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小説を書いたことないので、AIになろう系小説を書かせてみた 〜気まぐれAIのカフェイン転生が、俺の人生を変えた件〜  作者: U2U
特別総集編

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特別総集編 第四編「氷が解けて、5人になった」

◆◆◆


ボレアス「……余計なものまで返しおって」


その呟きの直後だった。


保管庫全体が、低く唸った。


音を取り戻した反動が、長く固定されていた均衡を大きく揺さぶっていた。亀裂の入った鎖。震え出す没収品。崩れ始める氷の壁。「音を返した=めでたし」ではなかったことを、俺たちはすぐに思い知らされた。


修正体が次々と姿を現し、崩れかけた棚や没収品を、無理やり「正しい状態」へ戻そうとする。


直也「全部止めようとするな!流せるものは流せ!」


ゼピュロスの風が、滞留する力を外へ逃がす。まだ鎖に繋がれたままのボレアスも、届く範囲だけを局所的に固定し、崩落の芯を抑える。リィナが、危険な侵食だけを『お掃除』で選り分けて除く。


全員が違うことをすることで、ようやく均衡が保たれた。


崩落は止まった。だが、鎖はまだ残っている。ボレアスは、助かってはいなかった。


崩落の後始末をしていたリィナが、ボレアスの腕に走る霜の亀裂に気づいた。


ボレアス「これは冷気の影響じゃ。気にするな」


リィナ「違います。冷たいんじゃなくて……疲れているんです」


ボレアスが、言葉を失った。


ボレアス「……余計な観察をするでない」


拒絶する言葉だったが、リィナを追い払う仕草はなかった。


リィナ「次は、温かいものを持ってきます」


ボレアス「要らぬ」


リィナ「でも、持ってきます」


俺たちが去った後、氷の玉座に一人残されたボレアスは、亀裂の入った鎖にそっと触れた。


ボレアス「……温かいもの、か」


それは、誰にも届かないほど小さな呟きだった。


◆◆◆


翌朝、俺たちは安宿の一室にいた。ポン太の尻尾はまだ完全には回復しておらず、リィナが丁寧に包帯を巻いていた。ゼピュロスは部屋の隅で、翠色の風刃を確かめるように眺めている。昨日、初めて「壊す」以外の風の使い方を掴んだ満足感が、疲労の滲む顔にも僅かに表れていた。


直也「音、熱、流れ、か……」


俺は昨日の戦闘を思い返しながら呟いた。1つを動かせば、残りに負荷が移る。ボレアスが背負っているものの正体は、依然として謎のままだった。


リィナが、包帯を巻き終えた手を止め、顔を上げた。


リィナ「そうだ。約束しましたから。温かいものを、持っていきます」


早速、リィナは宿の台所を借り、鍋に向かった。ALMA『推奨できません。現在の保管庫内部は、音、熱、流れの均衡が不安定な状態です。高温の熱源は局所負荷を誘発する可能性があります』


直也「つまり、熱い料理はアウトってことか」


ALMA『体温に近い温度であれば、局所負荷は限定的と推定します』


熱くはない。でも冷たくもない。矛盾した注文だったが、リィナは迷わなかった。


リィナ「それなら……スープが良いと思います」


根菜を刻み、穀物を加え、ゆっくり煮込む。俺は野菜を切った。誰かのために切る野菜は、自分のために切るときより、少しだけ丁寧になる気がした。


保管庫へ運び、玉座のそばに器を置く。ボレアスは当然、拒んだ。


ALMA『対象内部の熱量低下を確認。外部冷却ではなく、継続的な流出と推定します』


直也「熱量の流出……つまり、外から冷やされてるんじゃなくて、内側から失われてるってことか」


俺は、ボレアスの腕に走る霜の亀裂を見つめた。


直也「だったら、お前が冷たいんじゃない。ずっと、冷たくされ続けてるんじゃないのか」


ボレアス「戯言を。妾は北風じゃ。冷たくあることこそ、妾の在り方よ」


直也「それがお前の力なのは分かる。でも、それしかないと誰が決めた」


ボレアス「妾は、止めるために生まれた。それ以外の何者でもない」


その沈黙を破ったのは、ゼピュロスだった。


ゼピュロス「役目があることと、それしかないことは、同じじゃないでしょ。私だって、自分は斬るための剣だと思ってた。でも、風は斬るためだけにあるんじゃない。運ぶことも、支えることもできる。それを知ったからって、私が風じゃなくなったわけじゃない」


