36
「「昨日はすみませんでした!ごめんなさい!」」
体育館に着くと、春山と裕太が謝ってきた。
「昨日は、調子に乗って、ごめん。浪川、山下さんと仲良いんだもんね。自分が知らないからって、失礼なこと言っちゃってたなって反省した。」
春山は頭を下げながら話していた。
「俺も、ごめん。拓実が怒ってるの見て、自分勝手だったなって反省した。」
裕太も頭を下げていた。
「俺の方こそ、雰囲気悪くしてごめん。彼女には受験対策でも色々お世話になってるからさ、ちょっとカッとなっちゃったわ。すみませんでした。」
俺も謝り、その場は解決になった。
その後作業が始まり、しばらくすると聡史が隣に来た。
「...拓実があんなふうに怒るの初めて見たわ。」
そう言って俺の顔を見た。
「あー。俺もびっくりした。なんか思わず言っちゃって。」
苦笑いしながら答えた。
「...春山も裕太もかなり反省してたよ。ただ、拓実が本当に許すかは別だけどね。」
彼らが反省していることと、俺が2人の気持ちを受け入れるかどうかは別だと言い切る聡史は優しい。
「ありがとう。まぁ、裕太も調子に乗りやすいだけで、悪いやつじゃないのはわかってるから。」
裕太の深く考えない明るさに助けられたこともある。
おそらく、聡史は勘がいいし、俺の気持ちを察していそうだ
「...もう、聡史には言っちゃうけどさ、俺...あずちゃんのこと好きなんだと思うわ。」
俺がそう言うと、聡史は驚いたりせずに、俺の顔を見た。
「...なんとなく、そんな感じはしてたよ。怒るってことは、そうなのかなって。」
聡史はそう言って、そのまま淡々と作業を続けていた。
「だから、たぶん、春山から、愛理との仲を取り持ってくれって、言われてるかもしれないけど、ちょっとそれは難しい。」
聡史が俺の気持ちに勘付いているなら、愛理も同じように気づいているかもしれないと思いつつ、話した。
「まぁ、そうだよね。うん。分かった。」
聡史は基本的に冷静なので、これで春山たちのストッパーになってくれるだろうと思った。
「それで、拓実はどうするの?山下さんに。グイグイ行く?」
聡史に聞かれ、
「なんとなく、話してて、恋愛モードで俺のことを見てくれていない気がするから、文化祭きっかけで、もっと仲良くなって、そう言う風に見てほしいところだよね。とりあえず声掛けられるタイミングがあったら、そのチャンスを逃さずに行くわ。」
俺がそう言うと、
「なんか、毎回、拓実が相手から好き好き言われて付き合ってるのしか見たことないから、こういうの新鮮。」
聡史はそう言って笑った。
「まぁね。俺、基本モテますから。」
俺は笑って答えた。
聡史にはそう言ったものの、何の理由もなく、あずちゃんの元に行って、真面目に作業してる彼女の邪魔になるのも憚られた。そんなことを考えながら作業してると、この日もあっという間に1日が終わっていた。作業後はファミレスに向かった。これはもう恒例なんだなと思った。
「拓実、昨日一緒に帰れなかったし、今日は一緒に帰ろうよ。」
愛理が声を掛けてきた。聡史に俺のあずちゃんへの好意がバレていたので、愛理にも勘づかれてるかなと思ったけど、気づいていないのか。気づいていても諦めていないのか。
「...昨日、夜遅くに1人で帰って、結構怖かったからさ、一緒に歩いてもらえると助かる。」
彼女は大きな瞳で俺のことを見つめていた。夜道が怖いと言っているのに、送ることを断るのは、人としてダメな気がした。
「...分かった。一緒に帰ろう。」
俺がそう言うと、愛理はほっとした表情をしていた。
「今日も疲れたよねー。でも、明日には行灯に紙貼れるし、すごい順調な気がする。拓実もサボるとか言ってたけど、しっかり作業してくれてるし。」
愛理は笑顔で話していた。
「そうだねー。放っておかれるかと思ったけど、バンバン名指しで指示出されるから、逃げられなくて、意外と真面目に作業しています。」
俺も軽く笑って答えた。
「...私、3年5組になれてよかったな。皆、良い人たちだし、団結力あるし...拓実と同じクラスだし。」
そう言って、愛理が俺を見上げた。たぶん、これは彼女なりのアピールだ。
「...そりゃどうも。俺がいるかいないかじゃ、クラスの雰囲気そんなに変わらないと思うけどね。」
俺は、はぐらかすように笑って答えた。
「いやいや、大事だから、私一年生の時、前髪切りすぎて失敗して、落ち込んでた時、拓実に可愛いから大丈夫だって言われて、すごい励まされたんだから。それに、拓実、頭いいから勉強も教えてくれるし、本当に感謝してる。拓実と同じクラスになったことは、私にとってはすごい重要なんだよ!」
熱弁されて、思わず笑ってしまった。俺がなんとなくやったことで、ここまで好意を抱いてくれるとは。昔、思わせぶりだと聡史に注意されたことを思い出した。
「ありがとう、そこまで言ってくれるのはありがたい。」
