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ドリーマー  作者: 滝本泉
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 花火大会の会場に近づくにつれて、人が増えてきた。すれ違う人にぶつからないように気をつけて歩いていたが、浴衣は歩きづらいので、子供を避けようとして、少しよろけてしまった。

「あっ」

そう言うと、咄嗟に笹井君が両手で私の肩を支えて、転ばないようにしてくれた。

「ごめん、ありがとう。」

お礼を伝えて、笹井君の方を見上げると、思っていた以上に顔が近かった。

私はまた一気に顔が熱くなった。

「ごめん、浴衣、着慣れてないから、歩くのも遅いし、私、反射神経悪いから、上手く避けられなくて、」

恥ずかしさでつい、早口になっていると、笹井君が手を差し出してきた。

「今日は、裾じゃなくて、こっちで。」

出された手を見て驚いて、笹井君の方を見ると、彼は私をじっと見ていた。

私は深呼吸をして、おずおずとその手を取った。私が手を握ったことを確認した笹井君は、ニコッと笑って、歩き出した。

「まだ、花火始まらないし、人も多いし、ゆっくり行こう。」

自分の右手に、笹井君の手の感触を感じて、私は顔が熱くなるのを止めることができなかった。

 しばらく進むと、屋台エリアに到着した。様々な屋台が所狭しと立ち並ぶ姿は、圧巻だった。

「うわー、すごい。」

私は、立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回していた。

「山下、このお祭り来たことある?」

笹井君に聞かれた。

「最後に来たのは幼稚園のときかな。それ以来は、バレエのレッスン行ってたり、宝塚受験用のスクールに通ってたから、来られなくて。高校入ってからは勉強ばっかりしてるし、家で花火の音を遠くから聞いてたくらい。笹井君は?」

「俺は幼稚園までは家族で来てたけど、弟が病気になってからはしばらく来てなかった。ダンスを始めてからは、何回かダンススタジオのメンバーで来たかな。去年も。」

笹井君は思い出すように話していた。

「…今日もダンスレッスンしてたから、皆で行こうかって誘われたけど、断ってきた。」

笹井君に言われて、少し心配になった。

「大丈夫だったの?断っても」

「…先に約束してる、大事な用があるからって言ったから大丈夫でしょ。」

そう言われてまたドキッとした。今日はドキドキさせられてばかりいる。

「…山下は、誰かに誘われたりしなかったの?」

そう言われて、ふと、浪川君のことを思い出した。

「…誘われてたの?」

笹井君が私の顔を覗いてきた。やっぱり顔が近い。

「…ちゃんと断ってきたから。」

そう答えると、笹井君は何か言いたそうだったが、

「…まぁ、良しとするか。」

そう言って、手を引かれたので、二人で屋台の並ぶエリアに入っていった。様々な種類の食べ物があり、目移りしてしまう。

「何か食べたいものある?」

「迷うけど…かき氷は食べたい。」

「本当に甘い物好きだね。」

笹井君は笑っていた。

「笹井君は?」

「俺は、唐揚げが食べたい。」

そんな話をしていると、ちょうど唐揚げを売っている店があったので、そのまま購入した。しばらく歩くと、かき氷屋さんもあった。カラフルなシロップが並び、どれにするか迷ってしまう。

