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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 文化祭前最後の受験対策でも、あずちゃんはいつものように集中して勉強していた。彼女が本気で自分の目標に向かって頑張っているのは分かってきたので、俺は邪魔にならない程度に少しだけ話しかけるようにしていた。

「Y県立医大のAO入試って俺たち以外に受ける人いないのかな。俺が来るまで、あずちゃん一人だけだったの?」

あずちゃんはくるっと俺の方に顔を向けると、

「5月ぐらいまでは、私と同じクラスの笹井君も受験する予定だったから、一緒に勉強してたよ。」

そう答えた。笹井…あの目つき悪いやつか。喋ったことないな。

「笹井君は、受けるのやめたの?」

確か、数学はいつも上位だけど、他の科目は普通くらいだった気がする。正直、普通に医学部受験をするには、難しい成績だろうと思った。

「うん。9月に東京のダンス大会に出るから、そっちに集中するために、ここには来なくなったんだ。」

笹井ってダンスやってるんだ。知らなかった。

「笹井君ね、ダンスすごい上手なの。振り付けも自分で作れて、それもすごいカッコいいんだ。今まで何回も大会で優勝してるんだって。1度大会を観させてもらったけど、本当に感動した。」

宝塚歌劇団の話題以外で、嬉しそうに誰かのことを話すあずちゃんを初めて見た。大会を観に行ったということは、プライベートでわざわざ出かけたってことか?なんとなく嫌な予感がする。

「そうなんだ。…笹井君とはよく話すの?仲いいの?」

気になって聞いてみると、

「うーん。受験対策は2人で参加してたから、結構、話してたよ。ただ、ここに参加しなくなってからは、ダンスの練習で忙しそうだから、普通に挨拶するくらいであんまり話せてないかな。でも、応援はしてる。」

あずちゃんはさらりと答えた。

「そうなんだー。」

俺がそう言って黙ったので、話が終わったと思った様子のあずちゃんは、またすぐ勉強に集中していた。笹井のことを話すあずちゃんの様子が、なんとなく気になった。


 さすがのあずちゃんも、文化祭の準備期間中は、クラス展示の作業に集中して、行事を楽しむと話していたので、距離を縮めるのはこのタイミングだと思っていた。実際、この高校の生徒は文化祭の前後でカップルになるケースが多い。隣のクラスだから隙を見て、話しかけに行けそうだし、自分もあずちゃんと同じく、クラス展示の担当になろうと思っていたが、

「拓実も行灯担当になろうよ。背高いから、脚立いらずで作業できるし、男子の手なんていくらでもあって良いんだから。」

同じクラスでバレー部に所属する江坂愛理に誘われた。彼女とは1年生のとき同じクラスだったけど、今回3年生でもまた同じクラスになった。どうやら俺に好意を持っているらしく、よく話しかけられていた。呼び方も、愛理と呼んでほしいと言われたので、そうしている。大きな瞳と八重歯が印象的で、明るく元気な子だ。普段の俺だったら、告白されたらOKするようなタイプではある。

「うーん。2年連続で行灯やったから、今回はクラス展示にしようかと思ってたんだけど。」

俺が難色を示すと、

「クラス展示は、もう人数充分いるんだし、行灯の方が人数必要だと思うよ。」

愛理と同じバレー部の春山香奈も言ってきた。彼女も行灯担当らしい。恐らく、俺との距離縮めたい愛理が、春山に協力してほしいとお願いしたのだろう。

「手伝ってよ。お願い!」

愛理は手を合わせて上目遣いでお願いしてきた。もし、俺が行灯担当になるのを断ってまで、クラス展示の担当になったら、相当な熱意があると思われて、仕事を多く任される可能性もあるだろう。俺はあずちゃんに話しかけやすそうだからという不純な動機しかないのに。ここは折れた方が良い気がした。

「分かった。行灯担当するよ。でも、俺すぐ疲れちゃうから、ふらふらどっか行くかもしれないけど、許してね。」

俺が軽く笑いながら言うと、

「任せて、ばんばん、拓実に仕事振るから。サボらせないくらいに。」

愛理は嬉しそうに笑顔で伝えてきた。

 2人が立ち去った後、やりとりを見ていた裕太と聡史が声を掛けてきた。

「江坂、頑張るねー。よっぽど拓実と一緒に作業したかったんだな。」

聡史がニヤリと笑いながら言った。

「今回もモテてますねー拓実くんー。」

裕太はそう言って俺の両肩を揉んできた。

「どうだろうねー。」

俺は笑いながらはぐらかした。

「でも、拓実がクラス展示やろうとしてたの意外。俺も裕太も行灯だし、今までも行灯なら人が多いから適当にサボれるって選んでたのに。何か、心境の変化?」

聡史に聞かれ、

「まぁ、最後の文化祭くらいは違うことやっても良いかなーって思ったんだよ。」

そう、適当に答えた。あずちゃんと話したいからと言うには、まだ自分の中で彼女が好きだという確証がなかった。冷やかされるにしても、もう少し自分の中で気持ちが決まってからにしたかった。


