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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 一つだけ、誤算だったのは、担任の村本先生が思っていた以上に俺の留学に反対していたことだった。自分のクラスの進路実績を上げることに力を入れる人なのは分かっていたので、ある程度は想定していたが、想像以上に、その成績で進学しないのはもったいないから考え直せと、連日言ってきて、正直うんざりした。もちろん言われたところで、自分の考えは揺るがなかったけれど、留学の意思を伝えてから何度も放課後呼び出されるのは、面倒だった。

 その日も職員室で、村本先生から言われる小言を適当に流しながら聞いていると、たまたま卒業アルバムの資料を持ってきた梓がやって来た。

村本先生が俺の進路を否定的に言う様子を見た梓は、今まで見たことがない表情をしていた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「私は、彼がどれだけ自分の夢のために努力しているか知っています。先生と違って。」

どう見ても梓は怒っていた。俺は初めて見る彼女の怒りの表情に驚いた。

「やるべき勉強から逃げてるってなんですか?

勉強はあくまで自分がやりたいことを実現するための手段です。これぐらいのレベルの勉強ができれば、これくらいの進路は選べるっていう考えて、進路を選べってことですか?自分が本当に何をしたいかは関係なく。

彼は自分が本当にやりたいことを見つけて、それに向かって努力してるだけです。逃げてなんていません。

彼が望んでいて、彼の両親もそれを応援してるのに、なんで先生が反対してるんですか?」

理路整然と、村本先生に反論する梓はとてもカッコよかった。初めて見た時に感じた梓の芯の強さを再認識した。先生は梓にそんな風に言われると思っていなかったようで、呆然としていた。

一通り反論し終わった梓は、足早に職員室を後にした。

「俺、何度言われても進路を変える気はないので。失礼します。」

先生にそう言って、俺は職員室を出た。

梓を追いかけて走ると、彼女を玄関の手前で見つけた。腕を掴んで引き留めると、彼女は泣いていた。俺は驚いて、彼女を進路指導室に連れて行った。部屋の中に入っても、彼女は静かに泣いていた。俺のせいで梓を泣かせたことが本当に申し訳なくて、居た堪れなくて、思わず彼女を抱きしめた。俺の腕の中にすっぽりとおさまる梓はとても華奢だった。

「梓、ごめん。俺のせいで。泣かせて。」

俺がそう言って謝ると、梓は小さく左右に首を振りながら、話し始めた。

「陽介君は悪くない。村本先生が悪い。あんなこと言うなんて、本当にひどい。悔しい。私は許せない。どれだけ陽介君が頑張ってるかも知らないくせに。私は大会で陽介君のダンスを見て、本当に感動したの。涙が出た。陽介君は天才だよ。踊るために生まれた人なんだって思った。だから、諦めないでほしい。夢に向かって頑張ってほしい。」

そう言われて、俺は泣きそうになった。ここまで、俺のダンスと、頑張りを見てくれていたことに胸が熱くなった。

梓は俺の腕を解いて、俺の顔を見上げた。その目元にはまだ涙が浮かんでいた。

「アメリカに行っても頑張ってね。応援してる。私は、陽介君の1番のファンだから。大会の時、すぐに、留学頑張ってって言えなくてごめんね。

...寂しいって思っちゃったから。

でも、私はやっぱり、陽介君には踊っていてほしいから、陽介君が選ぶ道を応援します。私は陽介君の味方です。」

そう言って泣きながら笑う梓を見て、俺は心が揺さぶられた。悲しませてごめん、応援して欲しいなんて、俺の気持ちを押し付けてごめん、でも、俺のことを、俺のダンスをそこまで認めて、褒めてくれてありがとう。やっぱり俺はダンスを頑張りたくて、でも梓のことは大好きで、たとえ離れても、梓にとって一番の存在でいたい。

夢も大好きな人もどちらも諦めたくない。

わがままなのは分かっているけど、自分の素直な気持ちを梓に伝えようと思った。

「俺、梓に言いたいことがある。

ずっと言いたかった。

もう、バレてるだろうけど。俺はたぶん、これから色んなところ転々とするだろうから、梓に寂しい思いをさせることもあると思うし。

でも、どうしても言いたいから。俺のわがままかもしれないけど。梓の受験が終わったら、聞いてほしい。それまでに、考えてほしい。」

俺が話している間、梓は真剣な表情でまっすぐ俺を見ていた。

「分かった。考える。」

その答えを聞いてから、俺は進路指導室を後にした。

 ダンススタジオを向かって歩きながら、ぼんやりと色々なことを考えていた。

ダンスはもちろんだけど、英語もっとちゃんと勉強しないとな。流石にペラペラまでは無理でも、意思疎通ができるレベルじゃ無いとまずいよな。送られてきた資料の住むところの候補、早く決めないと。パスポートの申請も後回しにしちゃダメだな。

...梓は、俺が告白したらOKしてくれるかな。

なんとなく、俺のことを悪くは思ってないとは思うけど。手も繋いでくれたし、名前を呼び捨てさせてくれるし、突発的とは言え、抱きしめても嫌がってはなかったし。

ただ、矢崎が文化祭の時、梓は今まで彼氏がいたことないって言ってたし、初めての彼氏がここまでの遠距離恋愛って、普通選ばないよな。

でも、もし断られても、俺は梓を好きでいよう。ずっと思っていれば、いつか振り向いてくれるかもしれないし。

その前に梓が大学で変なチャラい男にちょっかい出されるのだけは嫌だな。

 そんなことを考えながら、ダンススタジオに着く前の最後の横断歩道を待っていると、後ろから大きな声が聞こえた。

「陽介君!」

振り返ると、梓の姿が見えた。どうしてここに?彼女が俺のそばまで走って来る姿を信じられない気持ちで見ていた。

「どうしたの?汗だくじゃん。何かあった?」

梓は息が上がっていて、学校から走ってきたようだった。

彼女はしばらく息を整えると、俺の顔を見て、笑顔になり、口を開いた。

「陽介君。私、決めた。気持ち決まった。私も受験が終わったら、どうしても陽介君に言いたいことがある。もう迷わないから。だから、結果が出たら、一番最初に陽介君に会いに行く。...待っててくれる?」

梓は俺の顔を見つめながら話していた。あまりに急展開で驚いたけど、これは、きっと、俺の気持ちが届いたのだと思った。嬉しい。

「もちろん。待ってる。勉強頑張って。俺も留学の準備頑張るから。」

そう答えると、梓は照れくさそうに笑った。その笑顔がとても可愛くて、彼女のことが愛おしくて堪らなかった。





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