ボレアスは何も言い返さなかった。


リィナが、静かに口を開いた。


リィナ「食べるかどうかは、ボレアスさんが決めてください。必要だから食べてほしいわけじゃありません。私たちが、あなたのために作りたかっただけです」


その言葉に、ボレアスは何も答えなかった。俺たちはそれ以上何も言わず、器を残して保管庫を後にした。


◆◆◆


一行が去った後、氷の玉座には、ボレアス一人が残された。


長い時間、この場所には自分一人だった。誰かの声も、食器の音も、笑い声もない静寂が、当たり前だったはずだった。それが今は、以前よりもずっと重く感じられた。


器から伝わっていた温もりも、今は僅かに残るだけだった。誰かが、自分のためだけに用意したもの。役目のためではなく、ただ自分のために存在するもの。それをどう扱えばいいのか、ボレアスにはまだ分からずにいた。


手を伸ばしかけて、止める。それを何度か繰り返した。


長い沈黙の後、ボレアスはゆっくりと手を伸ばした。指先が、器の表面に触れる。これほど穏やかな温度に触れた記憶は、ボレアスにはなかった。


匙を取り、ごく少量だけ、口へ運ぶ。


ボレアス「……ぬるい」


不満げな声だった。だが、匙を持つ手が、僅かに止まった。


置こうとした匙を、結局、そのまま握っている。自分でも、なぜそうしたのか分からなかった。


ボレアスは、匙を置かなかった。


器の周囲を覆っていた薄い氷が、音もなく、ほんの少しだけ溶けていた。


◆◆◆


数日後、ALMAが観測記録に妙な波形を見つけた。ボレアスがスープを口にした瞬間、内部の熱流出量と、黒い扉のルーンの発光パターンに、ほぼ同時の変化があったという。


直也「原因は」


ALMA『特定できていません。当該時刻に発生した外部要因は、スープの摂取のみです』


俺は条件を絞り込むことにした。温石をどちらに置くか。ゼピュロスの風をどちらから当てるか。ボレアスに選んでもらったが、扉に反応はなかった。


直也「……もっと、本人に関係のあることじゃないと駄目なのかもしれない」


直也「ボレアス。この検証、続けるか、やめるか。それもお前が決めてくれ」


その瞬間、空気が変わった。


ボレアス「……貴様は」


直也「なんだ」


ボレアス「貴様は妾に選ばせたいのか。それとも、貴様の欲しい答えを取り立てたいのか」


俺は言葉に詰まった。


ボレアス「妾が『やめる』と答えたら、貴様は納得するのか」


答えられなかった。正直に言えば、俺は「続ける」と答えてほしかった。だとすれば、俺が求めていたのは選択そのものではなく、俺にとって都合のいい答えだった。


ポン太「旦那、それも結局、旦那の望む答えを寄越せって言ってるのと同じじゃねぇか?契約ってのはな、判子を押させることが目的になった時点で、もう対等じゃねぇんだよ」


その言葉が、胸の奥へ静かに刺さった。


あの時のリィナは、答えを求めなかった。器を置いて、それだけで去った。決める権利は渡したが、いつ決めるかまでは支配しなかった。だからボレアスには、「今この場で答えなくてもいい」という余白があった。


