47.妖艶な美女
聖女と王弟が瘴気のある場所へ向かって数日、問題無く解決して帰ってきた。
帰還の知らせを聞いて国王と二人の居る謁見の間に足を踏み入れると、二人と国王、そしてダーディナ様と王太子までも揃っていて私が一番最後のようだった。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
知らせを聞いて直ぐに来たというのにもう全員揃っているなんて何の虐めだろう。
物凄く入り辛かった。
しかも私だけ侍女のお仕着せ。
そりゃあ浮きますよね。
「今集まった所ですから気にしなくて大丈夫ですよ」
扉付近にいた王太子が私に手を出してエスコートをして下さるらしい。
国王に並んでいた王弟の体がびくりと反応していたが、気付かないふりをして王太子の手にそれを重ねて国王の前まで進む。
「今回の浄化も滞りなく進められたようだな」
「はい。聖女様の中に入った瘴気も無事浄化出来ました」
王弟の報告以前に聖女の体に問題が無かった事が今は何故か寂しい。
私が居なくても出来てしまうのは良い事なのに残念に思ってしまうのは私の存在意義がなくなるのと同義だと感じる。
これはただのエゴだ。
気持ちを切り替えなくては。
「関係者は揃ったようだな」
ダーディナ様がいつもの黒いローブで国王に寄り添う姿を見ると怪しい占い師が何か邪な事を国王にさせようとしている図に見えてしまう。
お伽噺が過ぎる妄想ではあるけれど、きっと頷いてくれる人もいる気がする。
ダーディナ様の方を見ながら急に近付いて行きたい衝動にかられた。
王太子の手を離れ、足が勝手に前に出る。
踏み込んだ場所からボワンと不思議な音が響いたと思ったら床から微風が上がり、周りを黒い粉が舞っていった。
「何…」
「レイディア!?」
側に居た筈の王太子の声が少しだけ遠くに聞こえる。
浮遊感に襲われて宇宙ってこんな感じなのかしらなんて検討違いの感想を思い浮かべてしまう程、私には他人事のように感じてしまっていた。
「関係者はまだ揃っていないわよ」
体が中を舞っているその下から女性の声が響いてきた。
異次元にでも繋がっているのか黒い粉が渦巻き吸い込まれているようにも吐き出されているようにも見える。
銀河のようにも見えて、ダーディナ様と初めて会ったあの部屋のように宇宙を彷彿とさせていた。
「誰だ」
ダーディナ様の鋭い声と魔力がぶつかる鈍い音が重なる。
反発した力が黒いスカートを刻んでいった。
「あら、女の子を丸裸にするおつもりですか?」
「姿を表せ、痴れ者が」
発していた魔力を収めたダーディナ様は少しずつ私に、いや、渦巻く黒い混沌に近付いてくる。
その中から聞こえてくる女性の声はとても楽しそうでダーディナ様を知っているような口振り。
「酷い言い様ね。私を思い出して下さいな」
床からゆっくり出てきたのは軽くウェーブのかかった艶やかな金髪と大きくて少しだけ吊り上がった碧眼に体に張り付いた銀色の薄い妖艶なドレスを纏った美人なお姉さまだった。
体の線を惜しみ無く晒しているだけはあるメリハリのある体は男性陣の視線を釘付けにするには十分なものであった。
「この人誰か知ってるんですか?」
言葉に棘を潜ませて顔を顰めながら聖女が妖艶な美女を頭から足の爪先まで睨み付けた。
それを眉間に皺を寄せたダーディナ様が無言を貫き手を翳して魔力を放つ。
「ちょっと、この娘がどうなってもいいの?私に攻撃したら当たっちゃうじゃない、ダーディナ様ぁ~」
「何あの粘っこい言い方。ダーディナ様の信者か何か?」
聖女の嫌みは止まらないまま顔を更に歪ませて呟く。
瞬時に魔力を止めたダーディナ様と妖艶な美女の間にフラりとマキスト様が盾になるよう入ってきた。
「アリーレラス…お前、ダーディナ様のお姿をお借りするなんて…小賢しい雌猫め」
マキスト様の格好で中身がアリーレラス様だと気付ける者はいなかったのにこの妖艶な美女は瞬時に見破っていた。
「彼女の名前はファティナ。建国王ダッタルシア様の婚約者だった方です」
ダーディナ様の代わりに女性の話を始めるマキスト様は正体を明かされても動じずにファティナ様を冷たい視線で見つめていた。
「婚約者って王妃だった人って事ですか?」
「建国王の王妃の名前はファティナではないですよ」
聖女の疑問に答える王太子も臨戦態勢となり、手に剣を携えていた。
その横には国王を守るよう立っている王弟の手にも剣が握られていて、謁見の間がいつの間にか戦場と化したのだった。
「何で私があんな男の妻にならなければならないの?私にはダーディナ様しかおりませんのよ」
「お前は処刑されたはずだが?」
「ええ、あれは本当に辛く苦しいものでしたわ。自分は守られていたにも関わらず周りの話を鵜呑みにしてダーディナ様を追放するなんて浅はかな王はいらないと思いませんか?だから私がダッタルシアを亡き者にしてダーディナ様を王にと頑張りましたのよ。なのに感付くなんて…私が処刑されるなんておかしいですわよね」
「だから魔力が暴走したのか」
「ダーディナ様が居ない国なんて滅んでしまえば良いと思ったら胸がときめきでドキドキして溢れ出てしまったのです」
体をくねらせながら熱い眼差しをダーディナ様に向けるファティナは視線を送るだけで黒い混沌からは出ようとしない。
まるで彼女の盾のように渦巻くそれは私の体をゆっくりと覆い始める。
周りの出来事が全部他人事のような感覚で起きているのに寝ているように感じる。
ファティナの話も夢物語。
そう夢の出来事のようだった。





