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前夜祭当日、最後の仕上げが終わり、トトロの行灯は完成した。行灯製作をしていたクラスメートは大盛り上がりだった。
「また後でクラスメート全員の集合写真撮るけど、行灯担当の人たちだけで、行灯の前で写真撮ろうよ!」
女子たちが盛り上がったので、その場にいた生徒たちで写真を撮った。俺の隣には愛理が並んでいた。
「拓実、お疲れ様。大活躍だったじゃん。」
彼女は笑顔で声を掛けてきた。
「結構、仕事振られたからね。サボらずやりました。愛理もお疲れ様。寝不足は大丈夫?」
俺が聞くと、
「うん、大丈夫。今日は前夜祭で仮装するし、写真もたくさん撮るだろうから、たくさん寝て、コンディション整えてきた。楽しみだね。」
そう答えて笑顔を見せた。
教室に戻ると、アシタカの衣装を渡された。想像してたよりもしっかりとした作りで驚いた。採寸した甲斐があって、サイズ感も悪くなかった。
「おー、いいじゃん。拓実似合ってる。」
同じくアシタカの格好をした聡史に言われた。
「聡史もね。でも、長袖だから、汗かくだろうなー。日が暮れたら少しはマシになるだろうけど。」
アシタカの衣装を着てから時間は経ってないが、既に汗をかいていた。
「まぁ、予算も考えると、そんなに通気性が良い生地を使うのも難しいんだろうねー。水持って歩こう。」
聡史も既に汗をかいているようで、ペットボトルの水を飲んでいた。
「どうよ!ハク!悪くないんじゃない?」
衣装に着替えた裕太が、俺たちの前で両手を広げて、仮装姿を見せてきた。
「おおー、良いじゃん。ちゃんとハクになってる。」
裕太の衣装もサマになっていた。
「せっかくハクやるなら、おかっぱのカツラ被ったら?リアリティありそう。」
ふざけて俺が言うと、
「やっぱりそうだよね!俺も思ってたー。あー、今からでも買ってこようかな。」
裕太が真剣に悩んでいて、笑ってしまった。
「拓実!」
声を掛けられて振り返ると、サンの格好をした愛理と春山がいた。
「おー、似合ってるね。」
俺がそう言うと、愛理は嬉しそうに笑顔になった。
「拓実も似合ってる、カッコいい。...ねぇ、写真撮ろうよ。」
愛理に言われ、
「撮ろう、せっかくもののけ姫だし、春山と聡史も。1人だけ違うアニメだけど、裕太もさ。」
俺がそう言うと、少し残念そうな顔をしたが、気を取り直したのか、すぐに、
「うん!みんなで撮ろう!」
そう元気に答えてくれたので、みんなで盛り上がりながら写真を撮り終えた。
ふと、教室の後ろの扉から廊下を見ると、水色のワンピースを着ている女子が通りがかった。もしかしてと思い、前の扉から、廊下を見ると、アリス姿のあずちゃんだった。
「あずちゃん!」
呼びかけるとこちらを見てくれたので目が合った。改めて、その姿を見て驚いた。
エクステをつけてロングヘアになっていて、メイクもしっかりしてる。いつも、制服のスカートを膝丈で履いているが、今日はミニスカートで、細い足が惜しみなく出されていた。
正直、想像以上にめちゃくちゃ可愛かった。目が合うと緊張してしまうくらいに。
これは、とても貴重な姿だと思った。
「...似合ってる。アリスの仮装。可愛い。」
どうしても伝えずにはいられなかった。俺は自分の顔が赤くなっていないことを願った。
「...ありがとう。友達が色々やってくれたおかげで、こんな感じです。浪川君もアシタカ似合ってるね。」
あずちゃんが少し照れくさそうに答える姿が、また可愛くて、アシタカの仮装が似合っていると言われるのも嬉しくて、つい、ニヤけてしまった。
「...写真撮ろうよ、一緒に。いい?」
俺は、どうしてもこの姿のあずちゃんとのツーショット写真が欲しかった。あずちゃんは驚いた表情をした後、
「アリスとアシタカだと、全然世界観違うけどね。それでもよければ、どうぞ。」
笑顔で了承してくれた。俺もほっとして笑顔になった。
「では、私が写真を撮りましょう。」