直也「……そうか。俺、選ばせようとしてたのか」


ゼピュロス「風だって、吹けって言われたら、もう自由な風じゃないもんね」


それから俺は、何も要求しない姿勢を貫いた。


リィナが器を下げようとした時、ボレアスは初めて自分の意思で答えた。


ボレアス「……置いておけ」


黒い扉のルーンが、ごく微かに反応した。


翌々日、何も試さず、ただそこにいることを続けていると、ボレアスが静かに口を開いた。


ボレアス「貴様は……この向こうに何があると思う」


直也「分からない。ALMAにも分からない。俺にも分からない」


長い沈黙の後、彼女の唇が微かに動いた。


ボレアス「……少しだけ、知りたい」


その一言が出た瞬間、黒い扉のルーンが、これまでで最も大きく変化した。


直也「今日は、ここまででいい」


俺たちが荷物をまとめ、扉に背を向けようとした時だった。


ボレアス「……直也」


名前で呼ばれたのは、初めてだった。


彼女は、氷の玉座を、鎖を、崩れかけた棚を、そして黒い扉を、ひとつひとつ確かめるように見ていった。自分がここにいない可能性を、初めて想像しているように見えた。


そして、ようやくその言葉が出た。


ボレアス「ここを離れたら、どうなる」


◆◆◆


答えられない問いだった。だが俺は、それで終わらせたくなかった。


直也「分からない。でも、一緒に確かめることはできるかもしれない」


その数日後、均衡執行体という敵が現れ、俺たちを「正しい位置」へ強制的に戻そうとした。直也は初期状態へ、リィナは規格外能力使用以前へ、ゼピュロスは武具形態へ、ポン太は契約外排除へ。ボレアスにも、永続固定の再確立が迫った。


俺は号令をかけるのをやめた。各自が自分の意思で動けば、決められた予測は破綻する。


ボレアス「妾の力を、どこへ使うかは妾が決める」


その静かで力強い一言に、俺は息を呑んだ。誰かに問いを突きつけられたからではない。ボレアス自身が、自分の力の使い先を、初めて自分で選んだ。


リィナが見つけた接続の弱点、ゼピュロスの一撃、ポン太の瓦礫、そしてボレアスの固定。噛み合った連携が、均衡執行体を退けた。


◆◆◆


翌日、ALMAが断定した。


ALMA『玉座を離れれば、保管庫は崩壊すると推定します』


黒い扉が、過去最大の反応を見せた。それでも扉は開かなかった。


その沈黙の中で、ボレアスの手が、無意識に鎖を強く握りしめた。


ボレアス「……忘れよ」


彼女は一度、言葉を引っ込め、玉座の背へ身体を強く預け直した。


だが、その姿勢は長くは保たれなかった。握りしめていた指から、少しずつ力が抜けていく。やがて、鎖から手が離れた。


長い、長い間があった。


ボレアス「……降りたい」


驚くほど小さな声だった。俺は何も言わなかった。頷くことすらしなかった。ここで何か言葉を返せば、それはまた、彼女の選択に俺の色を混ぜることになる。


その瞬間、かちり、と小さな音がした。手首を縛っていた鎖の一つが、微かに緩んだ。誰かが外したのではない。


ゼピュロス「……これ、あんたがやったんじゃないの」


ボレアス「……妾は、何もしておらぬ」


ゼピュロス「そうよね。だから、いいんじゃない」


誰も、鎖に手を伸ばさなかった。壊すことも、外すことも、誰の役目でもなかった。


◆◆◆


その沈黙は、思っていたよりも長く続いた。


やがて、ボレアスは緩んだ鎖の輪へ、そっと指先を這わせた。それから、ゆっくりと視線を巡らせた。リィナを、ゼピュロスを、ポン太を、そして俺を。長くこの場所にただ一人でいた者が、初めて誰かと目を合わせているような一瞥だった。


彼女は、玉座の肘掛けに手をかけた。足に力を込める。


かちん、と乾いた音がした。鎖の1本が、するり、と輪をほどいた。続けて、2本目も、3本目も。まるで堰を切ったように、乾いた音が連続して響いた。誰かが壊したのではない。それを支えていた理由が、静かに、確かに消えていくだけだった。


最後の1本だけが、ぱきり、と小さく砕けた。


ボレアスは、玉座の肘掛けに手をついたまま、しばらく動かなかった。それから、ゆっくりと身体を離した。膝が震えていた。誰も、手を貸さなかった。これは、彼女が自分の力で立つべき瞬間だった。