「…白桃か、ブドウか…。」

私が看板を見ながら腕を組んで悩んでいると、

「打ち上げの時も、その2つで悩んでなかった?」

そう言って笹井君は笑っていた。

「じゃあ、どっちも頼もう。俺も食べるし。」

平和的な解決法を提案してもらったので、そうすることにした。

屋台を抜けた先には、花火を観覧するエリアがあった。その後ろ側に、飲食スペースとして、椅子とテーブルが並んでおり、タイミング良く2席が空いたので、そこに座った。

「笹井君、白桃とブドウどっちがいい?」

私が尋ねると、

「山下が好きな方、先に選びなよ。途中で交換しよう。」

そう言ってもらえたので、ありがたく、ブドウ味から食べることにした。

1口食べると、ひんやりとした甘さが口いっぱいに広がった。

「おいしい…。汗かいてたから、ちょうど冷えて良いね。」

やっと日が落ちてきたものの、待ち合わせてから、お祭りの会場に来るまでの間は、まだ日が出ていたので、かなり汗をかいていた。

私が満足そうにかき氷を食べる姿を、笹井君が笑顔で見守っているのに気付き、食べるのに夢中になっていたのが少し恥ずかしくなってきた。

「笹井君も食べたら?溶けちゃうよ。」

そう言うと、笹井君もかき氷を食べ始めた。

「たぶん、山下、これ好きだよ。甘くて美味しい。ちゃんと桃の味がする。」

かき氷を1口食べた笹井君が言った。そう言われると、俄然、白桃味のかき氷がどんな味か気になった。白桃のかき氷を見つめる私の視線に気付いた笹井君は、少し笑った後、

「山下、顔に出すぎだよ。交換して食べようか。」

と提案してくれた。

「いいの?じゃあ、ブドウ味どうぞ。」

2人でかき氷を交換した。笹井君の言うとおり、白桃味のかき氷はしっかり桃の味がして、思っていた以上に濃厚だった。

「おいしい…、幸せ。」

私は何口もかき氷を頬張った。

「本当に幸せそうな顔するね。買って良かった。」

笹井君は私の様子を満足そうに見た後に、ブドウ味のかき氷を食べていた。

笹井君が唐揚げを食べ終わった後、

「そろそろ移動しようか。」

と言ったので、頷いて立ち上がると、当たり前のように、手を差し出された。

「...嫌じゃなければ。」

そう言われたので、

「...嫌じゃないです。緊張するだけで。」

そう返して、手を握ると、笹井君は軽く笑っていた。

花火の観覧エリアに向かうと、混雑していたが、後ろ側はまばらに空いてるスペースもあったので、2人分の空間がありそうな場所を選んで、そこに座った。

「あと少しだね、楽しみ。」

私が空を見上げて、花火が始まるのを心待ちしていると、笹井君が隣でペットボトルのお茶を飲み干していた。

「喉乾いてるの?」

私が尋ねると、

「唐揚げ、味濃かったから、すぐ飲み終わっちゃった。でも、飲み過ぎるとトイレ近くなるし大丈夫だよ。」

そう言って、苦笑いしていたので、

「私の、飲みかけになっちゃうけど、それでもよければ飲む?アイスティー。私かき氷たくさん食べたから喉乾いてないし。」

そう言って自分のペットボトルを差し出すと、笹井君は少し考えたような表情をした後、ペットボトルを受け取って1口飲んだ。

「...あのさ、簡単に自分の飲みかけのペットボトル渡すの...よくないよ。山下が気にしてなくても、相手は気にするかもしれないし、同じところに口つけるの...緊張するから。」

笹井君に言われて、私は初めて間接キスだと気がついた。自覚すると一気に顔が熱くなる。

「ご、ごめん...何も考えてなかった...。」

恥ずかしさで、思わず顔を伏せると、

「...文化祭の時、俺に自分が飲んでたペットボトル、顔色変えずに渡してきたでしょ。衝撃的だった。」

そう言われて、自分の無自覚さに驚く。

「...というわけで、今日は飲んだけど。これからは、気をつけてね。」

そう言ってペットボトルを返され、恥ずかしさで顔を伏せたまま受け取った。

「...なんか、色々自分の考えてなさに、びっくりする。ダメだね私...。」

私がうなだれたままでいると、

「...困っている人がいたら、助けようっていう良心でやってると思うんだけど...やられるこっちはヒヤヒヤする。たぶん浪川も同じこと考えてたと思うよ。ペットボトル差し出されたとき、驚いてたから。」

浪川君のことまで言われて、私はさらに顔を上げられなくなってしまった。

「そこまで、見られてるとは...。」

私が俯いたまま言うと

「...見てたよ。ずっと。山下が可愛くて目が離せなかったし。浪川と仲良く話してるのが気になって仕方なかったし、浪川が山下のことちゃん付けで呼ぶたびに、イライラして仕方なかったし、ペットボトルあげてた時は呆然とした。」

そう言われてまたドキリと心臓が跳ねた。浪川君は、私と反対側を見ながら話してたので、顔色は分からなかったけど、耳が赤くなっていることは分かった。

「...男子は皆、山下のこと、さん付けで呼んでたから、呼び捨てにしただけでも、距離が近くなった気がしたけど、上には上がいた。受験対策に一緒に参加してるときに、もっと思い切っておけば良かった。」

笹井君は少し不満そうな顔をしていたので、

「...私、別に、なんて呼ばれてもいいよ。今からでも。」

そう提案した。笹井君の表情を伺うと、少し考えている様子になったあと、

「...山下が嫌じゃなければ、”梓”って呼びたい。」

そう言って、私のことをまっすぐ見てきた。

男女問わず、家族以外に呼び捨てにされた経験なんてない。男の子に呼び捨てされるのは、なんだかとても特別なことのような気がしたが、

笹井君なら良いと思った。

「...うん、良いよ、”梓”で。」

私が、そう言って彼の顔を見ると、少し驚いた後に、にっこり笑った。

「やった。じゃあ”梓”って呼ぶ。」

やっぱり、その笑顔を見てキュンとしてしまった。

「...梓が良ければ、俺のことも呼び捨てして欲しい。」

笹井君に言われ、”陽介”と呼ぶ自分の姿を想像したら、一気に顔が熱くなった。恥ずかしくて死にそうだった。思わず私は自分の両手で顔を覆った。

「...よ、呼び捨てはハードルが高いので、君付けでも良いでしょうか...?」

おそらく真っ赤になっているであろう自分の顔を両手で隠しながら聞くと、

「...まぁ、良しとしましょう。」

陽介君はそう言って、笑った。

 そんなやり取りをしてると、花火が始まった。色とりどりの花火が間髪を上げずに、どんどん打ち上がる。夢中になって見ていると、

「キレイだね。」

陽介君が小さな声でそう言った。

彼の方を見ると、優しい笑顔でこちらを見ていた。

「うん、すごくキレイ。」

私も笑顔でそう返した。


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