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ドリーマー  作者: 滝本泉
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18

 夏休みが明けると、学年全体が一気に受験モードになっていた。

私は、陽介君との約束通り、今まで以上に勉強に取り組んでいたが、1つだけどうしてもやりたいことがあった。

渡したい物があるから、時間を作ってもらえないかと陽介君に連絡すると、すぐに返信が来て、翌日の放課後に会うことになった。

翌日は火曜日だったので、受験対策の後、学校から私の家まで彼が送ってくれることになった。

 放課後、進路指導室で勉強をしていると、浪川君がやって来た。

彼と会うのは、花火大会に誘われた時以来だった。

一瞬あの時のことがよぎったが、すぐに頭を切り替えた。

「浪川君、お疲れ様。」

「お疲れ様。」

挨拶をすると、彼はいつも通り隣の席に座って来た。そのまま勉強を続けようとしたタイミングで、

「彼氏とは順調?」

いきなり聞かれ、私は驚いて目を見開いて浪川君を見た。

「...彼氏って...そんな...」

私が目を泳がせて、答えられずにいると、

「え?花火大会一緒に行ったのに、付き合ってないの?なんで?」

浪川君はまっすぐな目で聞いていた。

ことちゃんも林君も、薄々勘付いていそうではあるけど、詳しく聞いてくることはなく、遠目で見守ってくれている様子だったので、ストレートに聞かれて狼狽えてしまった。

「もしかして、あれ?まだ受験生だし、勉強が落ち着いたら、付き合いましょうとか?」

そんなことは私も分からない。

次々と繰り出される質問に、私が答えられないでいると、

「...なーんだ。いじるチャンスかと思ったのに。」

そう言って、浪川君は軽く笑った。

「...浪川君、意地が悪いよ。」

私は恨めしい表情で彼を見た。


 この日も2時間受験対策をして解散になった。

陽介君とは正門前で18時10分に待ち合わせをしていたので、壁にかけてある時計をチラチラ見てしまっていた。

待ち合わせに間に合いそうだと思い、勉強道具を片付けていると、

「...あずちゃん、なんか、ずっとソワソワしてたね。」

私の様子を見ながら、浪川君が言った。

図星だったので、私はまた目が泳いでしまった。

「ちょっとね。色々予定があるから...。」

そう言って、平静を装い、片付けを終え、

「じゃあ、浪川君、今日もお疲れ様。塾、頑張ってね。」

挨拶してから、教室から出ようとすると、前に浪川君が立ちはだかってきた。

「...会う約束でもしてるの?」

彼は私を見下ろしながら、聞いて来た。身長差が30cm近くあるので、圧倒されてしまう。威圧感があり、ちょっと怖かった。でも、待ち合わせには遅れたくない。

「...お願いだから、遅れたくないの。」

私がそう言って、目で訴えると、浪川君はため息をつきながら、私の前からどいてくれた。

「じゃあ、お疲れ様。」

私はそう言って、走って教室から出た。


 約束の時間から5分遅れて、正門に向かうと、既に陽介君が来ていた。

「ごめん!レッスン抜けて来てもらったのに、待たせちゃって、本当にごめんね。」

私は彼に頭を下げた。

「気にしないで、勉強お疲れ様。疲れてない?」

陽介君は優しく私を気遣ってくれた。

「大丈夫、問題ないから、行こう。」

私はそう答えて、歩き出した。

彼が私を送った後、ダンスレッスンに再び戻ることを知っていたので、あまり時間を取らせるのは悪いと思ったのだ。

そう思う気持ちから、少し早歩きになってしまっていると、陽介君が私の腕を掴んできた。驚いて、振り返ると、

「歩くの早くない?何か急いでる?」

彼に聞かれた。私はおとなしく白状した。

「陽介君、この後またレッスンに戻るでしょう?大事な練習時間を中断させてて申し訳ないから、早めに歩いたほうが、早く戻れるかなって思って。」

私がそう言うと、彼は少し黙った後に、口を開いた。

「...俺、梓と話せるの楽しみにしてたから、早く送り終わっちゃうのさみしい。」

そう言われて、私は顔が熱くなった。

「そんなに急がなくて大丈夫だよ。休憩時間も取らないと、踊り続けることってできないし。いつも通りのスピードで歩きましょう。」

陽介君はそう言って笑った。

