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前回の進路指導室での山下とのやり取りの後、彼女に興味が湧いた。もう少し色々話したい気持ちになったけれど、彼女は本当に勉強ばかりしていた。正直、俺はイケメンと言われることが多かったので、俺が近くに座って話しかけていれば、少しずつ、俺のことが気になるんじゃないかと考えていたが、甘かった。彼女は驚くほど周りを気にしてなかった。どれだけ俺が彼女のことを見ていても、全く気にするそぶりはなかったし、そもそも気付いていなさそうだった。話しかけると答えてくれるけど、会話が終わるとすぐに自分の勉強に戻っていた。意思が強すぎる。どうしてこんなに勉強ばかりしてるんだろう。
...その努力が報われるかどうかなんて分からないのに。
その日も、いつものように集中して勉強する彼女に、俺は質問した。
「山下さんって、どうしてそんなに頑張れるの?」
全く俺のことを気にしない彼女に対して、少しイライラしていたのかもしれない。
「うーん。前も言ったけど、医学部に入りたいからです。」
彼女は、俺の方を向くと、いつものお決まりの台詞を言った。
だから、なんでそんなに、がむしゃらに努力できるんだろう。
俺は過去の経験から、心の中でずっと思っていたことを口に出していた。
「...努力って報われるとは限らないじゃん。ここまで頑張ったのに、ダメだったら嫌だなとか思わないの?」
我ながら、弱気な質問だなと思った。
結局、俺は、あの時のことをずっと引きずっているのだ。
きっと、はたから見ると俺は、少し不安そうな顔をしていたのだろう。
俺の様子を見た山下は不思議そうな表情をした後、話し始めた。
「…私も努力をすれば、必ず目標を叶えられるとは思わないよ。前も話したけど、宝塚音楽学校に合格するのって、運とかタイミングとか努力だけじゃどうにもならないことも必要だと思ったし。
でも、じゃあ今、何をすべきかなって考えると、誰にも分からない未来のことで不安になるよりも、目標を叶えるためにひたすら努力する方が、気持ち的に楽な気がする。頑張った事実って、自信につながるし。それに、もしダメでも、頑張った経験って、きっとどこかで役に立つと思うから。やっぱり私は宝塚に入るために必死で努力した経験って、今、受験勉強を頑張れてることに繋がってると思うし。」
そう答える山下を見て、宝塚に入りたくて、一生懸命、努力していた彼女の姿が不思議と頭に浮かんだ。
そうか、この子はいつも自分の目標に向かって全力投球なんだ。
...だから眩しいんだ。
俺は、ここまで頑張れる彼女と、行動できない自分と比べて、焦って、腹が立ってしまうんだ。結局、俺は、あの時の経験を引きずって、また傷つくのが怖くて、カッコつけて、言い訳して逃げてるんだ。
何が熱くなっていて恥ずかしいだ。恥ずかしいのは、熱くなることから逃げてる俺じゃないか。そう思わされた。
俺は気づいたら自分の過去の話を彼女にしていた。
俺はバレーボールが大好きで、どんどん上手くなるのが嬉しくて、バレーをしている時間が1番幸せだった。頑張れば、頑張るほど結果が出て、周りも俺を期待と羨望の眼差しで見ていた。
でも、膝の靭帯を切ったことで、全てが変わってしまった。
前のようにはプレーできず、周りが俺を見て落胆しているのがわかった。
あいつはもうダメだ。
あんな怪我をしたなら無理だろう。
正直期待外れだったな。
俺はそんな周囲からの視線に耐えきれず、3年生最後の大会の前に退部届を出した。
それからは、何をやるにも適当に、問題がない程度にこなせれば良いと思った。
何かに熱中して、心から好きになっても、また、失ってしまうのが怖かった。そう思って、何事にも本気にならないようにしたのだ。
「だから、目標に向かって頑張ってる人を、ちょっと冷めた目で見ちゃってた。…今になって思うと、山下さんみたいに考えることができなくて、ふてくされて、八つ当たりしてたんだなって思った。...なんか、今まで態度悪くてごめん。」
自分の胸の内を彼女に話して、今まで失礼な態度をとっていたことを謝った。彼女は驚いていたが、
「別に謝らなくて大丈夫だよ。私も宝塚落ちたときは、1週間ご飯食べられないくらい落ち込んで、今みたいに思えるようになるまで時間がかかったし。それに、やっぱり努力する人を斜めに見る人ってたくさんいるから。私も色々言われたことあったし。」
自分の経験も踏まえて、優しく話してくれた。
「...でも、周りがなんて言おうと、自分にとって一番納得できることをするのが大事だよ。よそはよそ、うちはうちで。」
そうか、結局、俺は、周りからの目ばかり気にしてたのか。情けない。
ここまで周りに流されず、自分は自分と思える彼女を心底すごいと思った。
彼女のことをもっと知りたい。仲良くなりたい。
「…話変わるけど、山下さんって長くて言いづらいから、梓ちゃんって呼んでいい?」
距離を縮めるには呼び方から変えるのが1番効果的だと、経験から学んでいたので、こう言えば、山下は少しはドキッとするかなと思ったけど、
「なんて呼ばれてもいいけど、梓ちゃんと山下さんって文字数あんまり変わらなくない?」
少し驚いていたが、顔色を全く変えずにそう言われ、苦笑いしてしまった。しかも、文字数にこだわるとは。返答が斜め上すぎる。
「あずちゃんは?」
これでどうだ?
