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本祭の午前中、俺はクラス展示のホール担当だったが、残念なことに、クラス展示にはあまりお客さんが来ていなかった。
「やっぱり、和菓子より洋菓子選ぶよねー。6組の客入り見ちゃうとさー。」
「うちらがメニュー決める前に、6組がカフェやるって言っちゃったから、被りたくなくて和菓子にしたけど、やっぱり、お客さんの取り合いになっても良いから、洋菓子にすればよかったかなー。」
「そうだねー、ハウルとか魔女の宅急便とか、それっぽいモチーフを選べたわけだし。」
お客さんが来ていない時間帯に展示担当のクラスメートがぼやいていた。
良い順位を狙うなら、お客さんが多いに越したことはないけど、俺は、行灯製作で散々働き、本祭と後夜祭は楽をしたかったので、この状況をありがたく思っていた。
何組か来たお客さんを接客して、午前中の仕事は終わった。交代のクラスメートが来たので、あずちゃんのクラスに行こうと考えてると、調理場担当だった聡史が戻って来た。
「お疲れ様。調理場忙しかった?」
俺が質問すると、
「全然。まぁ、お客さんが来てないから仕方ないよねー。普通にほぼ喋ってた。いやー、でもあれだけの食材が余ったらさすがにまずいから、客引き頑張った方がいいかなって話してたよ。」
聡史が答えた。確かに余った食材の処分は食べるしかない。和菓子で満腹になるのは避けたかった。
「あと、6組大盛況なんでしょ?そのせいで6組の調理場の人たち、ものすごい忙しそうだったよ。もう、ひたすら作ってた。山下さんも揚げ物担当してて、俺が戻ってくる時も、まだ全然働いてたから、6組の展示行くのもう少し待った方がいいかも。」
あずちゃんが、展示の準備をしていた時のように、真面目に揚げ物を作っている姿が想像できた。
「そっか。じゃあ、裕太戻って来たら、3人で適当にどこか回ってから行くか。」
段ボールで作ったクラス展示の看板を持ち、客引きをしていた裕太が戻って来た。
「疲れたー。外、暑いから、俺もホールとかやりたかったよ。」
裕太がぼやきながら汗を拭いていた。
「お疲れ様。休憩時間だし、3人で回ろう。」
聡史が言うと、裕太はきょとんとした顔で、
「江坂たちはいいの?昨日2人が一緒に回りたいって言ってたけど。」
おそらく、昨日俺たちに声をかけてくる前に、先に裕太には声をかけていたのだろう。そろそろ裕太にも伝えておいた方が良い気がした。
「あー、なるほど。まぁ、歩きながら説明するから、とりあえず行こう。まず、投票しに行くか。」
俺がそう言って、3人で廊下に出た。
「裕太も、春山に、俺と愛理の仲を取り持って欲しいとか言われたんでしょう?」
歩きながら言うと、裕太は本当のことを言っていいか、迷ったらしく、聡史の方をちらっと見た。
「俺は行灯作ってる時に、もう白状したようなもんだから、裕太も言っちゃっていいんじゃない?」
そう、聡史が言うと、裕太はホッとしたらしく、口を開いた。
「拓実の言う通り、文化祭の準備期間の初日に、春山に言われたよ。文化祭はチャンスだから協力して欲しいって。正直どうなの?拓実的に、愛理のこと。俺は悪くないと思うけど。」
拓実は俺に聞いてきた。
「愛理はいい子だと思うよ。でも、俺、別に好きな子いるから、厳しい。」
正直に言うと、裕太は驚いた後、少し、残念そうな顔をしていた。
「そっかー。それじゃ、仕方ないか。」
腕を組みながら、裕太は唸っていた。そして、ハッと気づいたように、口を開いた。
「え、てか、好きな子って誰?」
裕太はピンと来てなかった。これまでの俺の様子を見ていれば、気付きそうなものだけど、裕太は良くも悪くも勘が悪い。
「たぶん、お前が苦手な人だよ。」
俺が笑って言うと、裕太は少し考えた後、目を見開いた。そしておそるおそる俺の耳元に口を近づけて、小声で言ってきた。
「俺が苦手ってことは...もしかして...数学の田崎?」
田崎先生は数学担当の女性教師で厳しいことで有名だ。裕太は数学の成績が絶望的なので、とても厳しく指導されていた。
なんで、そう考えるんだ。
