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文化祭が終わると、十数日で夏休みに入る。1、2年生の頃は、夏休みに向けて浮き足だった雰囲気が漂っていたが、3年生になると、部活の最後の試合に向けて、気合を入れる学生と、いよいよ本格化する受験勉強シーズンに向けて、黙々と勉強をする学生で、混沌とした雰囲気が漂っていた。
私は、いつも以上に自分の時間を勉強に割いていた。それは、文化祭期間を満喫した分、ここからは勉強一色にしていこうという気持ちと、勉強に打ち込んでないと、笹井君のことをつい考えてしまうので、なんとか勉強することで、紛らわそうとする気持ちからだった。
笹井君とは教室内では挨拶をする程度で、多くは話さなかった。
彼も放課後まっすぐダンスレッスンに行っているようだったので、気持ち的にはお互いに夢に向かって、一生懸命頑張っているつもりだった。
私が勉強に打ち込む姿を見ることちゃんは、
「...頑張るね...。ノイローゼには注意だよ。」
と言って、驚きつつも見守ってくれていた。
あっという間に夏休みに入ると、特別講習が始まった。
基本的には自由参加なので、来ない学生も多かったが、私は医学部の二次試験受験に必要な科目は一通り取ることにした。Y県立医大のAO入試での合格を狙っているけれど、ダメだった場合、二次試験まで頑張ろうと思っていたので、頭をパンクさせながら、ほぼ毎日学校に来ていた。
特別講習は、お盆前まで行われるので、猛暑で厳しい中、汗だくになりながら、学校に通っていた。
特別講習の最終日、私は、講習後に、分からないところを先生に聞きに行くために、教室に残って、ノートを整理していた。
「あずちゃん、久しぶり。」
声が聞こえた方向に目をやると、教室の入り口に浪川君が立っていた。
「浪川君、お疲れ様。講習出てたの?」
私が質問すると、
「うん。物理だけね。あずちゃんは?」
質問を返された。
「私は、理系科目全部と、英語を受けてた。」
私の答えを聞いて、浪川君は驚いていた。
「めっちゃ頑張るね。それだけやってたら、ほぼ毎日学校来てたんじゃない?」
「そうだね。毎日登校してるから、正直、本当に今が夏休みなのか、感覚が分からなくなってる。」
私は笑いながら答えた。
「いやー、ストイックすぎるな。...何か夏休みっぽいことしないの?受験生だとしても。ストレスたまらない?」
浪川君に聞かれたので、
「夏休みっぽいことねー...これといって、やりたいなって思うこともないからなー。あ、アイスは結構食べてる。夏限定のやつとか。」
自分が思いつく、精一杯の夏らしいことを絞り出した。
「アイスかー。流石に弱いな。」
浪川君は私の答えを聞いて笑っていた。
ひとしきり、笑った後、彼は私の方に身体を向け直した。
「...8/31の花火大会、一緒に行かない?夏らしく。」
浪川君は微笑みながら、誘ってくれた。
彼に誘われるのは、これで3回目だと思った。断ってばかりなのは申し訳ないが、こればっかりは仕方がない。
「...ごめん、一緒に行く約束、もうしてるから、難しい。ごめんね。」
私がそう答えると、少し傷ついたような顔をした。
「...なんか、あずちゃんから、ずっと断られてるな。文化祭も、打ち上げから帰るのも、花火大会も。」
浪川君は、自嘲するように、少し笑いながら言った。
私の勘違いかもしれないけど、浪川君が私に興味を持ってくれているなら、このままだと浪川君にも、笹井君にも不誠実な気がした。
「ごめん...。浪川君と私がどこかに一緒に行くと、たぶん、悲しむ人がいて...、私はその人からの誘いに乗りたいと思ってるから、ちょっと、お誘いに乗るのが難しいです。浪川君にそんなつもりはなくて、私が深く考えちゃってるだけなのかもしれないけど...。」
私がそう言うと、彼はしばらく黙っていたが、
「やっぱり、こうなるか...。」
そう言って、少しだけ悲しそうに笑った。
「花火大会、楽しんできて。夏休みらしく。じゃあね。」
浪川君は、教室を去っていった。
「うん。いい感じ!あずにゃん、可愛いよー。」
ことちゃんはそう言うと、卓上の大きな鏡でヘアメイクが終わった顔を見せてくれた。
「うわー、いつもと全然違う。...ことちゃんありがとう。私1人だと、何からやっていいか分からなくて。ちゃんと改めて、お礼に何か用意するから。」
私が言うと、
「良いんだよ。それに、さっき、お礼ってことで、お菓子くれたじゃん。これ以上は充分だから。頼られるの嬉しいし、あずにゃんみたいな良い素材をヘアメイクできるのって楽しいんだよー!お願いされた時からどんな感じにしようか、うずうずしてた。」