俺がそう返すと、愛理は満足そうに笑顔になっていた。
翌日、前夜祭1日前の段階で、行灯に紙を貼り始めていた。
「思っていた以上に順調だね。」
少し離れたところから、行灯全体を見ていた聡史が呟いた。
「もっとサボるつもりだったけど、思っていた以上にしっかり名指しで仕事を振られたから、真面目に働いた気がする。」
俺は笑って答えた。
「これなら、優勝いけそうじゃん。すごい。」
裕太は満足そうに話していた。
ふと、隣のクラスの行灯の現場を見ると、なんと、あずちゃんが矢崎と一緒に行灯を見にきていた。彼女は、笹井と話していた。これは話しかけるチャンスだ。
「あずちゃん。」
俺が声をかけると、彼女はくるっと俺の方に振り向いた。
「お疲れ様。6組は順調?」
あずちゃんへの好意を認識してから改めて見ると、彼女がとても可愛く思える。
「お疲れ様。とりあえず、クラス展示は順調だと思う。5組はどう?行灯で何作ってるの?」
あずちゃんは質問してきた。
「トトロだよ。ジブリがテーマ。行灯は紙を貼り始めたから、たぶん間に合いそう。6組はチェシャ猫だっけ?」
「そうそう、不思議の国のアリスがテーマだから。」
「へー。あずちゃんはどのキャラの格好するの?」
「アリスだよー。私が似合うかは自信ないけど。浪川君はジブリのどのキャラクターの衣装着るの?」
アリスなんだ。本人はこう言ってるけど、きっと可愛いと思った。
「へー。似合うと思うけどね。俺はアシタカらしい。いつの間にか決まってた。」
「そうなんだ、似合いそう。」
そこまで話して、誰かの視線を感じた。あずちゃんの後ろを見ると、笹井が目を見開いて、明らかに俺を凝視している。そして頭を抱えている。その動作で気づいた。
こいつ、あずちゃんのこと好きだな。
矢崎も、笹井と、あずちゃんの様子を興味深そうに、交互に見ていた。おそらく、笹井の好意に、気づいているんだろう。
進路指導室であずちゃんから笹井の話を聞いた時に、なんとなく胸騒ぎがしたけど、その感覚は間違っていなかったらしい。
これは、俺もゆっくりしてはいられないと思った。
「拓実ー、戻って来て。」
愛理が俺を呼ぶ声が聞こえた。さすがに無視するわけにはいかないので、ひとまず引くことにした。
「じゃあ、呼ばれてるから戻るわ。」
俺はそう言って、自分のクラスの行灯製作に戻った。
行灯製作はとても順調に進み、明日の午前中には完成しそうだった。この日も作業後、みんなでファミレスに来ていた。
「行灯、かなり、いい線行きそうじゃない?他のクラスのも見てるけど、うちのクラスが1番クオリティ高い気がする。」
春山は嬉しそうに話していた。
「分かる!ここまで頑張ったからには優勝したいなー。」
裕太も同調していた。
「かなり頑張ったもん。ね、愛理。」
春山の隣に座っていた愛理は、ぼーっとしており、春山の話を聞いてないようだった。
「愛理?大丈夫?」
春山に再び声を掛けられて、愛理はハッとしたように、春山を見ていた。
「あ、ごめん、寝不足だから、ぼんやりしちゃってた。なんだっけ?」
愛理は軽く笑いながら答えた。
文化祭の準備期間が始まってから、ほぼ毎日、愛理を家まで送っていたので、今日も家まで送ることになった。
昨日までテンションが高かった愛理だったが、今日は明らかに元気がなかった。いつもなら歩いている間も話が止まらない彼女だが、今日は何も話していなかった。
「なんか、本当に今日は元気ないよね。疲れた?」
俺が聞くと、愛理はこちらの表情を窺うように見たあと、口を開いた。
「あのさ...拓実って山下さんと仲良いんだね、今日、2人が話してるの見て。そりゃそうだよね、同じ大学受けるんだし。」
あの時、愛理が声を掛けてきたから、きっと見ていただろうとは思ったけど、そのことを気にしてここまで落ち込んでいることに驚いた。俺は愛理以外との女子とも普通に喋るし、話す時間だけなら、あずちゃんよりも長く話している人もいると思う。...俺のあずちゃんへの態度に何か感じたんだろうか。
「そうだね。やっぱり受験対策で、一緒になったから話すようになった。それに、あの人、考え方が達観してて、なんというか、カッコいいんだよね。周りに左右されず、自分の道を進んでる感じが。俺は尊敬してる。」
俺がそう言うと、愛理は少し黙ったあと、
「山下さん、すごいもんね。私も2年生で一緒だったけど、努力家だし...話したら普通にいい子だし...可愛いと思う。5組の子に聞いたけど、山下さんがアリスの格好するんだって、似合いそうだよね。私、自分がもののけ姫のサンの格好、似合うか自信ないなー。」
何かを誤魔化すように、早口で話していた。
「あの子のアリスも、愛理のサンもきっと似合うよ。」
俺がそう言うと、愛理は唇をギュッと結んだ。
「ありがとう。...拓実のアシタカ姿楽しみ。絶対似合うもん。」
彼女が答えた。




