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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 40分ほど続いた花火はあっという間に終わってしまった。花火が終わると、一斉に人が動き出した。

「梓、離れないように、手、握ってて。」

陽介君に呼び捨てにされて、ドキドキしながら、彼の手を握った。

人波にときどき流されながら、私の家に向かって歩き出した、しばらく歩くと人はまばらになり、はぐれる心配は無くなったけど、彼は私の手を握ったままだった。

「楽しめた?花火大会。」

しばらく黙っていた陽介君が口を開いた。

「うん。すごく楽しかった。誘ってくれてありがとう。」

私はそう答えて、感謝を伝えた。

「今日を楽しみにして、ずっと勉強頑張ってたから、終わっちゃうと、ちょっと寂しいなー。明日から、また勉強頑張らなきゃ。」

楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、今日が終わってしまうことに私は寂しさを隠せなかった。

陽介君はそんな私の様子を見て

「俺も、ダンス頑張る。ラストスパートで。」

そう宣言した。

「あと3週間で大会だもんね。応援してる。頑張ってね。」

私は繋いだ手を強く握って、自分の応援の気持ちを込めた。

すると、陽介君は立ち止まって、私の方を見た。

「…梓。大会の会場まで、応援しに来てくれない?」

思いがけない提案に驚いた。

「前の大会の時、梓が会場にいるって思うだけで、いつも以上に力を出せた気がしたから、今回も来て欲しい。梓がいれば、大会の雰囲気に飲まれないで、全力を出せる気がする。」

陽介君は真剣な表情をしていた。

私も、もちろん会場で彼のことを応援したかった。

でも、東京は日帰りできる距離ではないし、さすがに親にも説明しなければ難しいと思った。

「すごい行きたいし、応援したい。でも、親に言わないと難しい距離だから、許可取れるように頑張る。絶対説得するから、待っててもらっても良い?」

難しいかもしれないと思っていたけれど、私はどうしても、応援に行きたかった。

私の切実な様子を見た陽介君は、意を決したように、口を開いた。

「...今から、梓のお父さんとお母さんに、お願いさせてもらいに行ってもいい?」


 「お母さん、ただいま。」

玄関まで出迎えに来たお母さんは、私が陽介君を連れて帰って来たのを見て、とても驚いていた。

「夜分遅くに突然申し訳ありません。はじめまして、梓さんの同級生の笹井陽介です。今日はどうしても、お願いしたいことがあって、お家まで伺わせていただきました。」

そう言って頭を下げる陽介君を、母は目を丸くして見ていた。

「はじめまして、いらっしゃい。わざわざありがとう。立ち話もなんだから、上がっていって。」

お母さんはそう言って、陽介君をリビングに案内した。

「今日は夫がいないから、私1人でごめんなさい。今お茶入れるね。」

「すみません、急に来たので、そこまでしていただくのは申し訳ないです。」

陽介君は恐縮していたが、

「いいから、いいから、私が飲みたいし。梓が同級生を連れてくるなんて初めてだから、ちょっと嬉しいの。アイスティーでも大丈夫?」

お母さんはそう答えて、グラスにアイスティーを用意していた。

今日、お父さんが、たまたま出張でいなくて良かったと思った。

私が反抗するタイプではないので、気にしてはいないけど、周りから見たら恐らく過保護な父親なので、門限前とは言え、男の子を家に連れて行ったら、怒っていたかもしれない。

普段過ごしているリビングのソファーに陽介君が座っているのは、なんだか不思議な感覚だった。

お茶が来るまでの陽介君は、明らかに緊張していて、姿勢正しくソファーに座っていた。

「どうぞ。ミルクとガムシロップもあるから、良かったら使ってね。」

母がそう言ってお茶を出すと、

「ありがとうございます。」

そう言って深々と頭を下げていた。

お母さんが向かいのソファーに座ると、陽介君は深呼吸をして、話し始めた。

「話が長くなってしまいそうなので、お願いから先に言わせて欲しいです。

僕は今、ダンスをやっていて、プロを目指しています。プロを目指すためにどうしても優勝したい大会が3週間後の日曜日、東京であって、梓さんにこの大会に応援に来て欲しいんです。

もちろん、僕のお願いで来てもらうので、東京までの飛行機のチケットと、前泊のホテル代は、僕がダンスのトレーナーとして働いてもらったお金で、準備しています。梓さんは未成年ですし、ご両親の分も用意していいます。」

自分の貯金から移動費を出そうと思っていた私は、初めて知る事実に驚いた。

「…僕は、今まで、ずっとダンサーになりたい気持ちを隠してきました。

本当はなりたくてたまらなかったのに、色々な言い訳をして、自分の夢から逃げて来ました。でも、梓さんはそんな僕の背中を押してくれました。自分が宝塚歌劇団に入りたくて努力していた話も教えてくれて、僕は、梓さんから、自分の夢に全力で向き合う勇気をもらいました。本当に感謝してもしきれません。

前に一度、ダンスの大会に梓さんが、応援に来てくれた時に、自分でも驚くくらい、力を出しきれたんです。梓さんがいれば、なんでもできると思えるんです。厚かましくて、不躾なお願いなのは分かっています。