あずちゃんの隣にいた、ハートの女王姿の矢崎が撮影係を申し出てくれた。あずちゃんばかり見ていたので気づかなかったけど、彼女も仮装がとてもよく似合っている。
「ありがとう。お願いします。」
そう言って、2人並んで写真を撮ってもらった。横に並んだ時に一瞬、肩が触れて、俺はドキッとしてしまった。頑張って平静を装い、写真撮影をした。撮ってもらった写真をその場で確認させてもらうと、懸念していた、自分の顔の写りはそこまで悪くはなくて、内心緊張しているのがうまく隠れていると思った。
それ以上に、写真に映るあずちゃんの姿はとても可愛かった。もちろん、今、目の前にいる実物が1番可愛いけど。
「ありがとう。あずちゃん、本当にその仮装似合ってるから、撮れてよかった。じゃあまたね。」
俺はそう伝えて、教室に戻った。
満足そうに教室に入ってきた俺の姿を見て、聡史と裕太が近づいてきた。
「急に出ていったからびっくりしたよ、どこ行ってたの?なんか、嬉しそうじゃん。」
聡史にそう言われたので、
「写真撮ってきたから。見てみ。」
俺はあずちゃんと撮影した写真を2人に見せた。
「これ...誰?アリスだから隣のクラスの子?可愛い。」
裕太は誰かピンと来ていなかった。
「すごいね!山下さん、いつもと全然雰囲気違うじゃん。これは可愛いなー。」
聡史の言葉を聞いた、裕太は目を見開き、
「え!これ山下さんなの?!普段と全然違うじゃん!うわー、びっくり、てか脚細っ!」
声を上げて驚いていた。
「すごいよね。可愛い。」
俺がそう言いながら、写真を見る姿を、聡史は微笑ましく見ていて、裕太は意外そうに見ていた。
行灯行列のため、校庭に出てトトロの行灯の前に並んでいると、隣のクラスの生徒たちも、チェシャ猫の行灯の前に集まり始め、その中にはあずちゃんもいた。やっぱり明らかに目立つ。アリスの仮装をしてるのが彼女だけで...俺が好きだからかもしれないけど、あずちゃんだけにスポットライトが当たっているようだった。彼女を遠目でずっと見ていると、ふと、あずちゃんのそばに、常に笹井がいることに気づいた。話している時もあるけど、話していない時も、そばから離れていない。
なんか、ストーカーみたいだな。
そう思ってしまった。とは言え、遠くからあずちゃんの姿を見つめてる俺もそう大差ない気がした。俺はどうしてもあずちゃんと文化祭を回りたくて、誘いたかったけれど、行灯行列中はクラス単位で移動するので、あずちゃんに話しかけに行くのは難しかった。俺はキャンプファイヤーのタイミングで、声を掛けに行こうと思った。
行灯行列が始まると、仮装に着替えた時の予想通り、俺は汗だくになっていた。
「楽しいけど、熱いな。」
隣で歩く、聡史は汗だくになり、メガネが曇っていた。
「やばい。下に何もつけないで着てたから、ハクの服が肌に張りついてとんでもないことになってる。」
そう話す裕太の姿を見ると、汗によって、衣装全体がべしょべしょに濡れており、肌に張りついており、乳首まで透けていた。その様子を見た俺と聡史は大声で笑ってしまった。
「お前、かなりやばいぞ。なんで直に着てるんだよ。」
途中の休憩で用意されていたペットボトルのお茶を飲んだけど、正直、全く足りず、脱水症になるんじゃないかと心配しながら、テンションの高さで行灯行列を乗り切った。
校庭に到着して、キャンプファイヤーが始まるまで待機していると、3年6組も待機し始めた。様子を見ていると、あずちゃんのそばに笹井はいなかった。チャンスだと思った俺は、彼女の元へ向かった。
「あずちゃん。お疲れ様。」
そう声を掛けると、あずちゃんはこちらを振り向いた。アリスの衣装は半袖だけど、やはり暑かったらしく、彼女も汗をかいていた。その姿はなんとも言えず艶かしかった。
「浪川君、お疲れ様。汗すごいね。水分取れてる?」
確かに自分でも驚くほど汗だくではあるけど、自分も汗をかいているのに、俺のことを気遣ってくれる優しさにキュンとした。
「もらった瞬間に飲み干した。500mlじゃ全然足りなかった。」
俺は苦笑いして答えた。
「じゃあ、もう半分もないけど、アイスティー飲む?私の残りで申し訳ないけど。」
