41.婚約候補者
皆が待つ会議部屋へと戻ると王太子の顔が急に赤くなり机に置いていた手を固く握りしめていた。
目付きから怒っているのは分かるが、何でそんなに怒っているのかが分からない。
バカにしていた女が叔父にエスコートされて来たから気に食わないのかな。
「お母さん…」
「美華、話してなくてごめんね」
「別に…ダーディナ様に少し聞いたし」
気不味そうだがちらちらとリョウちゃんに目を向けている。
男嫌いの元凶でもある父親が王弟で自分を呼んだ人間で異世界人だったなんて考えが纏まらないのも無理はない。
そしてリョウちゃんは先程まで座っていた椅子を私の椅子の隣にくっつけて置き直した。
どうしてだ。
「王弟殿下、これは…」
「今までのようにリョウちゃんでいいです」
「え、いや」
いやいやいや、それはない。
百歩譲って二人きりなら呼べなくもない気がしないでもないが、婚約もしていない、況してや甥である王太子の婚約者だった私が王弟をちゃん付けで呼べるか?
答えは否だ。
現に国王も王太子も驚きで固まっているし、王太子に至っては呪い殺しそうなくらいの表情で私を睨んできているではないか。
「お前…叔父上にまで…」
「ヘライル。もう君の婚約者でもない女性をお前呼びは王太子としてどうなんだろうか。態度を改めて下さいね」
王弟殿下ご乱心。
そう噂が流れそうな程の変わりようで私まで戸惑う。
「リョウイン、そなたはレイディア嬢と結婚でもするつもりか」
「勿論、結婚します」
国王の言葉に即答する王弟。
あれ、何かモヤモヤする。
自分でも意味の分からない胸のざわめきに隣でくっつくように座るリョウちゃんの顔が直視出来ない。
嬉しいのよね。
だって好きな人から結婚したいと言われたのよ。
前世でも叶わなかった夢が今世でやっと叶うのだから心が弾んでもいいはず。
そう思っても私の心は沈んだまま浮上してこないどころか、まだまだ沈んでいく。
「聖女様である娘の美華も養女として迎え入れます。反対は聞きません。私の娘なのですから」
「叔父上!」
反論しようとする王太子を視線だけで黙らせる姿は今までの王弟ではないようだ。
白いローブのフードで顔を隠して歩いていた彼はどこに行ったのだろうか。
日本で会った時ですらそんな弱そうな彼ではなかったから、これが彼の本質なのかもしれない。
「ではドッズ家に話を通しておこう」
「あ…あの……お待ちください」
国王の声になぜか反射的に声を出していた。
昔は自分でも分からない焦燥感に苛まれ、今は自分の心が分からない状況に苛まれている。
でもこのまま話を進めてはいけない気がした。
「今度は何だ!何が問題だ!」
「ヘライル!」
攻撃的な王太子を諫め王弟の声。
今までと違う守ってくれる態度に安心と共に違和感が芽生える。
「少し考えさせてもらえないでしょうか」
「玲ちゃん、どうしたの?」
「私は先日まで王太子殿下の婚約者の位置にいました。それが王弟殿下の婚約者の位置へと移動となると色々な憶測が飛び交い、王太子殿下にも王弟殿下にもご迷惑をお掛けする事となります。なので慎重を期して時間を置いた方が宜しいよう思います」
私の言葉にこの場にいる皆が押し黙って肯定を表す。
思わぬ再会が叶ったリョウちゃんでも事を急ぐと思わぬ落とし穴があるというのを分かっているのだ。
ただ再会に喜んで気が急いただけのこと。
ゆっくり考えれば分かる。
「そのようにしよう」
「ありがとうございます」
国王の一言でこの話には決着がついた。
暫くは婚約や結婚の話は出てこないだろう。
「で、やっと話を元に戻すのだが」
空気を読めないダーディナ様が空気を読んで声を上げた。
いや、今回は私達の話が終わるまで気配を消してくれていたから元々空気を読める人ではあるのかもしれない。
「これから私との連絡はレイディアへと託せば直ぐに伝わるようにしておく。そしてレイディアを私の代理人とする事をここに宣言しておく」
「代理人…ですか」
「お前の言う事は即ち私の意見という事だ」
「そんな恐れ多い事を簡単に決めてはなりません!」
今度は何て事を言い出すんだこの男は。
頭をかち割って中を覗いてみたいもんだ。
「私とレイディアは一部が繋がった状態だ。だから強ち間違いではない。それに私はもう遥か昔の人間である故に意見を必要とする場面などあってはならないのだ。今この時、生きる人間で未来を作っていってほしい」
真っ当な事を言って周りを感心させているのにマキスト様の顔が呆れていた。
もしかしてただ面倒臭いだけ?これ以上の労働はしたくないってな話?
「それではレイディア嬢には聖女様の専属侍女という役職を与えるとしよう。そうすれば王宮に滞在が出来る上に何かがあれば直ぐに意見を聞くことが出来る。そなたも聖女様の側に居れてよかろう」
確かに美華の側に居られるのは有り難い事だけれど、婚約者だった人が侍女になるってどうなの。
私の醜聞にしかならないんじゃ。
「それなら玲ちゃんの願いも一つ聞いてあげたらどうですか?何もかも彼女に頼りきりなのも王家として格好悪いですからね」
王弟の申し出はありがたいが王家に何かをしてもらう事が物凄く嫌だ。
借りを作ってしまう感じが嫌過ぎる。
しかもこの願いでリョウちゃんとの婚約を願ってほしいというキラキラした眼差しが辛い。
だからまだ婚約すらしたくないんだって。
「お前には勿体無い話なんだから断れ」
ダーディナ様の代理人という話になった時からそっぽを向き、睨むのも止めていた王太子がボソッと嫌がらせしてくる。
あ、そうだ。
「それなら一つお願いがございます。一日、いえ、一時だけ不敬をお許し願えないでしょうか」
「不敬と?」
「はい。一時、私がする事を不問にしてほしいのです。勿論お命が危なくなる事は致しませんし、醜聞を広めるような事も致しません」
「そうか。あい、分かった」
私の提案に周りは困惑しながらも、国王は頷いてくれた。
「それでは契約書を作成致しましょう」
何事にも口約束は信じてはならない。
我が家の家訓だ。
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