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笹井君に教えてもらった大会は、5月の第三土曜日の午後から隣県の体育館で行われるものだった。
「会場遠いから、難しかったら無理しなくて大丈夫だから。」
笹井君は少し申し訳なさそうだったが、
「絶対行く、楽しみ、誘ってくれてありがとう!」
恐らく私は満面の笑みだったと思う。
「...じゃあ、頑張る。」
笹井君はそう言ってくれた。
約束の大会の日、私は電車を乗り継いで会場の体育館に向かった。笹井君から、観客席は自由席だと聞いていて、どうしても良い席で見たかったので、開場の1時間前には体育館前に到着した。まだ数名しか並んでいなかったので、私はその最後尾に並んだ。そのままもらったパンフレットをしばらく見ていると、
「山下!」
名前を呼ばれた。呼ばれた方向に振り向くと、笹井君が立っていた。
「笹井君、お疲れ様。」
私がそう言うと、
「お疲れ様。こんなに早く来てくれたんだ。まだ開場まで40分以上あるのに。」
笹井君は驚いた表情で私を見ていた。
「だって、せっかく生で見られるなら、良い席で見たくて。前の方が観えやすいよね?」
私がそう言うのを聞いて、笹井君は照れくさそうに笑っていた。
「観客席の前の方でも、全体の構成とかは見えると思うから、そうだね...。前が良いと思う。」
そう言ったあと、私の目をしっかりと見据えた。
「俺、頑張るから、応援してくれると嬉しい。」
笹井君に言われて、私はすぐに答えた。
「もちろん!ものすごい応援してる。頑張ってね。」
私がそう言うと、笹井君は嬉しそうに笑っていた。
開場時間になり、会場に入ると、前方は関係者席になっており、私は観客席の最前列になる10列目を確保した。何度も見たパンフレットをもう一度見返す。今回の大会は、複数の県が対象の地域大会だった。参加チームは30チーム以上あり、笹井君たちのチームは最後から2番目だった。しばらくすると、大会が始まった。
どのチームのダンスも凄かったが、私は笹井君たちのチームのダンスが気になって仕方なかった。そして、ついに笹井君たちのチームの番になった。ステージが近いので、顔がよく見える。笹井君はセンターの右側にスタンバイしていた。音楽が鳴り始め、ダンスが始まった。私は舞台に釘付けになった。ゆっくりとした動きで始まったダンスは、曲調の転換と共に激しい動きに変わった。緩急がついているので、動きを合わせるのが大変そうだが、見事に全員の動きはシンクロしており、まるで1つの大きな生き物のようだった。それぞれにソロパートがあり、全員が、各々の個性が出たダンスをしていた。笹井君のソロパートになり、私は息を呑んだ。メンバー全員、ダンスが上手いのが分かるが、やっぱり私は笹井君の軽やかなダンスが一番好きだった。途中、ジャンプをする場面があったが、滞空時間が長く、やっぱり本当に羽が生えて飛んでいるようだった。
ダンスが終わっても、私は放心状態で、すぐに拍手をすることができなかった。
素人目で見ても、笹井君のチームは群を抜いて見応えがあった。もちろん、結果発表では、彼のチームの優勝が告げられた。全チームの前に出て、優勝トロフィーを受けとる笹井君達に向けて、私は観客席から手が痛くなるくらい、拍手を送った。
結果発表が終わり、観客が退席し始めても、私は余韻に浸っており、そのまま座ったままでいたが、観客や関係者がまばらになってきたので、出口へと向かった。外に出ると、もう日が傾いていた。会場にいる間は興奮していて自覚しなかったが、家を出る前に朝昼兼用で軽くご飯を食べていただけなので、お腹が空いていたことに気づいた。このままこの近くでご飯を食べるか、家に帰って夜ご飯を食べるか迷っていると、
「山下!」
また後ろから声を掛けられた。振り返ると、レッスン着姿の笹井君が立っていた。私は走って笹井君の側まで行った。
「笹井君、お疲れ様。本当にすごかった。優勝おめでとう。」
私は笹井君にお祝いを伝えた。
「ありがとう。よかった。まだ帰ってなくて。山下座ってるの、舞台の上から見えてた。」
笹井君は笑顔で伝えてくれた。
「観客席で最前列取れたからね。早めに来て正解だった。観客席からも舞台全体が見えたから、すごい見やすかった。本当に、すごかった、大迫力で。無料で観ちゃって良いのかなって思うくらい。」
私は興奮しながら伝えた。
「…山下が応援してくれたから、いつも以上に頑張れた気がする。ありがとう。…あのさ、この後、時間ある?良かったらご飯食べない?」
