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「そっちのパスタ揚がった?」
「ごめん、コンソメ味、濃く味付けしすぎた。パスタ足せば、いけるかな?」
「うそ、チョコチップがもう無くなった。まだ残ってたっけ?」
「教室に戻るの待って!テーブルに置くミルクと砂糖も補充しておいて!」
調理場となった家庭科室は戦場のようだった。私たちのクラスは不思議の国のアリスのティーパーティーをモチーフにしたカフェをやっていたので、フードメニューのパスタスナック、クッキーをひたすら作り続け、紅茶に使うお湯を常にケトルで沸かし、ペットボトルのアイスティーを補充し続けていた。
ありがたいことに展示は大盛況で、待ち列もできており、オーダーの対応で大忙しだった。
私は午前中、ひたすらパスタを揚げ、のり塩味の粉末調味料で味付けをしていた。午後からは教室でホールを担当することになっていた。
忙しさで交代時間も押してしまい、調理場を離れられたのは、予定の時間を1時間以上遅れた、13時半過ぎだった。
「あずにゃん、お疲れ様!汗だくじゃん!ご飯食べれてる?」
ジャージ姿でゆでだこのように赤くなっていた私を見て、ことちゃんは心配してくれた。
「お疲れ様。揚げ物作り続けるってこんなに汗だくになるんだね。替えの下着も持ってくれば良かった...。あと、失敗作ちょいちょい食べてたから、結構お腹はいっぱい。早く制服に着替えなきゃ。」
私が自分の制服を取り出そうとすると、
「あずにゃん、エクステとメイクだけでもやるよ。午前中、ホールやってたけど、”あの写真のアリスはどこにいますか?”って何人かに聞かれたから、ご本人登場しなくちゃ。いやー、こんなことならアリスの衣装、洗濯できるようにしておけば良かったよー。」
ことちゃんの話の全容がよく見えず、
「え?どういうこと?」
私が聞くと
「ほら、順位つけるための投票会場に、私たちの仮装写真が貼られてて、見てから来る人も、割といるんだよ。
私も”ハートの女王だ!”って言われたから。ノリノリで”頭が高いわよ、ひれ伏しなさい!”って言ってた。だから、昨日と同じヘアメイクしていこう。アリスに会いたい人もいるだろうし。カチューシャだけでもつけよう。」
まさか、またあのヘアメイクをやるとは思わなかった。
昨日、笹井君に可愛いと褒められたことを思い出してしまい、私は顔が赤くなった。
「ん?どうかした?」
ことちゃんが不思議そうな顔で私を見ていた。
「いや、なんでもない。じゃあ、お手数をかけるけど、ことちゃんお願いします。」
固まって、顔を赤らめていた私は、ことちゃんに頭を下げた。
私は制服にエプロンを付けた姿で、ことちゃんにヘアメイクをしてもらった。彼女の技術はさすがで、20分ほどで、肩から上は昨日と同じ姿になった。
「はい、こんな感じ!うーん、やっぱりよく似合ってる。あーーアリスの服着せたかったー。」
ことちゃんは残念そうだった。
「さすがに、前夜祭が終わっても仮装するのはやり過ぎだよ。キャンプファイヤーと汗でかなりすごい匂いになってたし。ヘアメイクありがとうね。」
私はそう返事して、ホールに向かった。
ホールで働いていると、確かに何人かのお客さんに”アリスだ!”と言われた。
その度にどう対応するのが正解か分からず、
「来てくださって、ありがとうございます。」
と言って、お辞儀しておいた。
しばらくすると、後ろから、声が聞こえた。
「あずちゃん、来たよ。」
入り口に浪川君が友達を二人連れて、立っていた。
「浪川君、お友達も一緒?来てくれてありがとうございます。こちらへどうぞ。」
3人をテーブル席に案内した。すると、その中の眼鏡をかけた男子が、
「昨日は、チラッとしか見られなかったけど、山下さん、めちゃくちゃ可愛いね。アリスっぽい。」
思いがけず褒められて、驚いた。
「いやいや、友達がメイクしてくれたおかげです。そもそもが地味な顔なんで。」
