12
頼んだフードメニューを食べ終わり、3年5組を後にした。
「たくさん食べてくれて、ありがとうございました。またね、あずちゃん。」
浪川君は手を振っていた。
「おいしかったよ。ごちそうさまでした。ありがとう。」
私も手を振り返した。
「次どこ行く?1、2年の展示で気になるやつある?」
林君はパンフレットを手にして、マップを見ていた。
「2年4組のお化け屋敷のクオリティが、結構高いって聞いてたから、行きたいな。」
ことちゃんが、林君の手元を覗き込んで話した。
「へぇーそうなんだ。」
私も覗き込んで、話していた。
ふと、笹井君を見ると、少し顔色が悪かった。
「笹井君大丈夫?顔色良くないよ。」
私が聞くと、
「...いや、食べすぎただけだから、大丈夫...気にしないで。」
彼は少しグロッキーになっていた。
「あずにゃんってもう投票したの?」
ことちゃんに質問され、
「そういえば、まだしてなかった。15時までだよね?行かないと。」
うっかり、投票を忘れてしまっていた。
「あーー!ない!」
何かを思い出したかのように、ポーチの中身を漁っていた、ことちゃんは、声を上げた。
「ごめん、リップどこかに落としたみたい。探してくるから、みんなで回ってて。今日歩いたところ見て回る。落とし物に届いてるかもしれないし。」
ことちゃんがそう言うと、
「手分けした方が早そうだし、俺も行くよ。」
林君も手を挙げた。
「私も一緒に探すよ。」
そう言ってついて行こうとすると、
「あずにゃん!それは良くない!私も林もすでにまぁまぁ文化祭回ってるけど、あずにゃんは、昨日から今日の午前まで働き詰めだったんだから。せっかくなら楽しまなきゃ。まだ投票もしてないんだし。笹井と一緒に回ってきなよ。」
ことちゃんはそう言うと、颯爽と林君を連れて去っていった。
「矢崎も、ああ言ってるし、とりあえず、投票しに行く?見つかったら連絡くるだろうし。」
笹井君にもそう言われたので、投票をやってる教室に向かった。
教室に向かうと、咲子ちゃんが座っていた。
S市立高校の文化祭では、不正な投票が行われないように、投票会場で、写真部員が立会人となり、投票が行われる。立会人は投票した学生の名前を名簿でチェックする。
他学年への投票をのみを行い、自分のクラスへ投票しないようにするために、学年ごとに色が違う用紙を使う。
この学校が文化祭にいかに力を入れているかが、よく分かる。
「咲子ちゃん、お疲れ様。」
私が声をかけると、
「お!梓ちゃん、お疲れ様。」
咲子ちゃんが答えた。
「投票の前に写真見てね。自分の学年への投票はダメだけど、前夜祭で撮らせてもらった、梓ちゃんたちの写真、我ながら、よく撮れてるから。」
咲子ちゃんは私たちに投票用紙を渡しながら、写真が貼られている壁を指差した。
壁に近づいて、写真を見ると、3年6組の衣装写真は、トランプ兵・チェシャ猫・時計うさぎの団体写真、私、ことちゃん、林君のソロショットが貼られていた。他のクラスの衣装写真はどれも、同じ衣装で複数人数が写っているので、ソロショットは必然的に目立っていた。私たち以外のクラスで、1人だけの仮装をしているところはなかったのだ。
「ことちゃんが、仮装の内容を決める時に言ってた、”同じ仮装をするより、何人かソロで仮装した方が良い”って言ってた理由が、よく分かった。確かに目立つね。ことちゃんかっこいい。」
写真の中のことちゃんは、腰に当てて、片足に重心を載せてポーズを取っており、まるでモデルのようだった。
「ポーズまで女王になり切ってるな。
...山下と矢崎って、何がきっかけでここまで仲良くなったの?席が前後だったのは、知ってるけど。」
笹井君に質問された。
「私、宝塚のグッズのキーホルダーを筆箱につけてるんだけど、宝塚って文字は書いてないから、ほとんどの人は宝塚のグッズって気付かないんだよね。宝塚って5つの組から成ってて、組ごとに担当カラーがあるんだけど、その5色の色がついてるキーホルダーっていうだけっていうのものなので。でも、ことちゃんはそれを見て、”あ、宝塚だ”って言ったから、私、”分かるの?!”ってびっくりしちゃって。そこから色々話せるようになりました。」
初めて学校の同級生で宝塚の話をできる人がいて、興奮したことを思い出した。
「私、前にも話したけど、小中は宝塚受験にかけてたから、レッスンばっかり受けてて、放課後遊んだりしなかったし、高校からは勉強ばっかりしてるから、学校以外で遊ぶような、仲がいい友達っていなかったんだよね。
だから、基本的に山下さんか、梓ちゃんとしか呼ばれたことなかったんだけど、
ことちゃんは、話すようになったら、
”あずにゃんって呼んでいい?”って聞いてくれたから、すごい嬉しかった。あだ名で呼び合うって、友達って感じがするから。」
ことちゃんと仲良くなれたことは、私にとって、とても大きいものだった。
私のガリ勉ぶりに引かずに優しく接してくれて、感謝しかない。
私の話を聞いた笹井君は、
「良い友達なんだね。矢崎は。」
そう言って、優しく笑ってくれた。
「笹井君は、林君と、どういうきっかけで仲良くなったの?」
ずっと気になっていたことを質問した。
