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6組の教室から出て、廊下を歩き始めると、
「とりあえず、明日来てくれるなら良かったね。」
聡史が俺に話しかけてきた。
「そうだね。一緒に回れないのは残念だけど、シフト入ってるなら仕方ないし。まぁ、会えるから良しとするよ。」
そう話す俺を、裕太がまじまじと見ていた。
「どうした?何見てんの?」
俺が聞くと、
「いや、本気なんだなと思って。拓実があんなに頑張ってるの見たことなかったから。だいたい相手から言い寄られてばっかりだったし。」
裕太が感心したように言っていた。実際に俺のあずちゃんへの態度を見て、俺の好意を理解できたようだった。
「まぁね。本気だよ。ちゃんと。」
俺は軽く笑いながら答えた。
すると廊下の向こう側から、クラス展示の宣伝の看板を持った愛理と春山が歩いてきた。
「お疲れ様。あれ、2人とも、今は自由時間じゃなかったっけ?シフト入ってるの?」
聡史が声を掛けると、
「クラス展示、あんまり、お客さんが入ってないじゃん?それで、奈々が責任感じて、落ち込んで泣いちゃってて。少しでもお客さん呼ぶために、呼び込みやろうって話になったんだ。」
春山が答えた。清水奈々はクラス展示のリーダーであり、彼女が和菓子のメニューにすることを決めていたので、責任を感じてるのだろうと思った。完売できないと、余った食材を食べなければいけないし、あずちゃんを誘うという今日の任務はすでに終えている。
「じゃあ...俺も手伝うよ。もう、用事済んだし。聡史と裕太もやるでしょ?」
俺が言うと、
「余ったら困るもんね。」
「やるやる。」
2人も同意したので、皆で客引きをすることになった。
「えー、ありがとう!助かる!」
春山は俺たちを拝みながらお礼を言っていた。
「約束は済んだの?昨日、言ってた。」
愛理は俺の様子を窺うように聞いてきた。
「うん。だからもう大丈夫。皆でちゃっちゃとお客さん集めよう。」
俺がそう言うと、愛理は嬉しそうに笑ってた。
5人でお客さんに声を掛け続けると、そこそこの人数が展示に集まってくれたので、教室内は満席になった。なんだかんだしっかり働き、本祭は終わった。
「みんな本当にありがとう。泣いて心配かけちゃってごめんなさい。おかげさまで、半分は食材を使いきれたので、明日もよろしくお願いします。」
泣いたせいで、少し目が腫れている清水が挨拶をして、その日は解散になった。
翌日の午前中は、自由時間だったので、聡史と裕太と文化祭を回っていると、お化け屋敷の前で、愛理と春山に会った。
「あれ、3人もお化け屋敷入る?」
春山が俺たちに聞いてきたので、
「せっかくだからね。文化祭の醍醐味だし。2人も入るの?」
俺が質問すると、
「私は入りたいんだけど、愛理、こういうの苦手だから、なかなか入れなくてさ。」
春山が笑いながら言った。
「だって、怖いよ〜。」
愛理は春山の腕を掴みながら抵抗していた。
「皆で入れば良いんじゃない?」
聡史が言ったので、全員で並んでいると。
「通路が狭いので、一度に入れる人数は2人までです。2、2、1に分かれてもらえますか?」
受付の生徒に言われた。
「...拓実、一緒に入ってくれる?」
愛理が上目遣いで聞いてきた。ここで断るのは、さすがにひどいような気がした。
「うん、そうしよう。」
俺と愛理、聡史と春山、裕太の組み合わせで入ることになった。
お化け屋敷に入ると、
「ごめん、腕掴んでもいい?怖くて。」
愛理が聞いてきた。これも断るのも人としてダメな気がした。
「どうぞ。俺もびびっちゃうかもしれないけど。」そう答えると、愛理は両腕で俺の右腕を掴んできた。その瞬間、彼女には悪いけど、これが、あずちゃんだったらいいのにと思ってしまった。
お化け屋敷の仕掛けは意外と凝っていて、何度か声を上げて驚いてしまった。愛理は仕掛けの度に、俺の腕を強く握っていた。お化け屋敷を出ると、愛理は名残惜しそうに、俺の腕から手を離していた。
「すごい楽しかった!凝ってるねこれ!」
ホラー好きの春山はお化け屋敷から出てきて早々、テンションが高かった。春山と一緒に入っていた、聡史は、
「春山、仕掛けの度に爆笑してるから、ちょっと怖かったよ。」
そう言って苦笑いしていた。1人でお化け屋敷に入る羽目になった裕太は、叫びながら走って出口から出てきた。
