14
その日の打ち上げは大いに盛り上がった。未成年なので、ソフトドリンクだけを飲んでいるはずなのに、アルコールを飲んだかのようにテンションが上がっている人達も多かった。衣装リーダーだったことちゃんは、行灯、展示それぞれのリーダー達と同じテーブルで、何度も乾杯して盛り上がっていた。私は展示担当と、行灯担当のメンバーが交ざったテーブルにいた。
「矢崎のハートの女王もすごかったけど、山下さんのアリス本当にすごかったよ。イメージ違いすぎて、めちゃくちゃ新鮮だった。」
隣の席にいた、行灯担当のクラスメートの田中君が話しかけてきた。
「ことちゃんの作ってくれた衣装と、ヘアメイクのおかげだよ。すごい頑張ってくれたから。」
「もちろん、ことちゃんのセンスもすごかった。でも梓ちゃん、似合ってたもん。他のクラスの子に”アリスやってた子って誰?可愛い!”ってかなり言われたよ。梓ちゃんだって言ったら、皆、驚いてて、梓ちゃんの可愛さにやっと気付いたか!って思ったもん。」
美佐ちゃんが笑いながら話した。
「そんな、恐れ多いよ。普段私がガリ勉だから、ギャップがあっただけだよ。」
私は両手を振って謙遜した。
「えー謙遜しすぎだよ。可愛かったから!ねーみんな?」
美佐ちゃんは同じテーブルの人達に声を掛けた。
「可愛かった!」
「良かったよー3年6組のアリス!」
「よっアリス!」
皆に口々に褒められ、いつも勉強ばかりしてる山下さんという扱いとの違いで、少し居心地が悪かった。
「いやいや、ことちゃんの技術がすごいだけだから。」
私はそう言って、注目を避けるように、飲み物を取りに向かった。
飲み物があるカウンターの前で、何にするか選んでいると、
「白桃とか、リンゴとかブドウの紅茶もあるみたいだよ。好きでしょ山下。」
横を見ると、笹井君が紅茶のコーナーを指さしていた。
「本当だ。気付かなかった。教えてくれてありがとう。えー、どれにしよう。」
ジュースバーしか見ていなかった私は、紅茶の種類の豊富さにテンションが上がった。
「笹井君も飲み物取りに来たの?」
「そう、一気に食べたら、一気にお腹いっぱいになったから、もう、飲み物しか無理。」
笹井君は苦笑いしながら答えた。
「そっか。あっちのスイーツコーナー行った?あんこの和菓子、結構あったよ。」
笹井君があんこが好きだと言っていたことを思い出して伝えると、一瞬苦い表情をした後に、
「…飲み物だけで良いかな。」
そう言って、持っていたグラスにジンジャーエールを注いでいた。
「…打ち上げ終わったら、迎えに行くから。待ってて。」
笹井君はそう言って、自分の席に戻った。私は悩んだ結果、白桃のティーパックを選んだ。
「じゃあ、ことちゃん、また明日ね。」
一次会が終わり、二次会会場のカラオケに向かう集団の先頭に立っていたことちゃんに手を振って、私は集団から離れた。
すると、先ほど同じテーブルだった田中君から声を掛けられた。
「山下さんも帰るの?俺、もう帰るんだけど、暗いし、俺の家の近くだろうし、送ろうか?」
彼とは同じ中学校出身で、同じ校区なので家が近いはずだった。
「ありがとう、でも、」
笹井君との約束があるので、断ろうとすると、笹井君が走って隣まで来た。
「俺が送るから、大丈夫。」
笹井君は息を切らして、田中君に言った。田中君は私たちを交互に見た後、
「…俺、先に帰るね。なるべく急ぐから、安心して。」
そう言って、駆け足で帰って行った。
笹井君は私の正面に回って、
「じゃあ、送ります。」
そう宣言したので。
「…よろしくお願いします。」
私は頭を下げた。
暗くなった帰り道を、2人並んで歩いた。
「紅茶、どれにしたの?」
「白桃にした。ちゃんと桃の味がして美味しかった。お腹いっぱいになっちゃったから飲まなかったけど、ブドウ味も飲みたかったなー。」
他愛もない会話をしながら歩いていると、レストランがあった繁華街から離れ、住宅地に入った、周囲は一気に静かになった。
「文化祭、楽しめた?青春できた?」
笹井君に聞かれ、
「できたね。満喫しました。」
私は笑顔で答えた。
「今までの文化祭で一番楽しかった。1、2年のときも楽しかったけど、簡易的な仮装しかしたことなかったから、今年みたいな完全仮装が初めてで、新鮮だった。それに、本祭と後夜祭の間も、今までは、ほぼクラス展示手伝って、友達と文化祭を回ったりしなかったから。やっぱり今日、ことちゃんと、林君と、笹井君と一緒に回れて楽しかった。」
