49.幸せとは~美華視点~
「おい、レイディア嬢に何をした!」
瘴気に犯されていた時の彼とは全然違う怒声にもファティナは全く聞く耳を持っていない。
レイディアさんを取り巻く黒い粉は私の浄化で出てくる金粉に似ているのに色のせいか雰囲気が物凄く悪どい。
正に悪役が醸し出すモノって感じ。
そしてその粉は蛇のように細長く伸びてファティナの体にも巻き付いていた。
見た目的に蛇を体に巻き付けているように見えて趣味悪い。
「お前は何者だ」
落ち着いた声音で話すダーディナ様も内心では焦っているような気がする。
顔が強張っていて隙を見せやしないっていう気持ちが出ている。
「そうね。前世がファティナ、今は孤児院上がりの子爵家ティナよ」
「子爵家って…」
「王妃様が迎えた…」
ティナという名前に男達がざわめく。
浮気相手がバレましたっていう雰囲気ではないけど、良くない名前なのね。
ワタワタし出すのを観察した後に一歩近付いてみた。
小さな一歩なのにファティナは直ぐに気付いて警戒し始める。
「お前、近付くな」
近付くなという人に近付くのは嫌がらせだよね。
だから今度はダーディナ様に一歩近付いた。
「近付くな!!」
今度は悲鳴のような叫び。
私が動く事で何かがあるとするならば"聖女"が何か関係あるのかな。
「嫌ならレイディアさんを開放しなさいよ」
「何でお前なんかに言われなきゃいけないのよ醜女が」
「見た目ブスより性格ブスの方が救いよう無い嫌われ者ね」
「見た目が全てでしょう」
髪をサラリと流して体をクネラせるファティナは自信満々で自分の容姿に絶対的な自信が見て取れた。
それでも中身がこれならモテないんだろうな。
もったいない。
「見た目重視の男には良いの居ないよ」
「男なんて興味ないわ。私にはダーディナ様が居らっしゃるもの」
「ダーディナ様はアリーレラス様以外のものは全部蟻と同じだよ。もう最低男の象徴じゃん?」
「な、そこまでではないぞ」
始めてダーディナ様と目が合った。
レイディアさんの事でも我関せずな他人事だったのに。
こういう自分の興味ある事以外知りません男が嫌いだわ。
「こんな男の何が良いのやら」
「貴女みたいなお子ちゃまには分からないわ。この魔力だって私を包み込んで離さないの。ゾクゾクしちゃう」
自身を両手で抱き締めながら陶酔する様子を見るとあの黒い粉はダーディナ様と関係があると見た。
レイディアさんを巻き込んでいる事からそうじゃないかなとは思ってたけど、ビンゴ。
ファティナが見ていないのを確認してから一歩だけダーディナ様に近付いて声を潜める。
「魔力に違和感ありませんか?」
「違和感…というか抜ける感覚が微かにあるのだ。瘴気が出来る時に似ている」
「やっぱりか」
「何だ?」
私はファティナへ向けて大きな一歩を踏み出した。
慣れないドレスを捌いて進むのも一苦労だし早く制服に戻りたい。
「な、近付いて来るなと言ったでしょう!?」
「何でおばさんの言った事を守らなきゃいけないのよ」
「おっおばっ!?」
言葉にダメージを受けたファティナが顔を真っ赤にして睨んできた。
怖くも何ともないけどね。
「レイディアさんとダーディナ様の繋がりを利用して魔力を横流しして貰ってるんでしょ?」
「………」
否定すらも口にしないのは素直なのか何なのか。
もっと噛み付いてきてくれたらやり易いのに。
一歩一歩と近寄るとその都度ファティナの体が微かに逃げの態勢になっていく。
もしかしたら"聖女"には手出し出来ないのかな。
「その魔力でファティナという前世を持って来たってな感じ?本当は違う見た目だったんじゃないかな」
見た目に執着している彼女の言動から今世の姿はお気に召さなかったと思う。
何かの拍子にダーディナ様か、ダーディナ様の魔力に触れて覚醒か何かが起こったとか。
「レイディアさんを離すと元に戻っちゃうとかあり得るよね」
「来るな…」
明らかに怯えて両手で体を守る。
「残念ね、私は近付かなくてもこの位置なら"浄化"が出来るのよ」
両手を合わせて祈りの格好になると目をカッと見開いたファティナが私の方へ手を翳す。
それを見てヘライル様とリョウイン様が間に入って剣を翳した。
「どきなさい。止めないと大変な事になるわよ」
ニヤリと顔を歪めたファティナがレイディアさんの足首を掴む。
綺麗な顔が歪むと迫力が違うよね。
「レイディアさんに何かしたら貴女が大変なんじゃない?」
「勘違いしないで。この娘を取り込めば私はいつまでもダーディナ様と繋がったままなのよ!あ〜ゾクゾクしちゃうわ」
気持ち悪い笑みを浮かべて黒い粉が更に濃くなっていく。
「それに浄化はしない方がお母さんの為よ」
「は?」
「今はとても心地良くて素晴らしい、叶えられなかった幸せに浸っているのに…娘がそれを壊しちゃダメでしょう?」
クネッとした体も黒い粉で見えづらくなってきた。
叶えられなかった幸せ。
それが何なのか見当が付かない。
お母さんは何かを諦めたのだろうか。
幸せだと言ってたのも嘘だったの?
「お母さんの幸せを祈るのも娘の義務。親孝行だわ」
最もな事を言うファティナは勝ち誇ったような笑みで黒い粉にレイディアさんと呑み込まれていった。
「あんたに娘の何たるかを説教される言われはない!」
私は複雑な心境を振り払うかのように叫び、跪いて浄化の準備に取り掛かった。