花火大会なら浴衣を着るべきかと思い、自分の家にあった浴衣を出した。
そして、笹井君に、"アリス姿で写真を撮れなくて残念だった"と言われたのを思い出して、同じようにヘアメイクをしようと思ったものの、私1人ではアリスの時のようなクオリティのヘアメイクは到底できず、ことちゃんに相談したら、快くヘアメイクを請け負ってくれたのだった。
こうして、花火大会当日となった今日、笹井君との待ち合わせの前に、ことちゃんのお家に行き、ヘアメイクをやってもらっていた。
「せっかく浴衣姿なので、アリスの時とはちょっと趣向を変えて、大人っぽい感じにしました。そして、最後はこのイヤリング付けようか。」
ことちゃんの手には、花火がモチーフになったイヤリングが握られていた。
「可愛いー。キラキラだ。いいの?借りちゃって。」
イヤリングは揺れるたびにキラキラと光っている。
「せっかく花火大会なんだし、使わないと勿体無いから、付けましょう。」
ことちゃんはそう言うとイヤリングを両耳に付けてくれた。
頭を動かすたびに、イヤリングが揺れてキラキラと光る姿が可愛い。
「可愛い...。ことちゃん、本当にありがとう。こんな風にしてくれて、嬉しい。」
私は改めて、ことちゃんにお礼を言った。
「良いんだよ。喜んでもらえて、本当に可愛いから。私の腕が良いのもあるけど...あずにゃんから、可愛くなりたいというオーラを感じて、より上手くできた気がする。」
ことちゃんはそう言って笑顔になった。
「...アリスの仮装した時の姿を...可愛いって言ってもらえたので、また言ってもらえたら、嬉しいなって思いました...。」
そう白状すると、ことちゃんは私の両腕をさすりながら、何度も頷いていた。
「あずにゃん、それ、すごい可愛い発言だからね。浴衣とヘアメイクが崩れるから、やらないけど、抱きしめたくなるわ。
…その人にも、同じこと言ってあげたら、喜ぶと思うよ。嬉しさで倒れるかもしれない。」
ことちゃんは腕を組んで頷いていた。
「倒れるは大袈裟だよ...。喜んでもらえると嬉しいけど。」
そう言って姿見で自分の姿を確認する私を、ことちゃんは優しく見守ってくれた。
ことちゃんに何度もお礼を言ってから、ことちゃんの家を後にして、笹井君との待ち合わせ場所の駅前の公園に向かった。待ち合わせの10分前には到着したので、ベンチに座って待つことにした。
笹井君と会うのは終業式以来であることを思い出して、久しぶりに顔を合わせることになるので、緊張してきた。
5分ほどすると、彼がやって来た。私の姿を見つけると走って来てくれた。
「ごめん、待たせて。」
「大丈夫だよ。待ち合わせ時間よりも早いし。私が早めに来てただけだから、気にしないで。」
そう応えると、笹井君は、私の姿をじっと見て、頭を抱えていた。
しばらく黙っているので、心配になっていると
「えーっと、すごい、可愛いです。びっくりした。アリスもすごかったけど、浴衣も。なんというか、破壊力がとんでもないです。ちょっと、直視できない。」
笹井君の顔は赤くなっていた。私は、ことちゃんに言われたことを思い出して、緊張したけれど、言ってみることにした。
「…ことちゃんにお願いして、手伝ってもらいました。
文化祭の時、笹井君に、アリスの仮装を可愛いと言ってもらえて嬉しかったので、今日も可愛いと思って欲しくて。」
彼の様子を見ていると、顔から耳までさらに真っ赤になって、再び頭を抱えていた。
「…ちょっと勘弁して。今の発言はやばい。」
笹井君の様子を見て、なんだか私も照れくさくなってしまい、顔が熱くなった。改めて彼を見ると、Tシャツとジーンズ姿だった。
「…笹井君のレッスン着以外の私服、初めて見た。」
5月の大会の時も、レッスン着姿しか見ていなかったので、新鮮だった。
「あぁ、全然、たいした格好じゃなくて、ごめん。山下が、そんなに可愛い格好なのに。」
笹井君は苦笑いをしながら話していた。
よく見ると、筋肉ついてるのが分かる。でも、それに気付いてしまったことが恥ずかしくなってきた。
「笹井君も、私服よく似合ってます。…カッコいいです。」
そう言うと、彼は少し驚いたあと、照れくさそうな表情をしていた。
「…ありがとうござます。」
そのまま、お互いしばらく黙ってしまっていた。
「...写真撮らない?暗くなったら撮りづらいし。」
赤い顔をした笹井君が誘ってくれたので、
「うん。撮ろう。せっかくだし。」
そう応えて、一緒に写真を撮った。撮る時に、笹井君との距離が近くて、私は緊張してしまった。何枚か撮影すると、彼は満足そうだった。
「...じゃあ、会場に行こうか。」
「うん。楽しみ。」
2人で歩き始めた。