楽しかった3日間を思い出しながら、話した。
「山下、お化け屋敷、怖がってたもんね。ずっと裾、握ってたから。」
笹井君は笑いながら言った。
「目を瞑ってたから、どんな脅かし方されてたか分からないけど…怖かったね。笹井君のシャツの裾、シワシワにしちゃってごめんね。」
私は苦笑いしながら謝った。
「そうだね、シワシワにはなったね。
…腕でも、掴んでもらえばよかった。」
自分が笹井君の腕を掴んでる姿を想像して、ドキッとした。
前夜祭と保健室で、笹井君に手首を掴まれたときの感覚を思い出した。
気になって笹井君の顔を見ようとしたけれど、街灯が少なく、暗くて、よく見えなかった。
どう答えれば良いか分からず、黙っていると、
「閉会式の後、浪川と何話してたの?」
笹井君が質問してきた。彼を見ると、私のことを見つめていた。
「廊下で話してたでしょ?閉会式終わって、教室に入る前に。」
まず、見られていたことに驚いた。
「えーっと、優勝おめでとうと、2位おめでとうって、言い合ってた。」
そう答えると、
「…それだけ?」
重ねて聞かれた。笹井君の表情が気になるが、やっぱり暗くてよく分からない。
「…今日、一緒に帰ろうって誘われた。」
そう言うと、笹井君は小さくため息をついた。
「あ、でも、断ったよ。笹井君に先に誘われてたし、」
彼の気分を害したような気がして、慌てて説明すると、
「…もし、俺より先に、浪川に誘われてたら、浪川と帰った?」
そのタイミングで、横を車が通り、ライトの光で笹井君の顔が見えた。
とても真剣な表情をしていた。
もし、2人同時に誘われていたら、私はどちらを選んでいたのだろう。
「俺、勝手に、山下と一番仲良い男子は自分だって思ってた。でもちょっと、うぬぼれてたなって思い知らされたよ。油断してた。」
笹井君が話し始めた。
「浪川が、山下と仲良く話してて、驚いたし、あだ名で呼んでて、焦った。…めちゃくちゃ嫉妬した。」
嫉妬と言う単語を聞いて、心臓がドキリと跳ねた。
黙ったままの私を、しばらく見ていた笹井君は
「急に色々言われて驚いた?」
と、聞いてきた。私は小さく頷くことしかできなかった。
「俺としては、結構アピールしてたつもりなんだけど、山下、気付いてなさそうだし、ダンスを頑張るって約束したから、そっちに集中してたら…ライバルが現れたので、のんびりしてたらダメかなと思った。」
ここまで言われると、さすがに私でも笹井君の真意が分かる気がした。
「あと1個、嘘ついてたことを謝る。」
「え?」
思いがけない話題の展開に驚いていると、
「俺、山下の家の近くのパン屋に行ったことない。受験対策してたときに、山下のこと送ってたのは、夜道が危なそうで、心配だったのと。
ただ単に、山下と一緒に少しでも長くいたかったからです。二人っきりで。」
自分でも顔が熱くなるのが分かった。
どう答えれば良いか分からず、何も言えずにいると、家の前に着いてしまった。
笹井君は私のそんな様子を見て、
「…とにかく、色々頑張るから。じゃあ。」
そう言って、来た道を戻り始めた。
「待って!」
私は、意を決して、笹井君に向かって声を掛けた。
大事なことを伝えるタイミングは、今な気がした。
彼は私の方を振り返った。私は笹井君のそばまで走っていった。口から心臓が出そうなほど緊張したが、意を決して、私は口を開いた。
「…浪川君と、笹井君に同時に誘われても、私は、笹井君と一緒に帰ってたよ。」
彼は黙ったまま、私のことを見ていた。
「結構、色々な人に、アリスの仮装褒められたけど…笹井君に言われたのが、一番嬉しかったし…ドキドキしました。」
おそらく、今の私の顔は真っ赤だろう。
すると、
「…8/31空いてる?」
笹井君が聞いてきた。
「…え?」
急に話題が変わり、驚いていると、
「花火大会。一緒に行きたい。」
この花火大会は、カップル同士で行くことが定番の有名なお祭りだった。私は頭の中で8/31の予定を思い出したが、もちろん、勉強以外何もなかった。
「…はい。行きたいです。」
私が答えると、家の明かりに照らされて見えた笹井君の表情は、とても嬉しそうだった。
その顔を見て、私は胸がときめいた。
「…よかった。それまでは、ダンス頑張るから。楽しみにしてる。」
「…私も、勉強頑張ります。...楽しみです。」