「いや!普通に怖かった!ていうかやっぱりなんで俺1人なの?!納得いかないんだけど!」
そうぼやいていて、皆で笑った。
そのままの流れで、5人で文化祭を回った。楽しい時間だったけど、俺は、あずちゃんと回れたら良かったなと何度も思ってしまった。
午後になり、最後のシフトに入ってホールで働いていると、約束通り、あずちゃんが友達とやってきた。来てくれたことは嬉しかったけど、一緒に来たメンバーの中に笹井がいて、一気に嫉妬の感情が湧き上がってきた。
あずちゃんと一緒に文化祭を回れている彼が妬ましい。
そんな感情を表情に出さないように、必死で笑顔を作った。
「あずちゃん、来てくれたんだ。お友達も一緒に。ありがとう。」
「間に合って良かった。約束したからね。」
あずちゃんも笑顔でそう答えてくれた。俺は4人をテーブル席に案内した。
「来てもらえて、嬉しいよ。6組はもう完売したんだよね?すごいね。」
俺がそう言うと、
「ありがたいよね。おかげさまで。みんなで頑張った甲斐がありました。」
あずちゃんは嬉しそうに話していた。
「やっぱり、雰囲気が本格的だったもんな。展示の飾り付けも、あずちゃんたち頑張ったんだなって思ったもん。紙でできた薔薇でもあそこまで一面に貼られてると、見応えあったし、豪華だった。すごいね。」
昨日実際に見て、本当にすごいと思ったので、伝えると、
「そう言ってもらえるの嬉しい。展示のリーダーのこだわりの内装だから。1週間ひたすらペーパーフラワー作ってたから、最後らへんは目を閉じても作れたと思う。」
あずちゃんも喜んでくれた。楽しく会話をしていたけれど、明らかに不機嫌な笹井の視線が俺に突き刺さっていた。態度に出しすぎだろう。
「それに、やっぱり、前夜祭の衣装のインパクトも強かったしね。在校生たちは生で見てみんな驚いてたし、本祭とか後夜祭から来た人たちも、投票室に飾ってる写真見て話題になってたらしいから。アリスと、ハートの女王と、マッドハッターと...トランプ兵も揃ってて。」
俺はそう言って、牽制のつもりで笹井をじっと見た。あいつは不機嫌そうな表情のままだった。
「あの衣装って誰が作ったの?」
俺が質問すると、
「はい!私です!ハートの女王とアリスとマッドバッターの帽子はね。マッドバッターの衣装自体は、ほぼ、林の私物の流用だけど。」
矢崎が元気よく手を挙げて答えてくれた。あずちゃんをあそこまで可愛いアリスにしてくれたことに心から感謝した。
「すごいね!さすが女王様。女王様はひれ伏したくなる美しさだったし、アリスは...めちゃくちゃ可愛かった。」
俺はそう言って、あずちゃんに微笑みかけた。すると、
「あの!そろそろ!注文してもいいですか!」
耐えきれなくなったのか、笹井が声を上げた。その顔つきはとても凶暴だった。余裕なさすぎだろう。
「ちょっと待ってよ、まだメニュー決めてないんだから。落ち着きなさい。」
矢崎がそう言って笹井を諌めていて、内心ザマーミロと思った。4人のメニューが決まるまで、俺はテーブルを離れて、仕事をしていた。しばらくすると、矢崎が手を挙げて呼んできた。
「お決まりですか?」
俺が聞くと、
「クリームあんみつと、アイスクリーム付きのクリームあんみつ、三色団子、みたらし団子をそれぞれ1個ずつ、お願いします。」
矢崎が伝えてきた。残念ながらみたらし団子は切らしてしまっていた。
「ごめんなさい。みたらし切らしちゃってて、あんこならまだあるんだけど、あんこでも大丈夫かな?すみません。」
そう伝えると、笹井の顔が引き攣っていた。こいつ、あんこ苦手なのか。
「ごめんなさい。あんこ苦手だった?」
俺が質問すると、
「...全然。あんこ得意なんで、たくさん載せちゃってもらって大丈夫です。」
笹井が俺を睨みながら答えた。痩せ我慢してるのが分かって、俺は内心笑ってしまった。オーダーを通すときに、俺はあん団子のあんこを多めでお願いした。頼んだ品はすぐに調理場から届いたので、俺がテーブルに配膳した。しばらくあずちゃんたちのテーブルの様子を見ていると、あずちゃんが自分のスプーンを付けたまま、笹井ともう1人の男子にあんみつを差し出しているのが見えた。同じスプーンを使わせないために、俺は自分でも驚く速さで新たに2本のスプーンをテーブルに出した。
「分けるならスプーンどうぞー。」
そう言って俺が立ち去ったあと、笹井は俺を睨んでいた。