「俺らは、1年から3年までクラスが一緒っていうのがまずあって、1年生の時は、部活やってないヤツらで固まってたんだよ。少数派だからさ。」
S市立高校は、文武両道を理念として掲げているため、私たちのような帰宅部は少数派である。
「ダンスやってるって知られると、”踊ってみてよ”って冷やかす感じで言ってくる人も多いから、ちょっとうんざりしてたんだけど、海斗は”へぇーそうなんだー”くらいで、あーだこーだ言ってこないから、楽だったし...いつも優しいなと思うよ。基本的に、感情が一定に保たれてるから、穏やかで、接しやすい。」
ダンスをやっていることで、笹井君も嫌な思いをしたことがあったんだという驚きと、彼からの林君の評価を聞けて新鮮だった。
「分かる。林君、きっと、しんどい時もあるだろうけど、いつも笑顔だから、安心する。私、思ってることすぐに顔に出ちゃうから、見習わなきゃなって思う。」
林君の笑顔を思い浮かべて話した。
「お互い、良い友達に恵まれてるってことで。」
笹井君はそう言って、軽く笑ったあと、私のアリスの仮装写真を見ていた。
「...このポーズって、自分で考えたの?」
私は、両手でスカートの裾を持ち、首を傾げるポーズをしていた。
「いや、私、どんなポーズ取れば良いから分からなかったから、咲子ちゃんと、ことちゃんに指導してもらってこんな感じになった。最初は直立不動だったから、”仁王立ちは違う”って2人に突っ込まれた。」
撮影時のドタバタを思い出して、笑いながら話した。
「そっか...。」
笹井君はそう言うと、しばらく黙って写真を見ていた。私はだんだん恥ずかしくなってきた。
「なんか、ちょっと、狙いすぎたかな。調子に乗ってる感じになっちゃってないかなって、今は思ってるけど、」
気まずさを隠すように早口で話すと、
「いや、似合ってる。やっぱり可愛い。」
急に言われて、私は顔が熱くなった。
笹井君を見ると、彼も赤くなっていた。
「俺、前夜祭で、山下と写真撮らなかったの、すごい後悔してる。撮ればよかった。」
笹井君は眉間に皺を寄せて言った。
私は驚くと同時に、私と写真を撮りたいと思ってくれたことが嬉しかった。
「...そうだね。前夜祭バタバタしてたから、私もことちゃんと、浪川君としか写真撮れてないや。」
私がそう言うと、笹井君の眉毛がピクリと動いた気がした。
彼はそのまましばらく黙ってしまったので、
「とりあえず、1、2年の投票しようか。用紙これだって。」
私は、咲子ちゃんから、まとめてもらっていた投票用紙を、笹井君に渡した。
投票を終えて、教室から出た後も、笹井君は何かを考えているようだった。心配になってきたところで、
「玉木先生の受験対策、今はどんな感じ?」
彼が質問してきた。
「相変わらず火、金でやってるよ。最近は面接対策も始まってる。私って話に夢中になっちゃうと、面接官の表情とか気にせずに、捲し立てちゃうクセがあるから、頑張って矯正中。」
私は笑いながら伝えた。
「やっぱり、頑張ってるんだね。」
笹井君は優しい表情で言ってくれたあと、何か嫌なことを思い出したような顔つきになった。
「...浪川って、受験対策のあと、山下のこと、家まで送ってるの?」
笹井君が聞いていた。
「ううん。浪川君、受験対策のあと、まっすぐ塾に行ってるから、私は1人で帰ってる。」
私がそう言うと、彼はホッとしたような表情になった。
「...前に、たまには一緒に帰ろうって言ってたのに、全然一緒に帰れてなくてごめん。」
笹井君は申し訳なさそうに、謝ってきた。
「いいんだよ、気にしないで。私1人でも帰れてるし。笹井君はダンス頑張ってるんだから、無理しないで。でも、何がしんどいことがあれば、いつでも話聞くから言ってね。」
毎日、彼が放課後まっすぐ教室から出ていくのを見ていたので、そう答えた。
「笹井君はダンスどう?順調?」
私が聞くと、
「親にも本気度を伝えられたから、毎日、放課後から22時過ぎまで踊りっぱなし。筋肉痛はもう3週くらいした気がする。…本当に山下のおかげだよ。ありがとう。感謝してる。」
笹井君は私の顔を見て言った。
「いや、私なんて大したことしてないよ。これは笹井君の頑張りだから。大会って、9月に東京でやるんだっけ?近場なら、生で見て見たかったなぁ。」
5月の大会での彼のダンスを思い出して、私は言った。笹井君はまた何かを考えている表情になった後、口を開いた。
「山下、今日の打ち上げ出る?」
17時半に閉会式が終わった後、18時から食べ放題のレストランの予約が取られていた。
「うん、参加するよ。ただ、うち、門限が21時だから、1次会が終わったら帰るかな。」
ことちゃんは絶対に2次会でカラオケに行くと息巻いていた。
「...山下、今日一緒に帰ろう。」
笹井君は立ち止まって言った。
「...笹井君、2次会はいいの?結構早く帰ることになっちゃうけど。私に合わせなくても大丈夫だよ。」
3年生最後の文化祭だから、おそらくクラスメートの大半は2次会に参加しそうだったので、私は心配になって聞いた。
「いい。それより、山下を送りたい。」
笹井君は真剣な表情で私を見ていた。
私も久しぶりに彼と一緒に帰りたいと思った。
「...分かった。お願いします。」
私はそう言って頭を下げた。
笹井君はホッとした表情をしていた。