その言葉に甘えて、いつも通り、他愛もない会話をしながら、歩いて帰った。私の家の前まで着いたタイミングで、私は自分のカバンから用意していたものを取り出した。

「陽介君、これ。よかったら使って欲しい。」

私は包装紙に包まれたプレゼントを渡した。

「...ありがとう。開けていい?」

彼は嬉しそうに聞いて来たので、

「ぜひ、どうぞ。」

と答えた。プレゼントの中身は、フェイスタオルだった。

「ダンスのとき、汗拭いたりするかなって思ったのと、もし、ダンスの時に使わなくても、普段から使えるから。役に立たないことはないかなって思って。」

私が選んだ理由を、説明するのを聞きながら、陽介君は優しい目でタオルを見つめていた。

「...ありがとう。さっそく使わせてもらうね。」

そう言ってタオルを大事そうに自分のカバンにしまっていた。そして、私にはもう1つ渡したいものがあった。

「あと、これもどうぞ。」

私はそう言って、カバンの中から取り出したお守りを彼に渡した。

「勝負事にはお守りかなって思って、神社で買ってきた。あと少し陽介君が頑張れるように。本当に、本当に応援してるから。」

私がそう言うと、彼は両手でお守りを握って、じっと見つめていた。

「なんか、御利益ありそうな気がする。本当にありがとう。」

そう言って、笑顔で私を見た。プレゼントを喜んでもらえた嬉しさを噛み締めていると、陽介君が両手を前に出してきた。

「別れる前に、手、握りたい。」

思いがけない提案に驚いて彼の顔を見ると、赤くなっていた。

「...握ってもらえたら、あと少し頑張れそうかなって。梓から元気をもらいたいなと。名残惜しくなっちゃうかもしれないけど。」

そう言われ、私はゆっくりと自分の手を前に出し、陽介君の両手を握った。目を閉じて、念を送った。どうか、陽介君が優勝できますように。

「たくさん、念じておいたから、きっとパワーは渡せたと思う。」

目を開けてから陽介君に言うと、彼は愛おしいものを見る目で私を見ていた。私の心臓が跳ねる音が聞こえた気がした。

「ありがとう。...やっぱり、名残惜しくなっちゃった。」

陽介君はなかなか私の手を離さなかった。いよいよ恥ずかしくなって来たので、

「...そろそろ、お父さんが、帰ってくる時間だから。」

そう言うと、彼は慌てて手を離した。

「...ごめん、調子に乗りました。」

陽介君は両手を上げて頭を下げていた。なんだかおかしくて、2人で笑い合った。

「...じゃあ、そろそろ行くね。またね。」

彼はそう言って、笑顔で手を振りながら帰っていった。私は陽介君の姿が見えなくなるまで、家の前で彼を見送った。


 「ただいまー」

「おかえり。」

家に帰って、リビングに入ると、お母さんはキッチンで料理をしていた。

私の様子を見たお母さんは、

「...なんだかご機嫌だね。」

ニヤニヤしながら聞いて来た。

「買ったプレゼント渡せて、喜んでもらえたから。」

私が笑顔で答えると、

「そっか、そっか。神社まで買いに行った甲斐があったね。」

お母さんは嬉しそうに話していた。

でも、私には1つ気がかりなことがあった。

「...今度、東京に行く理由、お父さんに、私からも伝えたほうがいいかな?」

お母さんがお父さんに、東京に行くことは伝えており、飛行機のチケットも、ホテルも予約してくれたが、私は自分から何も話していないのが気になっていた。

「うーん。私が伝えてるから、大丈夫だと思うけど、梓が気になるなら、今日言ってみたら?」

そんな話をしていると、お父さんが帰って来た。

「ただいま。」

「おかえりなさい。」

 食卓について、夜ご飯を3人で食べ始めた。私はお父さんに話すことにした。

「お父さん、今度ね、お母さんと東京行かせてもらうけど、あれ、同級生のダンスの大会の応援に行きたいからなんだ。その子、本当にダンスがうまくて、それに、毎日本当に努力してるから、最後まで応援したくて。その子の目標に向かって頑張る姿を見てたら、私も自分の夢を叶えるために、より頑張ろうって思えるから。」

私が話すのをお父さんはじっと見ていた。

「応援に行かせてもらう分、帰って来たら、今まで以上に頑張ります。勉強。」

私がそう宣言して、お父さんを見ると、

「...頑張りなさい。」

一言そう言って、お父さんはまたご飯を食べ始めた。





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