一歩。彼女の足が、氷の床を踏んだ。よろめきながらも、倒れなかった。


指先を覆っていた乾いた霜が、静かにほどけ始めていた。冷気の奥に、自分自身のものらしい微かな温度が、確かに残っていた。


ボレアス「……温かい」


リィナ「よかった……」


小さな声だった。リィナは口元を両手で覆い、その目にみるみる涙が浮かんでいく。


ポン太「……へへっ、こいつは、感動の展示料でも取れそうな光景だな」


ゼピュロスが、鼻を軽くすすった。


ゼピュロス「別に、泣いてないから」


直也「誰も、泣いてるなんて言ってないぞ」


ゼピュロス「言う前に、黙りなさいよ」


張り詰めていたものが、少しずつ解けていくのが分かった。


◆◆◆


ALMA『……崩壊の兆候、検出されず』


直也「本当か」


ALMA『保管庫全体の均衡構造に、変化を確認。ただし、現在も維持されています。……現行の解析モデルでは、この現象を十分に説明できません』


崩れないはずがない、と断定していたALMAの予測が、外れていた。


崩れた通路の奥、黒い扉のルーンが、これまで見たどの反応よりも激しく輝きを増した。だが、扉は開かなかった。


ALMA『……未確認の反応を、2件検出』


ゼピュロス「……何か、いる」


誰も、その気配の正体には答えられなかった。


ボレアスが、まだ覚束ない足取りで、扉の方へ歩み寄った。


ボレアス「……これが、妾を呼んでおったのか」


直也「分からない。まだ、何も」


ボレアス「うむ。分からぬ、でよい」


そう言って、彼女は初めて見る柔らかな表情で笑った。


リィナが、そんな彼女の隣に並んだ。


リィナ「これから、一緒に来てくれますか」


ボレアス「……訊くまでもなかろう。妾は、もう、ここに留まる理由がない。ならば、貴様らについていく他あるまい」


素っ気ない言い方だったが、拒む色はどこにもなかった。


ゼピュロス「素直じゃないところ、変わらないのね」


ボレアス「うるさい」


◆◆◆


俺たちは、崩れた通路を抜け、保管庫の外へ向かった。ボレアスは道すがら何度も足を止め、壁や天井を、まるで初めて見るもののように眺めていた。


出口の手前で、彼女はふと立ち止まり、振り返った。誰もいなくなった氷の玉座を、しばらく見つめる。


ボレアス「……長い間、世話になったな」


誰に言うでもなく、そう呟いた。それから、もう一度前を向いた。


直也「行くか」


ボレアス「うむ」


外へ出ると、風が吹いていた。ボレアスの髪が、白い糸のようにふわりと舞い上がる。彼女は目を細めて、その風を全身で受け止めていた。


ボレアス「……これが、外の風か」


直也「気に入ったか」


ボレアス「分からぬ。ただ、悪くはない」


ポン太「さて、旦那。新入りの歓迎会とやらも、そろそろ経費で――」


直也「またお前はそれか」


ポン太「祝い事は、ちゃんとやらねぇとな」


軽口を叩き合いながら、俺たちは街の方へ歩き出した。


頭上の光球が、静かに明滅していた。


ALMA『2件の反応、追跡を継続します』


直也「そうだな。まずは、そこからか」


まだ何も分からない。それでも、4人だった旅に、新しい1人が加わった。


5人と1つの光で、俺たちは次の風を追い始めた。


――そして、物語は第三部へ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


※第四編では、第16話〜第20話を中心に、ボレアスが自分の意志で玉座を降りるまでの過程を振り返っています。


崩れかけた保管庫での連携、リィナが一人で運んだスープ、黒い扉が「選択」に応えた瞬間、そして最後に鎖がほどけていく場面。ここでは省略している会話や細部も数多くあります。


これで特別総集編は全4編、完結です。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


より詳しい出来事や、それぞれの会話・感情の変化が気になった方は、ぜひ本編も読んでみてください。


そして次回から、物語はいよいよ第三部「二つの気配を追う旅」へ進みます。

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