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44.専属侍女拝命

「時にドッズ侯爵よ。レイディア嬢を聖女様の侍女として宮仕えさせる事はどう思う」


「侍女…ですか?」


「そうだ。王宮に行儀見習いとして上がる事は箔が付くだろうし、聖女様の侍女ともなれば侯爵も鼻が高かろう」


私の返事が芳しく無かったが為にお父様へ直談判ときた国王に嫌気が差した。

この話はドッズ家にも私にも良い話ではあるけれどそれだけで終わらないのが大変な所。


「この度は成就しなかった縁談だったが、次の縁談の口利きをしてやる事も出来る。なぁリョウイン」


尊大な態度で話を振り、それを好機のように笑顔で頷く王弟。

王太子との縁談が解消されたから次は王弟と婚約はどうだと言外に示してくるのはどうしたものか。

それを拒否出来る程ドッズ家は力が強くない。


「今回の事で私は学びました。娘ももう成人しておりますし、これからの事は娘の意思を尊重したいと考えております」


拒否した。

恋愛結婚だったお父様とお母様、そしてお兄様夫婦。

私の未来の為に考えてくれた王族との婚約がこんな形で終わってしまったからこその考えなのかもしれないけれど、私の気持ちを優先してくれるお父様の考えが嬉しい。


「そうか。レイディア嬢はどう考えている」


不可抗力だったけれど私は勝手に一人で前世と今世の区切りを付けてしまった。

でも聖女は前世の娘で助けたい人であることには変わり無い。


「聖女様の侍女の件は慎んでお受け致します」


「そうか!それなら荷物をそのまま聖女様の部屋の近くに移してよかろう。それはリョウインが中心でやってやれ」


「はい!」


嬉しそうな王弟と何かを企んでいるような笑いの国王。

何かと王弟との距離を縮めさせる腹積もりなのかもしれない。


「いいえ。荷物も少ないので私一人で大丈夫です。一介の侍女の移動に王弟殿下の手を煩わせる訳には参りませんので」


「私と君の仲ではないですか」


晴れやかに笑う王弟に冷ややかな視線を返すと周りの空気が凍っていった。

この人はまだそんな事を。

王弟大好きな国王は弟の事に関しては暴君にでもなるように人の事を考えていない。

王弟さえ良いなら良いのかもしれない。


「いいえ、私は一侯爵家の娘なだけでございます。聖女様がいらっしゃる限り聖女様だけにお使いし、聖女様がお役目を終えて帰られた場合には速やかに帰る所存にございますゆえ、そんなにお気遣いなさいませんようお願い申し上げます」


訳すとただの侯爵令嬢の一人で聖女が居たらお世話をするだけに存在し、居なくなったら家に帰るので視界にも入れないくらいに私の事を気にしないで下さい、だ。

これには王弟と仲良くなるつもりも無いし、婚約者になるような関係になるつもりは微塵もありませんっていうような事も入っている。

貴族って物凄く遠回しな言い方が好きなのよね。


「いや、ダーディナ様との連絡も取らなくてはいけないから定期的に顔を見に行くよ」


どうしても関係を築きたい王弟に軽く引いてしまう。


「それならもう無理だな」


そこで声を出したのはダーディナ様。

私の頭に手を乗せて王弟の方を真顔で見ていた。


「無理とは?」


急な話の展開に王族達はきょとんとした顔を見せた。


「私とレイディアを繋いでいたのは玲子の存在だ。だが玲子が剥がれてしまったから私との繋がりが途絶えた。故に連絡係というものはもう出来ない」


「玲ちゃんが剥がれた?」


王弟の顔が青白くなり驚いた顔で私を見る。

その顔を見ても私の心は動かなかったし、悲しくもなかった。

剥がれた感覚が私にも分かったのも要因なのかもしれない。

もう玲子はいないのだという。


「さっきまでは居たのだが剥がれて消えたのだ」


「成仏したって事?」


聖女の言葉につい反応してしまいそうになる。

成仏って私はここに居るわよ、とね。

でも聖女でも王弟でも玲子が主体だと思い込んでいる節があるから成仏だという事にした方が話は早いのかしら。


「いや、成仏という言葉は適切ではない。レイディアが玲子であるのは間違いない。だた前世の人格が消えて本来のレイディアが戻ってきたという話だ」


ダーディナ様が説明してくれているものの、王弟の顔色は今だ改善されずに顔を俯けてしまっていた。

そんなにショックだったの。


「お母さんじゃなくなったんですね」


「最初からレイディアであって母ではなかったがな」


「そうですね。その通りです」


聖女はあっという間に状況を飲み込んで理解してしまった。

表情から困惑も悲しみも感じられないし戸惑っている雰囲気もない所は父親である王弟に見習ってほしい所である。


「お前は冷静なんだな」


「勿論お母さんだったっていうのは疑っていなかったんだけど、見た目がさ…こう…外人染みちゃうと親子ですってのも慣れないし、同い年だからってのもあるし、複雑な感じではあったんだよね」


ダーディナ様が聖女の頭をポンと撫でると軽く頷いた。

母親だったと信じて貰えるように色々してきたつもりだったけど、聖女的には微妙なものだったのだと今更気付くなんて恥ずかしい事この上ない。

自分に起こった事として想像したらそうだなとは思うのだけれどね。


「玲ちゃん…」


聖女が気持ちの切り替えをしても王弟の頭には玲子がまだ住み着いている模様。

私だって可能ならその気持ちに応えてあげたい。

でも私はもうレイディア。

好きな食べ物も嫌いなものも、見た目も中身も違う一人の人間なんだってちゃんと認識してほしい。


「これからの連絡役はアリ……こほんっ。マキストを指名しよう。彼の魔力と私の魔力が似ているからそれが良い」


元々王家の監視をしていたマキスト様を王族の側に居させるのは良いことなのだろが、アリーレラス様を自分の側に置いておきたいダーディナ様からしたら苦渋の決断だったと思う。

私との繋がりが途絶えてしまったから。


「では何かあればこちらからも連絡する」


そういうとダーディナ様はあっという間に消えてしまった。

去り際は呆気なくて、驚くほど早かった。


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