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我ながら重い考えかもしれないけど、あずにゃんは、私にとって大事な友達だから、彼女には常に幸せであって欲しい。そうなると、あずにゃんが笹井のことをどう思っているのかが気になった。好きでもない人間に好かれることほど、面倒なことはない。しょうもない相手だったら、切り捨てたいところだけど、笹井は林の友達だ。林が良い人なのはこの数日で仲良くなってよく分かった。その林の友達という点で、笹井も悪い人ではなさそうな気がしていた。
「あずにゃんって、AO入試のための受験対策講習?みたいなので笹井と一緒なんだよね?」
前に進路について話したときに、Y県立医大のAO入試を受験するから、週に2回、進路指導室で受験対策講習をしていると、あずにゃんから聞いていた。確か、彼女と笹井の2人が参加していたはずだ。
「うん、そうだよ。玉木先生からは、また人数は変わるかもしれないけど、今のところ、私と笹井君の2人が受験予定だって聞いてる。」
もしかして、笹井が動かない理由って、同じ進路で、フラれたり、付き合えても別れたりしたら、気まずいと考えているからなのか。
「そうなんだー。私、笹井と話したことないんだけど、どんな人?」
笹井の真意は、本人に今度直接聞くとして、あずにゃんが笹井のことをどう思っているのかが一番重要だ。
「うーん。笹井君、数学得意だから、分からない問題教えてもらってる。教え方が上手だから、すごいありがたいんだよね。」
勉強を教えてもらっているってことは、思っていたより距離は近そうだ。それくらいの距離感なら、教室でも話しても良さそうだけど、なぜ、見ているだけなんだろう。
「へー。確かに笹井、数学成績良いもんね。目つきが怖いから、ちょっと怖い人だと思ってたけど、良い人なんだね。」
私がそう言うと、
「うん。家が近いから、帰り道も送ってくれるし、良い人だよ。」
そこで笹井の話題は終わった。それ以上の情報が出てこない時点で、あずにゃんは”数学が得意で教えてくれる良い人”以上の感情を、笹井に対して抱いていないようだった。悪い感情は持っていなさそうだけど、だからといって、好きと言えるほどの感情を持ってもいなさそう。
…せっかく、週に2回も、2人で同じ時間を過ごして、帰り道まで一緒なのに、このチャンスを生かさない笹井は、一体何をやっているんだ?もっと距離を縮める努力をしなさいよ。
正直そう思わずにはいられなかった。
そしてこの日も、日中の笹井は、あずにゃんのことを見つめるだけだった。私はそんな笹井に対して段々イライラしてきた。あずにゃんのことを好きになるのが自分だけとか思って、余裕こいてるなら、その考えは非常に甘い。あの子はすごい魅力的なのだ。
そんな風に思ってしまい、自分の中にある、あずにゃんへの大きすぎる愛を認識して、少し笑ってしまった。
その日の放課後、林と笹井の2人が教室に残っていたので、私は笹井に話しかけた。
「笹井ってさ、いつもあずにゃんのこと見てるよね。」
私がそう言うと、彼は目を見開いて驚いていた。咄嗟に林のことを見たので、林が私にばらしたのかと思ったようだった。残念ながら、林はそんな薄情な人間ではない。
「あぁ、別に林から何か聞いたわけじゃないよ。普通に気付いた。だって、あれだけ、じーっとあずにゃんのこと見てたら、気付くでしょ。」
私がそう言うと、笹井は愕然とした表情をしたまま、黙り込んでしまった。
本当に自分があずにゃんを見ていることがバレていないと思っていたのなら、それはさすがに自分を客観視できていなさすぎる。そんな笹井の様子を見た林は、耐えきれずに笑い出した。
「ほらー、気付くでしょ?俺も1年生の時すぐに分かったもん。」
ケラケラ笑う林と、対照的に呆然としている笹井の様子を私は交互に見ていた。これだけのリアクションを取っているということは、あずにゃんのことを好きだと白状しているようなものだけど、ちゃんと言質は取っておきたい。
「それだけ見てるってことは好きなんだよね?あずにゃんのこと。」
私が聞くと、笹井は観念したように、