思いがけない誘いに、驚いたが、この感動を伝えたかったので、またとないチャンスだと思った。
「いいの?行きたい!どれだけ私が感動したかを伝えたい。」
でも、そのタイミングで、笹井君から離れたところに、同じダンスチームのメンバーが集まっているのが見えた。
「…でも、同じチームの人達同士で集まって打ち上げしたりするんじゃない?私と行っちゃって大丈夫?」
私が聞くと、
「チームのメンバー、俺以外は皆20歳超えてて、この時間だとアルコール出してる店少ないから、19時過ぎから、この近くの店で打ち上げなんだ。それまでは時間あるから大丈夫。」
笹井君はそう説明してくれた。
「じゃあ、遠慮無く。ものすごい良いものを見せてもらったから、もう、すごかったよっていうのを、私の語彙力の限り伝えたい。」
私がはしゃぎながら言う姿を、笹井君は、優しく見守ってくれた。
私たちは歩いて10分ほどの喫茶店に向かった。しっかりご飯を食べようかとも思っていたが、ディスプレイに並んでいた大きなパフェに心奪われてしまい、私はフルーツパフェを頼んだ。笹井君はこの後の打ち上げまで保たなそうと言って、ホットサンドを注文していた。
「笹井君。改めて誘ってくれてありがとう。本当に楽しかったし、感動した。何より優勝おめでとう。」
私は改めてお祝いの言葉を伝えた。
「ありがとう。一応さ、うちのチーム、この大会は2連覇してたから、3連覇できて良かった。」
笹井君がさらっと言った事実に驚いた。
「3連覇なの!すごいね。でも確かに他のチームも上手だったけど、笹井君達のチームが一番すごかったし、正直優勝だろうなとは思ってた。他のチームに比べて、やっぱり振り付けがすごく印象に残るから、トータルで頭一つ抜けてたと思う。あの振り付けも笹井君が作ったの?」
私が質問すると
「8割くらいは俺が作ったかな。」
笹井君は当たり前のように答えた。
「やっぱり笹井君、天才。あんなに目を引いて、心に残る振り付けを作れるなんて、絶対才能あるよ。」
私は笹井君の顔を思わずじっと見てしまった。
「大げさだよ。うちのチーム皆ダンス上手いから、そのおかげで振り付けが引き立ってるだけと思う。」
笹井君は私の視線から逃れるように、目を逸らしながら話した。彼の顔が赤くなっているのが分かった。
「確かに皆、上手だったけど、私は笹井君のダンスが一番上手だと思った。個人的に一番好きなダンス。ほら、ソロパートで笹井君ジャンプするじゃん?そのとき滞空時間が長くて、本当に羽が生えて飛んでるみたいだった。すごかった。」
私は笹井君のダンスを思い出しながら話した。そのまま笹井君の方を見ると、彼は耳まで赤くなっていた。
「…ありがとう。でもそこまで褒められると照れくさいし、恥ずかしい。」
彼は苦笑いを浮かべていた。
「ごめん、興奮してつい。でも本当に一番すごかった。なんか、一番オーラを感じた。…笹井君、ダンスでプロになろうとは思わないの?あんなにすごいから。」
私がそう言ったとき、笹井君の表情が少し曇った気がした。
「…プロって大変みたいだからさ。」
笹井君が少し悲しそうに笑いながら話した。何か口にしてはいけないことを言ってしまった気がして、どうしようかと思っていると、そのタイミングで注文したホットサンドと、パフェが届いた。
「じゃあ、食べよっか。いただきます。」
そう言って、笹井君が食べ始めたので、私も
「いただきます。」
と言ってフルーツパフェを食べ始めた。
パフェは美味しくて、その後も話は盛り上がったが、さっきの笹井君の表情が私は気になっていた。
食べ終わったあと、笹井君は駅まで私を見送ってくれた。
「わざわざ送ってくれて、ありがとう。そろそろ打ち上げの時間だよね?遅れたら大変だし。ここまでで大丈夫から。」
私がそう言うと、
「分かった。山下、今日は来てくれてありがとう。さっきも言ったけど、山下がいたおかげで、いつも以上に力が出た。感謝してる。」
笹井君はそう言って笑った。
「こちらこそ、すごいものを見せてもらえて、本当に嬉しかった。誘ってくれてありがとう。もし、またダンスをする機会があったら、見に行きたい。」
私がそう言うと、笹井君はまた表情が曇った気がした。
「実は、大会に出るのは今回が最後なんだ。だから…今日見せられて良かった。」
そう話す笹井君は悲しげだった。
「そうなんだ…。」
残念に思う気持ちが、私の顔に出ていたと思う。
「とにかく、ありがとう。また明日、学校で。じゃあ。」
そう言って笹井君は去って行った。




