奮しながら感想を伝えに行くとは、よっぽど笹井のダンスが彼女に刺さったらしい。

「「びっくりしたー。」」

また同じセリフを言ってしまい、私たちはお互いに顔を見合わせて笑ってしまった。



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