「…そうだけど…。」
と答えていた。私に、あずにゃんのことを好きなことを知られたのが不満そうな様子だったが、自分の振る舞いで、行為がバレているのだから、はっきり言って自業自得だ。
そう思っていると、笹井がハッとした表情になった。
「…山下って、俺が山下のこと見てるの、気付いてるかな?」
普通の女子なら、間違いなく気付きそうだけど、あずにゃんは違う。そのことを幸運に思った方が良いと心の中で思いながら、
「いや、絶対気付いてない。あずにゃん、勉強中ものすごい集中してるから、私が話しかけても気付かないこともあるくらいだし、周りの視線とか絶対気にしてないと思う。」
私はそう答えた。私の話を聞いて、明らかに笹井はほっとしていた。
いや、”山下にバレてなくて良かった”じゃないのよ。むしろ、バラしていかないと、好意なんて伝わらないんだから、いい加減にしなさい。私は少しイライラしながら口を開いた。
「で、どうするの?告白しないの?見てるだけじゃ、気持ちは伝わらないよ。エスパーじゃないんだから。言葉にしないと。」
我ながら、笹井を詰めてしまったと思う。彼は明らかに狼狽えていた。追い詰められた様子の笹井は、
「いや…まだ…山下の勉強の邪魔したくないし、受験生だし、同じ進路で、もしフラれたら気まずいし…。」
そんな風に、告白しない理由を並べていた。
確かに、今後のことを考えずにヘタに動いて、あずにゃんを傷つけるようなことがあるのは困る。それに、好意を抱いていない相手からの突然の告白は攻撃に近いのだから、ゆっくりと距離を近づけることは大事だ。でも問題なのはその速度があまりにも遅いことだ。あずにゃんが他の誰かに取られてしまうかもしれない可能性を、あまりにも考えていない。
「ふーん…。まぁ良いけど。ただ、1つ言っておくと、たぶん笹井以外にもあずにゃんのこと好きな人、出てくると思うよ。ていうかもう既にいるかもしれない。」
私がそう言うと、笹井はさっきよりも驚いて、目を見開いていた。
「…なんでそう思うの?」
笹井は、明らかに動揺しながら、私に聞いてきた。
「だって、同じクラスになって仲良くなるまで知らなかったけど、あずにゃん、素直で良い子だもん。成績良いことだけしか知らなかったから、取っ付きにくいのかなーって勝手に思ってたけど、話しかければ、普通に話してくれるし、仲良くなったら、すごい笑顔見せてくれるし。あと色白で華奢で、黒目がちでアザラシの赤ちゃんみたいな目をしてて可愛い。いわゆる守ってあげたくなる系?確かに勉強ばっかりしてるから話しかけづらい雰囲気はあるけど、勉強ができるからってプライドも高くないし。こっちが引け目を感じなければ、何の問題も無い。想像以上に良い子で私は大好きになりました。で、あずにゃんは良くも悪くも、分け隔てなく皆と接するから、これは好きになる人いるだろうなーと思ったんだよね。笹井みたいに。」
私は懇切丁寧に説明してあげた。これでも、あずにゃんの良さを伝えるには足りないくらいだけど、これ以上話したら、私が気持ち悪く思われそうだったので抑えておいた。
笹井はそのまま黙り込んで、何かを考えているようだった。眉間に深い皺が刻まれているところを見るに、あずにゃんに彼氏ができるかもしれない可能性を、ちゃんと考えたのだろう。きちんと危機感を持ってもらうのは大事だ。
それに少し話してみて分かったけれど、笹井は私の意見をきちんと聞くし、それを聞いて、怒ったりせず、ちゃんと焦っていそうな姿をみるに、彼も素直で、人に注意されたら、自分の悪いところを反省できる人間なのだろう。林の言うとおり、良い人そうではある。まだ完全にあずにゃんの彼氏になっても良いと判断できるわけではないけれど、あずにゃんのことを大事に思っていそうなことは分かった。
「まぁ、これは私のお節介だし、私はあずにゃんが幸せでいてくれればいいから、無理してすぐに告白しなよとかは言わないけどさ。油断してたら、誰かに取られる可能性は考えておいた方がいいんじゃない?」
私が重ねてそう言うと、笹井が納得したように深く頷いていた。やっぱり悪い人ではなさそうだ。…少し単純すぎるけど。




