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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 「やっぱり小論文、苦手。なんで山下は800字もすぐに文章書けるの?」

前回の試験対策で玉木先生に出された小論文のお題に対して書いた文章を見返して、笹井君は眉間に皺を寄せていた。

 春になって進級し、私は高校3年生になり、笹井君と初めて同じクラスになった。毎週火曜日と金曜日はAO入試入試のために進路指導室に集まることになっていたが、授業が終わってから玉木先生が来るまでの間、2人とも進路指導室で時間を潰すことが多く、自然と一緒に勉強をするようになった。文系科目が得意な私は、小論文や、模擬講義の試験を順調にこなせていたが、笹井君は苦戦していた。

「うーん。この本に書いてあるルールを覚えて、あとはひたすら繰り返せば、なんとなくコツがつかめる気がする。」

そう言って私は小論文の攻略本を見せた。

「俺、本読むの本当に苦手なんだよなー。一回読んだし、書いてること守ってるつもりだけど、どうしても文章に詰まっちゃう。山下は本読むの得意?」

笹井君に聞かれ、

「得意かと言われると答えるのは難しいけど、本は読む方だとは思う。文章を読むのに慣れれば、書くのもできるようになるんじゃないかな。新書とか。」

そう答えると

「新書なんて本当に人生で一度も読んだことない。」

笹井君は頭を抱えていた。

「まぁ、まだ試験まで半年以上あるから、今から頑張っていれば、大丈夫でじゃないかな。それで、この後、タイミングが良くなったらでいいんだけど、数学聞いていい?この前の模試の。」

私は、笹井君によく数学の質問をしていた。笹井君は数学が得意なので、文系科目や暗記科目は私が教え、数学は笹井君が教えてくれるようになっていた。

「これは、ここで公式を使えばできると思う。」

笹井君は私が苦戦した問題もあっという間にさらりと解いてしまう。

「なるほど。そこで使うのね!わーすごい。やっぱり数学ってセンスいるよね。私には数学のセンスがない。」

 今度は私が頭を抱えた。

「でも、山下、一度言えばすぐ理解するし、どこで公式を使うかとか、パターンを覚えればできる気がする。だから、とりあえずたくさん解いて、慣れれば一気にできるようになるんじゃないかな。」

笹井君にアドバイスされ、少しやる気を取り戻した。

「数学ができる笹井君がそう言うなら、そうなんだろうね。...苦手、苦手と言って逃げずに、私もひたすら問題数解きます。」

そう宣言すると、

「きっと山下ならできるようになるよ。」

笹井君はそう言って笑った。一緒に勉強するようになってから、笹井君はよく笑いかけてくれるようになった。初めは目つきが悪くて怖い人かもしれないと思っていたことを私は反省していた。過去の経験で、見た目で決めつけるのは良くないと自分でも学んでいたはずなのに。

 今までいつも一人で勉強していたから、誰かと一緒に勉強するのは新鮮だった。何より自分が苦手なところを教えてくれる人がいるのは心強い。

 そのタイミングで玉木先生がやってきたので、私は数学の模試をカバンにしまった。


 「お疲れ様。二人とも気をつけて帰ってね。」

玉木先生がそう言って、この日の対策は終わった。立ち上がると、私の座っていた椅子の脚が、笹井君のカバンにあたり、倒れて、中身が床に撒かれてしまった。

「あ、ごめん!笹井君の荷物落としちゃった。」

私は慌てて、床に広がった荷物を拾った。中身はスウェットとTシャツとグレーのニット帽だった。

「ごめんね。気をつけて立つべきだった。洗って返した方がいい?」

私が聞くと

「いいよ。ちょっと床に落ちたくらいなら、汚れてないだろうし、元々使い古してるレッスン着だから。」

笹井君はそう言って、私が持っていた服を受け取った。

「レッスン着?何のレッスン?」

笹井君は帰宅部なので、何の用途に使うのか気になった。

「俺、小学生の時からダンススタジオ通ってて、今も行ってるから、そこで使ってる。本当は月曜日と水曜日がレッスンなんだけど、キッズクラスのトレーナーもやってるから、今日はそれで使う予定。」