「違うわ!てか、なんでそこで教師になるんだよ、普通に生徒で考えろよ。」
俺はツッコミを入れながら、笑ってしまった。
「えー、だって俺が苦手って言うと、田崎しか出てこなかった。」
さすがに勘が悪すぎる。
そんな話をしていると、投票をやっている教室に到着した。投票用紙を受け取り、壁に貼られている行灯と仮装の写真を見た。
「写真でも行灯はうちのクラスが1番良さそう。俺も仮装の写真を撮った時は、流石にスケスケになってないし。」
裕太は俺たちのクラスの写真を見ながら話していた。
「行灯は、5組か...6組かな。構造とか難しそうなのに、上手い具合にできてる。」
聡史が2クラスの写真を見比べて言った。
俺は、ずっと、あずちゃんのアリス姿の写真を見ていた。写真の中で首を傾げて微笑んでいる姿はやっぱり可愛かった。
「...拓実、さすがに見過ぎじゃない?」
聡史は軽く笑いながら話しかけてきた。
「うーん。この写真欲しいな。可愛いし。剥がすか。」
俺がふざけて呟くと、
「盗むのはさすがにやばい。」
聡史はそう言って笑った。俺たちが話す様子を裕太が興味深そうに見ていた。
投票をした後、廊下に出ると裕太が口を開いた。
「もしかして、拓実の好きな子って...山下さん?」
さすがに気づいたか。
「うん。そうだよ。」
俺がそう言うと、裕太は頭を抱えた。
「マジかー!それは、怒るよね。本当にごめん。この前のファミレスでの発言。」
裕太のこういう正直で素直なところが俺は好きだったりする。
「もう、いいよ。人それぞれどう思うかは自由だし、でも、好きな人のこと悪く言われると、結構、悲しいから、これからは気をつけてね。」
俺がそう言うと、
「いや、俺もさ、嫌いとかじゃないんだよ!ただ、勝手に俺が恐れてるだけで。自分の理解を超えた存在と思っているというだけで。」
言い訳する裕太の様子が面白くて笑ってしまった。
「でも、昨日のアリス姿はすごい可愛かった!あと脚細いよね!脚ばっかり見ちゃった。」
あずちゃんを良く言おうとしてくるのは分かるけど、裕太に彼女の脚をジロジロ見られるのは、あまり面白くない。
「...褒めてくれるのは良いけど、あんまり脚見ないでね。」
俺は釘を刺した。
そろそろあずちゃんがいる頃かと思い、3年6組に向かうと、受付のところに笹井が座っていた。彼は教室の中の様子をしきりに気にしていた。きっとあずちゃんが中にいるんだろう。
「3人でお願いします。」
笹井に話しかけると、俺と目が合った瞬間、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。絶対に接客業をしてはいけないタイプだろう。俺は軽く笑っていなした。
「アリスいますか?会えるかなと思って。」
聡史が聞くと、
「ちょうどホールにいますよー。」
もう1人の受け付け担当の生徒が答えた。教室の中を覗くと、あずちゃんが働いていた。驚いたことに、昨日のアリスのヘアメイクをしていた。アリスの服装じゃないのは残念だけど、やっぱり可愛かった。
「お、本当だ。やっぱり細いなー。昨日くらい脚出してほしいなー。」
裕太がそう言うと、笹井がさらに苦い表情をしていた。教室の中に入り、あずちゃんに声を掛けた。
「あずちゃん、来たよ。」
俺の声に気付き、彼女が振り返った。
「浪川君、お友達も一緒?来てくれてありがとうございます。こちらへどうぞ。」
そう言って、俺たちをテーブル席に案内してくれたので、席に座った。改めてあずちゃんを見る。やっぱり可愛い。彼女の黒目がちな瞳が、より、魅力的に見える。
「昨日は、チラッとしか見られなかったけど、山下さん、めちゃくちゃ可愛いね。アリスっぽい。」
聡史がそう言うと、あずちゃんは驚いた表情をした後、
「いやいや、友達がメイクしてくれたおかげです。そもそもが地味な顔なんで。」
そう謙遜した。せっかく話せる機会なんだから、しっかり好意を示さないといけないと思った俺は、
「いや、そもそもが可愛いから、あずちゃんは。」
あずちゃんを見て笑顔で伝えた。あずちゃんは意外そうな表情をした後、少し考えてから、口を開いた。