私が否定すると、
「いや、そもそもが可愛いから、あずちゃんは。」
浪川君はさらりと言い、私を見てニコッと笑った。
なんだか、最近の彼は、私にとても優しい。
「...そもそもが、かっこいいのは、浪川君だと思うけどね。キレイな顔してるし。」
私がそう返すと、
「いや、俺たち何の会話聞かされてんの?褒め合い?」
2年生の時に私と同じクラスで、今は浪川君と同じ5組の中野君がツッコミを入れて笑っていた。
3人から注文を受けて、教室の入り口に向かうと、受付には笹井君がいた。なんだか、不機嫌そうな顔をしていた。
「お疲れ様。あれ?笹井君って明日の午後の担当じゃなかったっけ?」
私が尋ねると、
「人手が足りないから、俺たちも手伝ってるんだ。山下さんお疲れ様。今日もアリスで可愛いね。」
笹井君の隣にいた林君は、ニコニコと笑っていた。
しばらくホールの仕事をしていると、浪川君たちは食べ終わっていた。彼は席を立つと、私の方に向かって歩いてきた。
「ごちそうさまでした。あずちゃんが作ってたのってどのメニュー?」
浪川君たちは、一通り全てのフードメニューを頼んでくれていた。
「たくさん頼んでくれてありがとう。私が担当してたのはパスタスナックだよ、のり塩味のほう。」
私が答えると、
「なるほど、どおりで。それが1番美味しかった。」
浪川君はそう言ってニコッと笑った。
「本当に?パスタも、のり塩のシーズニングも、作ってるメーカーの企業努力がすごいのが大きいと思うけど、そう言ってもらえるとうれしい。ありがとう。」
私はお礼を言った。
「...俺、明日の午後はクラス展示担当なんだけど、午前は空いてて、もしあずちゃんが時間あるなら、一緒に回らない?お友達も一緒に。」
浪川君が誘ってくれたが、
「あー、ごめん。明日の午前中も調理場で働かなきゃいけなくて。午後は時間あるから、浪川君たちのクラス展示行くね?まだ食材残ってるかな?」
私がそう言うと、浪川君は一瞬残念そうな顔をしたが、
「うちのクラス、残念ながら、今日の時点で、そこまで人来てないから、残ってると思う。来てくれたらサービスするよ。」
そう言って笑った。
「じゃあ、午後行くね。サービスは申し訳ないから、しっかりたくさん頼んで、きちんとお金払うね。浪川君たちみたいに。」
そう約束すると、彼らは帰って行った。
丸一日しっかりと働いて、あっという間に本祭が終わり、残すは明日の後夜祭のみになった。
「皆が頑張ってくれたおかげで、今日だけで食材全体の3/4は消費できました。このペースだと、明日の午前中には売り切れると思うので、明日の午後担当の人たちも、時間がある人は午前中、手伝ってもらえるとありがたいです。」
クラス展示のリーダーからの報告で、クラスメートは盛り上がった。
「よし!明日の午前中には、売り切って、終わらせて、文化祭楽しもう。ね、あずにゃん。」
ことちゃんは上機嫌だった。
「売り切れるといいね。残った食材の処分とかあると大変そうだし。パスタスナック美味しいけど、鋭利で、口の中傷つくから、口内炎が結構できてる。」
私はそう言って笑った。
「山下、矢崎、お疲れ様。」
笹井君に声をかけられた。隣には林君もいた。
「二人も、今日担当じゃなかったのに、お手伝いお疲れ様。」
「いいんだよー。ちょっとの時間だけだし。むしろ山下さんたちが一番大変だったでしょ?家庭科室、めちゃくちゃ忙しかったって聞いたよ?」
林君に言われて、
「確かに、結構すごかった。もう、一生分の揚げ物を揚げた気がする。まだ自分から揚げ物の匂いがする気がするもん。」
私が笑いながら答えた。
「...明日、午前中に売り切れたら、俺たち、午後は仕事ないから、良かったら一緒に文化祭回らない?矢崎と海斗と四人で。」
笹井君が緊張した面持ちで誘ってきた。
隣にいる、ことちゃんを見ると、にっこりしながら頷いていた。
「うん。皆で回ろう。早めに売り切れるといいね。」
私がそう答えると、彼はほっとした表情をしていた。