「なんでもいいよ。好きに呼んでくれて。」
あっさりとOKしてくれた。そして、彼女はまた勉強に集中していた。
これは手強いかもしれない。でもまぁ、ゆっくり仲良くなっていこう。そう思った。
どうすれば、あずちゃんとの仲を深められるか色々考えた結果、彼女が興味のある話題を振れば良いんじゃないかと思った。
そこで次の受験対策の日、いつものように勉強に集中する彼女に、俺は質問した。
「あずちゃんって宝塚で誰が好きなの?」
その質問を聞いた途端、彼女の目が輝いた気がした。
「...私、かなり熱量の高い宝塚ファンだから、話し出したら止まらないと思うんだけど...それでも大丈夫?」
こちらの表情を窺うように上目遣いで聞いてきた。その目はキラキラと輝いていて、本当は話したくてたまらないのが伝わってきた。
なんだ、こんな表情もできるのか。これは…可愛いかもしれない。
俺が大丈夫だと伝えると、パッと花が咲いたように笑顔になって、自分の好きなタカラジェンヌ達の話を始めた。表情はくるくると変わり、楽しそうに話す姿を、微笑ましく見ていると、
「この人はね、手足が長いから、ダンスがすごいダイナミックで、歌も上手なの。...これは私が個人的に思ってたんだけど、浪川君に顔似てるなって。」
そう言われて、写真を見せられたけど、正直、皆似たようなメイクをしているので、見分けがつかなかった。
「ほら、この人も浪川君もキレイな顔してるから似てないかな?目鼻立ちくっきり。」
そう言われて、ドキッとした。
俺の顔、キレイだって思ってたのか。だったらもう少し...俺に興味持てば良いのに。そう思って、少し顔が熱くなった。
これは、本当に、ヤバいかもしれない。
俺の心境に気づいていないであろう、あずちゃんは、楽しそうに話し続けていた。
俺はその姿を、ただ、可愛いと思って見ていた。
「受験対策?だっけ。進路指導室でやってるやつ。どんな感じ?」
翌日、教室で聡史に質問された。
「うーん、模擬講義とか小論文とか面接の練習してる。とりあえず山下さんとは仲良くなってるよ。あずちゃんって呼んでる。」
俺がそう答えると、
「あずちゃん!お前すごいな、山下さんをそんな風に呼べるの、女子でもそんなにいないだろ。やっぱモテ慣れてるやつは違うねー。チャラいー。」
裕太が俺を茶化すように話した。
「意外とね、面白いよ、あの子は。真面目で堅物なのかと思ってたけど、考え方とか達観してて、周りを気にしないで、我が道を行ってるから、ちょっとかっこいいなと思う。見た感じ、華奢だし、もっと女子っぽいのかと思ってたけど。中身は違った。」
俺があずちゃんについて話すと、聡史と裕太が意外そうな顔をした。
「へぇー。拓実がそんな風に女子のこと評価するなんて珍しい。」
聡史が言い、
「...もしかして、くっついちゃったりする?成績的にはかなり近いけど、キャラクター全然違うから、意外な組み合わせすぎる。お前ってそもそも、もっとぐいぐい来るタイプ好きでしょ。元気な感じの子とか、あざとい感じの子とか色々いたけど。」
俺の歴代の元カノを知っている裕太が、笑って言った。
基本的に、来る者拒まず、去る者追わずなので、向こうから積極的にアピールされれば、よっぽどじゃない限り、告白を断ってはいなかった。
「...まぁ、男女なんて、何がどうなるかは分かんないからね。」
俺が含みを持たせた、言い方をすると、2人とも驚いていた。
「まじかー、俺、自分より成績良い人は嫌だなぁー、バカだって思われたくないし。」
裕太は理解できないという表情で話していた。
「うちの高校じゃ、裕太より成績悪い女子なんていないだろ、ほとんど。」
聡史が笑いながらツッコミを入れ、
「それは言うなよー。同じくらいだったら、少しはいるでしょうよー。」
裕太が、大げさに、身振り手振りを交えて答えていて、笑ってしまった。