笹井君がダンスをやってることを知らなかったので、驚いた。

「笹井君ダンスやってるんだ!ていうか、トレーナーって先生ってこと?すごいね!」

私が驚いて声を上げると、

「そんなにたいしたことじゃないよ。たくさんトレーナーがいるわけじゃないから、お手伝いしてる感じだよ。」

笹井君は少し照れながら謙遜していた。

「何て名前のスタジオなの?」

私が質問すると

「studio soraってところ。ここから歩いて20分くらい。俺の家の近く。イオンのそば。」

それを聞いて私は驚いた。

「ちょっと待って、スタジオがイオンの近くってことは、笹井君の家って、私の家と反対方向じゃない?」

私が言うと、笹井君は少し気まずそうだった。

「ごめん、私、てっきり家が近いから、帰り送ってくれてるんだと思ってた。毎回、遠回りさせてたんだね。本当に申し訳ない。」

私は頭を下げた。

「いいんだよ。夜遅いと危ないし。えーっと、ほら、山下の家の近くにパン屋あるでしょ?あそこのパン買って帰りたいから。気にしないで。」

確かに、私の家の近くには、美味しくて有名なパン屋さんがあり、私もたまにそこのパンを買っている。

「そうなの?それならよかったけど...。無理して私のこと送らなくても大丈夫だからね。本当にごめんね。」

私は重ねて謝った。

「いいんだよ。そういうわけで、今日もパン買うからさ、送るよ。」

笹井君はそう言うと、少し困ったように笑っていた。


 その日の夜、寝る前に、私はstudio soraを検索した。ホームページがヒットしたので開くと、スタジオでのダンス動画がYouTubeにアップされていた。気になってクリックすると5分ほどのダンス動画が何本かあった。そのうちの1つを開くと、一番左側に見覚えのあるグレーのニット帽を被った男性がいた。笹井君だ。

 始まったダンスから私は目が離せなかった。彼はまるで重力がないかのように軽やかに踊っていた。ゆっくりな動きをしていたかと思えば、次の瞬間には目にも止まらない速さで動き、人間はこんなに緩急をつけた動きができるのかと驚いた。そして、ジャンプした時に、周りの人と比べても滞空時間が明らかに長い。まるで、背中に羽が生えて飛んでいるようだった。

「...すごい。」

私は思わず呟いていた。

そのまま全ての動画を3周して、見終わっても私は興奮してなかなか寝付けなかった。


 翌朝、いつもより早めに登校して、教室に笹井君が入ってくるのを待っていた。そして、彼が入ってくるとすぐ彼の元に駆け寄った。

「笹井君!ちょっといい?」

 進路指導室では一緒に勉強していたが、普段教室で話しかけたことはなかったので、彼は驚いていた。

「うん、いいけど、どうしたの?」

私の勢いに圧倒されて戸惑っているのは明らかだった。

「昨日、笹井君のダンススタジオの動画見たの、すごかった!!笹井君あんなにダンス上手なんだね!びっくりしたし、目が離せなかった!ダンス動画全部3周は観たよ!本当にすごい!めちゃくちゃ感動した!もう、本当に心が震えた!」

私が興奮しながら伝えると、笹井君はその熱量に圧倒されてた。

「...ありがとう、そう言ってくれて、嬉しい。」

笹井君は戸惑いながら、答えてくれた。

「本当にすごかった。あのダンスの振り付けとかって、みんなで作ってるの?なんか、目に焼きついてすごかった。」

私が聞くと

「...あれは、だいたい俺が振り付けしてる。」

彼の答えに私は目を見開いた。

「うそ...本当にすごい...天才じゃん...!」

私はそのまま笹井君の顔を見つめて呆然としてしまった。気がつくと、笹井君は耳まで真っ赤になっていた。

「ありがとう山下。でも、流石にそこまで言われると照れるわ。」

彼は苦笑いしていた。

「ごめん、勢いがすごくて。でも本当にすごかった。いつか直で見てみたい。」

私がまじまじとそう言うと、笹井君は少し考えて、

「...今度大会があるから、良かったら見にくる?」

「行く!絶対行く!」

私は即答した。


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