「...そもそもが、かっこいいのは、浪川君だと思うけどね。キレイな顔してるし。」
思いがけず、褒められて、俺は驚いた後に少しニヤけてしまった。そんな俺たちの様子を見ていた裕太は、
「いや、俺たち何の会話聞かされてんの?褒め合い?」
ツッコミを入れて、笑っていた。置かれていたメニュー表を見ながら、
「おすすめとかある?」
あずちゃんに質問すると、
「私個人としてはパスタスナックが美味しいと思うかな。お客さんはクッキーを頼んでくれる人が多いよ。アリスモチーフの型抜きを使ってるから、雰囲気があって可愛いって言ってもらえてます。」
そう答えてくれた。3人ともお腹が空いてたし、これくらいのメニューなら、食べきれそうだと思った。
「じゃあ、全部1つずつ頼んで良い?」
俺がそう言うと、あずちゃんは驚いた表情をした後、
「いいの?そんなに頼んでもらって。無理しなくても大丈夫だよ。」
そう言ってくれた。学生的には早く売れた方が、展示が早めに終わり、自由時間が増えるので、ありがたいはずだけど、俺たちのことを気遣ってくれる、あずちゃんはやっぱり優しい。
「お腹空いてるし、全部気になるから。お願いします。」
そう言うと、彼女は笑顔で、
「かしこまりました。」
と言って、オーダーを伝えに行っていた。彼女の後ろ姿を見ていると、
「拓実すごいなー。さらっと可愛いって言えて。俺、同じ状況なら顔が真っ赤になる自信がある。」
裕太が感心したように言っていた。
「まぁ、ライバルもいるし、のんびりしてられない感じだからね。俺も頑張ってるんですよ。」
俺がそう言うと、
「それって、あいつ?」
聡史が目線で笹井を示していた。
「そうそう。よくわかったね。」
俺が答えると、
「だって、結構、拓実のこと、睨んでたからさ。向こうもライバルと認識してるってわけか。」
聡史が頷きながら話した。
「彼女と話してたら、睨まれるし、昨日なんて、話してたら目の前で連れて行かれたからね。腕引っ張って。」
そう説明すると、
「へえーー、向こうも余裕ないわけね。バチバチじゃん。」
聡史は少し笑っていた。
「山下さん、そんなにモテるんだ...。確かに可愛いけど...。やっぱり俺の感覚がズレてるんだな。」
裕太は腕を組んで考えていた。
しばらくすると、メニューが運ばれてきた。配膳してきたのは、あずちゃんではない生徒で、少し残念だったけど、運ばれてきたメニューはどれも美味しかった。あっという間に食べ終わったので、彼女に声を掛けて、明日一緒に文化祭を回るように誘おうと思った。あずちゃんが他のお客さんの対応をしていないタイミングを見計らって声を掛けた。
「ごちそうさまでした。あずちゃんが作ってたのってどのメニュー?」
あずちゃんに質問すると、
「たくさん頼んでくれてありがとう。私が担当してたのはパスタスナックだよ、のり塩味のほう。」
そう答えてくれた。
「なるほど、どおりで。それが1番美味しかった。」
俺がそう言って笑顔を見せると、
「本当に?パスタも、のり塩のシーズニングも、作ってるメーカーの企業努力がすごいのが大きいと思うけど、そう言ってもらえるとうれしい。ありがとう。」
お礼は言われたけど、いまいち俺の好意は伝わってなさそうだった。俺は一呼吸おいて口を開いた。
「...俺、明日の午後はクラス展示担当なんだけど、午前は空いてて、もしあずちゃんが時間あるなら、一緒に回らない?お友達も一緒に。」
そう言うと、あずちゃんは申し訳なさそうな顔になった。
「あー、ごめん。明日の午前中も調理場で働かなきゃいけなくて。」
そう言われて残念に思ってると、
「午後は時間あるから、浪川君たちのクラス展示行くね?まだ食材残ってるかな?」
代替案を出してもらえた気がして嬉しかった。
「うちのクラス、残念ながら、今日の時点で、そこまで人来てないから、残ってると思う。来てくれたらサービスするよ。」
そう伝えると、
「じゃあ、午後行くね。サービスは申し訳ないから、しっかりたくさん頼んで、きちんとお金払うね。浪川君たちみたいに。」
笑顔で答えてくれた。とりあえず、明日も会えるので良しとしようと思った。




