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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 山下を好きな気持ちを言葉と態度で示す。そう決めて、とにかく、すぐに声をかけられる距離感を保つことにいた。俺の存在に気づかずに動く山下のそばに居続ける自分は、はたから見たらストーカーのように見えるかもしれないと思ったけど、すでに海斗と矢崎に山下を見つめ過ぎなことを指摘されているから、今までとあまり変わらないのかもしれないとも思った。

 休憩時間には、山下がよく飲んでいるアイスティーをすぐに手に入れて、渡した。アリス姿で汗をかいている山下は、艶かしく見えたが、煩悩に負けないように耐えていると、山下が自分の飲んでいたペットボトルを俺に渡そうとしてきたので、全力で断ってしまった。頼むから無自覚に煽るのをやめてほしい。そんなことを思っていると、山下は、自分も汗だくなのに、俺が暑そうだからと、扇子で仰いでくれた。その気遣いにキュンとした。

 校庭に戻り、少し山下から離れた隙に、浪川が山下に話しかけていた。しかも、山下は浪川に飲みかけのペットボトルをあげていた。こんなことなら、さっき受け取っておけばよかったと後悔していると、山下が扇子を出して、浪川を仰いでいた。もう我慢できなかった。

「山下!そろそろキャンプファイヤーだから、集まれって言われてる!」

俺はそう言って、山下の手首を掴んで、浪川から引き離した。そのまま腕を引いて、クラスメートの集まりの後ろ側に向かった。急に大胆に行動しすぎたかもしれない、まだ山下が浪川と話したかったかもしれないと、自分の行動を少し後悔していると、

「笹井君、どうかした?」

山下に言われて、ハッとして、すぐに手首を離した。急に手首を掴んで連れて来たことを謝ると、山下は笑顔で大丈夫だと言ってくれた。

今、言うしかない。俺は腹を括った。

「ちゃんと言えてなかったけど、アリスの仮装すごく似合ってる。びっくりした。...可愛すぎて。」

そう言うと、山下はハッとした表情をしていた。

「...本当は、矢崎が山下を連れてきたときに、言いたかったけど...可愛すぎて、びっくりしたから、声が出なくて...。

本当にすごく可愛くて、似合ってる。」

言い終わった時、自分の顔がとても熱くて、はたから見てどれだけ赤くなっているんだろうと思った。

ただ、俺が話している間に、山下の顔も赤くなっていたので、少しは...伝わったのかもしれない。

「...ありがとう。」

そう言って、恥ずかしそうに笑う山下を、心の底から可愛いと思った。

キャンプファイヤーが始まると、背が低い山下は見えづらそうだったので、勇気を出して、また手首を掴んで、1番前まで連れて行った。山下がどんな表情をしているか見るのが怖くて、しばらくキャンプファイヤーだけを見ていたが、少しして、視線を感じた。山下の方を見たけど、彼女はこちらを見てはいなくて、キャンプファイヤーに目を向けていた。その横顔はやっぱりとてもキレイだった。視線を感じたのは気のせいだったかもしれないと思い直して、そのまま2人で並んで、キャンプファイヤーを眺めていた。


 前夜祭の全ての行事が終わり、暑かった仮装を脱いで制服に着替え終わったタイミングで、海斗が肩に手を乗せて、声をかけてきた。

「陽介、お疲れ様...頑張ったねー。」

海斗の労うような表情を見て、おそらく俺の山下に対しての行動を見ていたのだと思った。

「まぁ...一応...。」

どう答えていいか分からず、口をモゴモゴさせていると、

「どうなるかなーと思ったけど、まぁ、頑張ったことは見てて分かったよ。」

ハートの女王から制服に着替えた矢崎もやって来た。

「林の言う通り、ちゃんと素直に反省して、その反省を生かして行動できるのが、笹井の良いところだね。うんうん。」

頷きながら、こちらを見る矢崎を見て、褒められてるのか、貶されてるのかよく分からなかった。

「ところで、あずにゃんと写真撮れたの?」

矢崎に聞かれて青ざめた。しまった。キャンプファイヤーを一緒に見られたことに満足して、2人で写真を撮ることを忘れていた。うなだれる俺の様子を見た2人は、すべてを察したようだった。

「あーあ、あんなに可愛かったのに。本当にもったいない。アリスの衣装は洗濯できないから、今日1回限りだったのに。」

矢崎の言葉でトドメを刺された。


 翌日、山下は午前中に調理場、午後にホール担当だった。山下の様子が気になったので、俺は海斗と一緒に、午後、ホールの手伝いを申し出た。担当のリーダーの采配で、俺たちは教室の入り口でお客さんの対応をすることになった。調理場が忙しかったのか、山下は交代の時間から遅れてやってきた。矢崎が彼女を連れて行って、どこかに行ったと思うと、昨日のアリスのヘアメイクをして戻ってきて驚いた。遠目でも山下が可愛いのがよく分かった。

アリスのヘアメイクをした山下はたくさんのお客さんから声をかけられていて、その度に頭を下げてお礼を言っていた。これ以上ライバルが増えたら困ると思って、山下の様子をずっと見ていたら、