あずちゃんがそう言って、自分のペットボトルを差し出してきた。その表情は純粋な優しさからの行動なんだと思わせた。
マジか...。無自覚な行動すぎるな。
俺は驚いたけど、本人が差し出してくれている以上、断る理由はない。
「じゃあ、ありがたくもらいます。ありがとう。」
そう答えて、もらったペットボトルの中身を飲み干した。すると、あずちゃんはポシェットに入ってた扇子を取り出し、仰いで俺に風を送ってくれた。
「どう?少しは暑いのマシかな?」
彼女に聞かれた。
薄々気づいていたけど、この子良い子だな。
きっと、きちんとした両親の元で育てられれているんだろうなと思った。
なんだか、もし俺なんかと付き合ったら、汚してしまうんじゃないほど、純粋な子だ。
「うん。涼しくなった気がする。ありがとう。」
俺はお礼を言ってから、文化祭を一緒に回ろうと誘おうとした。すると、
「山下!そろそろキャンプファイヤーだから、集まれって言われてる!」
急に笹井君がやって来て、あずちゃんの手首を掴んだ。
こいつ、邪魔しにきたな。
俺はそう思って思わず、笹井を睨んだ。あいつはこちらを見ずに、あずちゃんだけを見ていた。その表情は必死だった。
「あ、ごめん。聞こえてなかった。」
あずちゃんがそう答えて、笹井に腕を引かれて、歩き出した。
「じゃあね、浪川君。」
彼女は俺の方を振り返って、そう言うと、そのまま、行ってしまった。
クソっ、笹井、許さん。
できれば今日中に、一緒に文化祭を回れるように誘いたかったけど、笹井のあの様子だと、このあと、あずちゃんにピッタリ張り付いて、邪魔してきそうだと思った。仕方ない。また別の方法を考えよう。
がっかりした気持ちを抱きながらも、キャンプファイヤーが始まり、皆で盛り上がっていた。
それでもやっぱりあずちゃんのことが気になり、彼女のクラスの方を見ると、あずちゃんと笹井が最前列に並んで立っていた。
彼女は大きく目をみはり、真剣に笹井の横顔を見ていた。その表情を見た時に胸騒ぎがした。
しばらくして、あずちゃんがキャンプファイヤーの方に目を向けると、今度は笹井があずちゃんの横顔を見ていた。その表情はどこか切なくて、きっと、俺と同じ気持ちを彼女に抱いていることを窺わせた。
俺はそんな2人の様子を遠くから見ることしかできなかった。
キャンプファイヤーが終わり、教室に戻って着替え終わっても、あの時の2人の様子が目に焼き付いていた。そこに、2人だけの世界がある気がして、正直、気持ちが落ち込んでいた。すると、
「なんか、暗いね。拓実。」
聡史が声を掛けて来た。
「うーん。なんか、恋敵が思ったより手強そうで。」
俺は苦笑いしながら答えた。
「なるほどね...。6組の友達に聞いたら、まだ明日の分のクラス展示のシフトしか知らなかったけど、山下さん、午後はクラス展示にいるんだって。行けば会えると思うよ。」
俺は驚いて聡史の顔を見た。
「え、聞いてくれたの?」
俺が聞くと、
「友達が本気みたいだから、応援しようかと。明日、一緒に行こう。」
聡史は軽く笑って言った。持つべきものは頼りになる友達だ。俺は明日の午前と明後日の午後にクラス展示のシフトだと聞いていたので、明後日の午前中だけでもあずちゃんと回りたいと思った。
「ありがとう。明日頑張るわ。」
俺は聡史に感謝した。
「拓実!お疲れ様!」
サンの格好から制服に着替えた愛理と春山がやって来た。
「拓実、明日の午後、シフト入ってないでしょ?私と香奈も午後空いてるから、一緒に文化祭回ろうよ。塩野くんも。」
確かに、シフトは空いてるけど、俺にはあずちゃんを誘うという大事な用事があった。さすがに彼女のところに別の女子と一緒に行くのは気が引けた。
「ごめん、俺もう約束してることがあるから、明日の午後は厳しいわ。ごめんね。」
俺がそういうと、愛理は落ち込んだ表情をした。後ろにいる春山が、聡史に目配せした気がしたけど、聡史は何も言わなかった。
「...そっかぁ、残念。じゃあ、一緒に展示の仕事頑張ろうね。また明日。」
そう言って、その場を立ち去る愛理を、春山が追いかけていた。




