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46.侍女の記憶

王族二人と聖女のお茶を用意して聖女の左後ろへと立つ。

椅子を薦められるのを丁重にお断りをして指示があるまで静かに置物と化す。

そういえば私の見張りをしていた置物侍女は何処に行ったのか、この仕事をし始めてから同僚になるかと思っていたら全く姿を見掛けない。

名前も知らない王太子の命令に忠実な侍女だった。


「レイディア嬢は他の侍女達と上手くやっていますか?」


「はい。仕事も丁寧に教えて頂いて良くして頂いております」


「それは良かったな」


王太子の質問を無視する訳にもいかずに答えると王弟が楽しそうに返事を返してくれる。

そこでふと気になった事を聞いてみた。


「あの、私がこちらへ来た際に付いてくれた侍女の姿が見当たらないのですが、どちらの所属なのでしょうか」


「レイディア嬢に付いた侍女ですか?」


私からの質問に考え込む王太子の返事を頭を下げたまま待つと小さな溜息が聞こえた。


「すみません。レイディア嬢に付けた侍女の事は覚えていなくて…どんな人だったでしょうか」


「少し赤っぽい茶髪の侍女で王太子殿下の命令を遂行していた真面目そうな女性でした。年齢は少し上かなと感じたので二十代だと思われます。王弟殿下も私の伝言を受け取った時に見ている筈なのですが」


「伝言…侍女は多いし、伝言を持ってくる侍女も毎回違うから俺は覚えていないな」


「そうですか。聖女様は覚えていませんか?軽食を持ってきてくれたり壁際に置物のように立っていた侍女です」


「私も覚えてないよ」


どういう事だろう。

こんなに人から認識されない侍女が居るのだろうか。

実際問題、王太子の指示で配置された侍女じゃない事が問題であって、どこからどのような理由で私の侍女として配置されたのか謎過ぎる。


「王妃様じゃないの?普通そういう息子嫁の事はお姑さんがやるものだよね」


確かに私の場合、国王から王子の嫁として王宮に上がるよう指示があった。

それなら王妃様が配置した侍女で、私の事を報告していた相手も王妃様だったという事。

それにしても敵意が凄まじかったけれど。


「それは有り得ません。レイディア嬢がここへ来る直前に母上が私に全て滞りなく迎えるように全権を私に委任されましたから」


「え、それじゃあヘライル様が知らない人がレイディアさんの侍女をやってたって事?何それ怖い」


聖女は顔を顰めると両手で肩を擦り頭を左右に振った。

誰も知らない侍女は消えた。

本当に怖い事なのだろうけれど実害がないせいでそんなに気持ち悪さを感じない。

ただ謎が深まってモヤモヤする気持ちが拭えないだけ。


「顔や何か特徴的なものは無かったのですか」


「顔……は、あまり覚えてないのです」


彼女はいつでも下を向いて置物のように固まっていた。

だから名前も知らないままで置物侍女と勝手なあだ名までつけていた。


「目が…」


「目がどうかしたのか?」


彼女の目が敵意に満ちていて、睨まれて突き刺さりそうだったのは思い出せるのに、何色だったかも思い出せない違和感。

それを素直に言葉にすると三人が訝しげに顔を顰めて私の顔を見てきた。


「その人怪しいよね」


「ですが今の時点で探す事も難しいです。一応王宮に所属している侍女を少し調べてみますが、時間が掛かると思います」


「よろしくお願いします」


現状的に何かをされた訳ではないので探してくれるという事だけでこの話は終わりになる。

私も気になっただけで、本当に探して欲しかった訳ではなかった。

ただ思い出したら不思議で怪しい人だったということだ。


「聖女様、失礼いたします。瘴気が確認されたので出動お願い致します」


そこに現れた銀色の鎧に包まれた大きな体の騎士。

瘴気の浄化をする聖女を守る専属の騎士団が設立されて、その騎士団長となった彼の名はガオン。

栗色の短髪は襟足の部分が刈り上げてあり額も丸見えで後ろに撫で付けてある。

肌も健康的にこんがり焼けていて私が今まで見た男性の中で身長も高くがたいもいい。

鎧のせいで見えない体も厚みがあって筋肉で覆われているのが安易に予想出来る。

しかも腕が驚く程太い。

今までの騎士団では長剣や片手剣が多いく腰の所に帯剣している人が多い中、大剣を扱う彼の背中には私たち女性位の大きな剣が存在を主張していた。


「分かりました。レイディアさん行きましょうか」


「いえ、今回の浄化には聖女様と王弟殿下の二人にお願いしたいとのことです」


聖女の浄化は一人での浄化が出来ない事は国王も知っている事実なのに私が必要でない?

訝しげにガオンを見ると冷めた目で見返してきた。


「国王陛下とダーディナ様のお話で今回の浄化は一度だけ。王弟殿下に聖女様の浄化の手伝いをしてみてほしいとの事です」


そういう事ですか。

私が聖女である美華の浄化の最終調整が出来るのは前世の繋がりがあったから。

それなら父親である王弟殿下でも出来るのではないかという話なのだろう。

それを確認する為に試験的に一回。

もし何度も浄化をして回って聖女の中の浄化が出来なければ命の危険がある。


「了解した」


「分かりました~」


残って冷たくなった紅茶を飲み干した王弟が腰を上げるとすぐ側まで来た。


「聖女様である美華は絶対に守る。待っていてくれ」


手を掬い上げられて手の甲に口付けを落とされた。

久しぶりにされた行為に胸が跳び跳ねる。


「ごっ、ご無事の帰還お待ちしております」


「いってきまーす!」


元気に手を振る聖女と王弟はガオンと共にそのまま瘴気の元へと旅立って行った。


読んでいただきありがとうございます。

感想やいいね、評価を頂けたら嬉しいです。

これからも宜しくお願い致します!

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