でも、どうか、来ていただくことはできないでしょうか。

突然のお願いで申し訳ありませんが、考えていただけるとありがたいです。よろしくお願いします。」

陽介君はお母さんに頭を下げた。彼の気持ちを聞いて、私は胸が熱くなった。

「お母さん、お願い。私、どうしても応援に行きたい。」

私もお母さんに頭を下げてお願いした。

陽介君と私の様子を見たお母さんは、驚いた後、優しく笑って話し始めた。

「笹井君。頭を上げてね。急なお願いだから、びっくりしちゃった。

でも、笹井君が梓に来て欲しくて、梓も行きたいなら、反対する理由はないから大丈夫だよ。」

お母さんの返事を聞いて、私と陽介君はほっとした。

「ただ、お金は私たちが出すから、気にしないでね。未成年の子にお金を出してもらうなんて、とんでもないから。そのお金は、将来の自分のために使ってちょうだい。お父さんは...ちょっと頭が固いから置いておくとして、私と梓、2人で応援しに行かせてもらうね。楽しみだな。」

お母さんの返事を聞いて、陽介君は再び深々と頭を下げた。

「許していただけて、本当に嬉しいです。本当にありがとうございます。全力で頑張ります。絶対優勝します。」

お母さんから許しを得て、安心した様子の陽介君は、

「いただきます。」

と言って、お母さんが出したアイスティーを飲み干した。

陽介君は立ち上がると、

「夜分遅くに失礼しました。大会当日は、よろしくお願いします。」

そう挨拶して、玄関に向かった。私も急いで立ち上がり、玄関まで彼を見送りに行った。

「急なお願いだったのにありがとう。

俺、本当に頑張るから。絶対優勝するから。」

陽介君は私をまっすぐ見つめて宣言した。

「うん。頑張って。私も本当に、心の底から応援してる。」

私の返事を聞いた彼は笑顔になった。

「ありがとう。ゆっくり休んでね。また明日。おやすみなさい。」

「おやすみなさい。また明日。」

私は陽介君が玄関から出ていく姿を見送った。


 リビングに戻ると、お母さんが私のことを待っていた。

「お母さん、ありがとう。急なお願いだったのに。」

私がそう言うと、

「本当だよー。びっくりしたー。出迎えたら、梓が男の子を連れて来たから心臓止まるかと思ったよ。事前に少しくらい何か話しておいてよ。急に情報量が多すぎて、こっちはパニックだったんだから。」

お母さんは笑いながら話していた。

「彼のダンスすごいの?」

お母さんに聞かれ、

「うん、本当にすごい。一番最初に映像を見たんだけど、画面越しでも、迫力が伝わってきてすごかったの。どうしても生で見たくて、大会を見に行ったら、画面越しの何倍もすごかった。すごい速い動きをしたと思ったら、ゆっくり滑らかに動いたり、力強い動きをしたと思ったら、優しく柔らかい感じで動いたり、あと、やっぱりジャンプしたときの身体の軽やかさが一番すごいかも。本当に羽でも生えてるんじゃないかってくらい、高く、長く、飛べてて、なんて言うか、一度見始めると目を離せない。それに、振り付けも自分でほとんどやってるみたいで、それが、本当にすごく印象に残る動きというか。彼は、天才だと思う。」

私は熱弁を振るった。そんな私の様子を見て、お母さんは笑顔で話し始めた。

「梓が、そんなに夢中になるとは。梓を連れて、初めて宝塚の舞台を見に行った時、梓がすごい興奮してて、帰ってから私に、ひたすら

"私もあそこに立ちたい。宝塚に入りたい"って言ってたのを思い出したわ。彼のダンス、大会で見られるのが楽しみだね。」

母にそう言われて、私は、自分の本音を話した。

「楽しみだけど…、緊張してる。陽介君の夢が掛かってるから。私にできることは応援くらいなんだけどね。」

陽介君の夢が叶う手助けをしたいけれど、自分にできることが、応援することだけなのがもどかしかった。

そんな私の様子を見たお母さんは、口を開いた。

「…梓、浴衣に合ってるね。メイクも可愛い。」

急に話が変わったので、驚いてお母さんを見ると、

「彼に見せたかったの?」

と聞かれた。私は正直に頷いた。

「喜んでもらえたんじゃない?」

お母さんは嬉しそうに笑顔で聞いてきた。

「たぶん…。可愛いって言ってもらえた。」

お母さんの質問に答えて、顔が赤くなった。

私のそんな様子を見たお母さんは、ほっとしたような表情を浮かべた。

「よかった。梓が、勉強熱心なのは良いことだけど、学校帰りに、寄り道もせず、真っ直ぐ帰ってきて、勉強ばかりしてて、本当にそれでいいのかなって、ちょっと思ってたから。ノイローゼになるんじゃないかってヒヤヒヤしたし。宝塚目指してたときも、寝込んじゃったりしてたから。

目標に向かって頑張るのは良いことだけど、たまには息抜きしなきゃ電池切れしちゃうし、今しかできないことって、勉強以外にもあるんだけどなーって勝手に心配してたの。ちゃんと青春してて安心したわ。」

お母さんに心配を掛けていたことが少し申し訳なくなった。

「…付き合ってるの?」

核心を突く質問をされ

「…いや。それは…」

私と陽介君の関係はまだ上手く説明できない。しばらく唸っていると、お母さんは笑い始めた。

「うん、うん。わかった。まだなのね。そうか、そうか。でも、彼、良い子だね。わざわざ親に許可を取りに来るなんて。しかもお金まで出すって言われてびっくりしちゃった。」

「…私もお金のことは聞いてなかったから、びっくりした。あそこまで考えてくれてたなんて。」

 陽介君が一生懸命働いて貯めたお金を、私のために使おうとしてくれたことが嬉しくもあり、申し訳なくもあった。

「…いずれにせよ、大事にされてるってことね。よーく分かった。じゃあ、せっかく東京に行くんだし、どこか行きたいところ考えようか。美味しいご飯も食べたいし、東京の宝塚大劇場観に行っちゃう?」

お母さんの楽しい旅行プランを聞いて。私は思わず笑ってしまった。







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