 文化祭の準備期間初日、俺は行灯のリーダーに割り振られた作業を、裕太、聡史とほどほどの熱量でこなしていた。

「これって、30cmで切るので合ってる?」

「いや、もうその長さの骨組みは、指定された数、作ってたはずだから、次50cmで切るはず。」

「もう10本以上切ったから、腕疲れた。」

3人でああだこうだ言いながら作業してると、

「拓実!ちょっとこっち手伝って。」

何人かで行灯の骨組みを立てていた愛理に呼ばれた。愛理の元へ行くと、

「全体の、バランス見たいから、この骨組みを押さえててもらえない?長いから、私たちで持ってても、しなっちゃって。脚立は向こうで使っちゃってるし。」

身長が180cmある俺の手が必要との指名だった。

「押さえるだけで良いの?」

言われたとおりに押さえると

「さすが、脚立いらず。腕も長いから助かる。」

愛理はそう言って喜んでいた。言われるがままにしばらく押さえていると、担当していたクラスメートの中で方向性が決まったらしく、

「拓実ありがとう。もう大丈夫、これでいけそう。」

愛理が俺にお礼を言われ、俺は骨組みを床に置いた。

「それは良かった。もうさ、今日は作業終了で良いんじゃない?疲れたし。」

俺がふざけて言うと、

「何言ってんの、まだ初日だよ。どうせ最後間に合わなくてバタバタするんだから、頑張るよ。」

愛理は笑って、俺の背中を軽くたたいた。

「厳しいなー。まぁ、命令された作業はやるよ。さすがに。」

そう答えると、

「…今日、作業終わったら、行灯担当のメンバーでご飯行こうって言ってるんだけど、拓実達も行こうよ。皆で」

愛理はこちらの表情を窺うように誘ってきた。皆が行くなら、断る理由もなさそうだと思い、

「わかった。裕太と聡史にも伝えておけば良い?」

そう答えると、愛理は嬉しそうだった。

元々作業していた場所に戻ると、

「おかえりー。何だったの?」

配布された行灯の設計図を見ていた聡史に聞かれ、

「なんか、背が高いから、骨組みのバランス見るために押さえてて欲しいって言われて、長い骨組みをひたすら押さえてた。シュールな光景だったと思うよ。」

軽く笑いながら答えた。

「まぁ、トトロでかいからなー。丸っこいし、簡単かと思ったけど、そもそものサイズがでかいから、必要な骨組みも多くて面倒くさそう。誰がトトロにするって言い出したんだっけ?」

聡史が設計図を見ながら話していた。

「確か、衣装担当の女子達が、ジブリの仮装がやりたいって言い出して、ジブリならトトロでしょってなった気がする。あんまり覚えてないけど」

腕が疲れたのか、腕をぶらぶらさせながら椅子に座っていた裕太が答えた。

「あー、そういえば採寸するから教室来て欲しいって言われてた気がする。」

俺は昨日、衣装担当の女子に声を掛けられたことを思い出した。

仮装は基本的に色々な体型の生徒が着るため、フリーサイズになるように余裕をもって作られるが、俺のように身長が高かったり、恰幅が良いやつだとサイズが入らないこともあるため、そういった生徒のための採寸をする場合がある。

俺は、採寸のためにそのまま1人で教室に向かった。衣装担当の女子が一通り採寸を終えて、話し始めた。

「ありがとう。やっぱり浪川君背高いねー。布、多めに用意しておいて良かった。浪川君と塩野君は、アシタカで、中野君はハクの予定なんだけど大丈夫?」

特にやりたい仮装もないし、問題はなかった。

「俺は大丈夫だよ。他の2人もこだわり無いと思う。作るの大変そうだね。」

「頑張るよー、間に合わなそうだったら、応援お願いするかもしれないけど。」

そんな会話をして教室を出た。せっかくだからあずちゃんの様子を見たくなり、隣のクラスを覗くと、彼女がいつもの勉強中と同じように、真剣な表情をしながらペーパーフラワーを作っていた。

前はあずちゃんのこの表情を見ても、真面目だな、くらいにしか思わなかったけど、最近は凜としててカッコいいなと思う。

すると、あずちゃんは衣装担当の女子に声を掛けられていた。声を掛ていたのは矢崎琴音だ。彼女はいわゆる男受けしやすい顔をしていて、胸も大きくて、目立つうえに、いつも笑顔でノリが良く、誰とでもフランクに話すので、男子からの人気は高い。ただ、なかなか彼氏を作らないことで有名だ。そんな矢崎とあずちゃんとはタイプが全然違うので、仲良さそうに話す姿は、意外だった。矢崎は、衣装で作った猫耳をあずちゃんに付けようとしていた。猫耳の色合いからみて、不思議の国のアリスのチェシャ猫かなと思った。あずちゃんは少し抵抗していたけど、最後には恥ずかしがりながら付けて、笑っていた。

その様子を見て、正直…かなり可愛いと思った。

これは、だいぶ気持ちが固まってきているのかもしれないと感じさせられた。

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