「...陽介、仕事しようね。」

実質、海斗1人に仕事を任せてしまっており、呆れるように言われた。

「3人でお願いします。」

そう言ったお客さんを見ると、浪川だった。2人の友達を連れて来ており、俺と目が合うと、余裕そうに軽く笑った。クソっ、イケメンめ。

「アリスいますか?会えるかなと思って。」

浪川の友達の、メガネをかけた男がヘラヘラしながら聞いていた。

「ちょうどホールにいますよー。」

海斗が答えると、

「お、本当だ。やっぱり細いなー。昨日くらい脚出してほしいなー。」

もう1人の男が山下を見ながら言うのを聞いて、俺はおそらく凶悪な顔になっていただろう。

「3名様入りますー。」

海斗が店内に声をかけて、3人を中に入れた。

「...陽介、目つき悪すぎ。」

海斗に苦笑いされながら言われ、

「...生まれつきだよ。」

とふれ腐れながら返した。

山下と浪川が何を話してるか気になったが、さすがに仕事をしないわけには行かず、お客さんの対応をしていると、なんだか会話が盛り上がっていそうで、俺はどんどん不安になった。

食べ終わった浪川が、一緒に文化祭を回らないかと山下を誘った時、頼むから断ってくれと念じていたら、断っていて安心したけど、その代わり浪川が担当の時にクラス展示に行くことを約束していて、一気に落ち込んだ。

ダメだ、心が折れるのはまだ早い。俺も一緒に文化祭を回ろうと誘わなければいけない。

本祭が終わった後、俺は勇気を出して、矢崎といた山下に声を掛けた。明日の午後、山下はクラス展示の仕事はないはずだった。

「良かったら一緒に文化祭回らない?矢崎と海斗と四人で。」

そう言うと、山下はOKしてくれた。誘いに乗ってくれて、心の底から安堵した。


 早めにメニューを売り切るため、後夜祭の午前中は手が空いているクラスメート全員で働くことになった。教室の中でホール作業をしていると、山下が痛そうに腕を押さえながら廊下を歩いているのが見えた。

「ごめん、ちょっと出てくる。」

海斗に、そう声を掛けて、山下の方へ向かった。話を聞くと、腕に火傷をしてしまったということだったので、俺は山下を保健室まで連れて行った。

保健室の扉を開けると、先生はいなかった。

山下を保健室のベッドの脇に座らせ、冷蔵庫から出した保冷剤をタオルで包んで、山下の右手首を掴み、火傷に保冷剤を当てた。山下の腕に傷跡が残ってしまわないか心配で、俺はひたすら保冷剤で冷やすことに集中した。しばらく夢中になっていると、

「...笹井君、私、自分で押さえられるから、大丈夫だよ。あの...ちょっと...触られてると、緊張する。」

山下にそう言われ、すぐさま両手を離した。しまったやりすぎた。

「ごめん!また、許可も取らずにずっと掴んじゃって...。あの...すみません。」

俺は立ち上がって、山下から距離を取って頭を下げた。

「いや、全然大丈夫、むしろ押さえててくれてありがとう、触られるのが、嫌だったわけじゃないから。」

そう言われて、驚いて山下を見ると目が合った。

山下の顔が赤かった。そのまましばらく黙って見つめ合ってしまった。俺の顔も熱くなった。


 午後、約束通り、文化祭を一緒に回るため、山下と矢崎に声を掛けると、山下は目を伏せてしまい、ショックを受けた。やっぱり、さっき、やりすぎたか。

でもここでは諦めてはいけない。俺は自分で自分を励ましていた。

しかし、どこを周ろうか話していると、山下は浪川のクラスの展示に行きたいと言い出した。約束していたのを見ていたから仕方ないとは思いつつ、複雑な気持ちになり、しかも、和菓子メニューを出してる展示だったので、あんこが苦手な俺は、さらになんとも言えない気持ちになった。それでも、矢崎も海斗も行くことに賛成したので、その気持ちを隠して、3年5組に向かった。

 展示に入ると、浪川が笑顔で出迎えた。相変わらず、イケメンで腹が立つ。

 席に案内されてからも、浪川は山下と話が盛り上がっていた。正直目の前で見せつけられると、かなり苦しい。我慢できずに、注文したいと言って、話に割り込むと、矢崎に諌められ、俺は頭を上げられなくなった。

しかも、みたらし団子を頼んだら、浪川からあんこしか残っていないと言われ、”もしかして、俺があんこが苦手なことを知ってて、わざと食べさせようとしているのか?”と思ってしまった。しかし、変な意地を張って、あんこが得意だと嘘をついてしまった。絶対、後から胸焼けするだろうなと後悔した。

注文した品々が届くと、山下はあんみつを美味しそうに食べた後に、自分のスプーンを付けて、

「1口どう?」

と俺たちに分けてくれようとした。”同じスプーンに口をつけるの?!”と思った瞬間に、浪川が、新しいスプーンを持ってきた。目ざといにも程がある。

 出されたあんこたっぷりの串団子をなんとか食べ終え、グロッキーな状態で、廊下に出ると、矢崎がリップを無くしたと言い出した。そして、リップを探すために海斗を連れて行き、俺と山下と2人きりにしてくれた。去り際の矢崎の視線からは絶対に上手くやりなさいという念を感じた。

 山下と2人で投票会場に行き、前夜祭の写真を一緒に見た。やっぱりアリス姿の山下はとても可愛い。写真を一緒に撮れなかったことを後悔してると伝えると、山下は困ったような、照れているような反応をした。やっぱり、さらりと山下を褒められて、写真も2人で撮れている浪川に比べて、俺は遅れを取っていると感じた。

矢崎の言う通り、彼女にもっと、分かりやすく伝えなければいけない。そう思って、打ち上げが終わったら、山下を送りたいと伝えると、OKをもらえて、心からホッとした。


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