38.爆弾は誰の手で
重苦しい空気の中で声を出したのはダーディナ様だった。
「話を始めていいか」
「はい、どうぞ」
ザ・ゴーイングマイウェイ。
ここから自分の事や考えを混じえたダーディナ様の話が続き、最後には魔力を返す話まで語ると全体的に固い空気に包まれた。
「それはもうこの国を守ってくれないという事ですか」
国王が青白い顔でダーディナ様の方を見つめ話を撤回してもらおうと頭を悩ませているのが伺える。
そりゃあ自分の代で守りの力を失うのは怖い。
出来ればもう少しだけでもと縋るようにダーディナ様に視線を向け続ける。
そのダーディナ様の視線はマキスト様の方に向かうが完全無視の一方通行。
ここで目を合わせてしまえば、恩人だったという話ではすまなくなりそうな感じを私も悟った。
「これは決定事項だ。私はアリーレラスと静かに余生を過ごす事にした」
「それなら王宮に部屋をご用意します」
「遥か昔に追放された者が王宮に居たら皆が戸惑うだろう」
いや、ダーディナ様の事を知っているのは国王だけだからダーディナ様に戸惑う人はいないだろう。
知らない人間が王族と同等の扱いを受けているという話なら戸惑う事間違いなしだろうが。
見た目の年齢が国王と近いせいで元国王のご落胤という噂は流れそうだけど。
「ではどこか好きな領地を贈与いたします」
「私は何もしていない事になっているのにそれもまた皆の反感を買う事になろう」
「では…ゆっくり出来る家などの手配をいたします」
今までの苦労を労いたいのか、はたまたこの国から出ていかれてしまうのを懸念しているのか。
中々話が進まない。
こっちに来てから一言も話をしていないのに暇過ぎて疲れてきた。
「それなら場所は…」
またダーディナ様はマキスト様の方を見るもスルー。
「追って知らせる」
「必ずや納得のいく物をご用意いたします」
国王の方が媚びへつらう姿が新鮮なのにとても嫌な気分にさせられる。
自分達のトップがこんなにヘコヘコ頭を下げているのは落ち着かない。
「あの、一つ質問が」
「何だ」
ダーディナ様を繋ぎ止めようと必死な国王とは違い王弟が厳しい顔で声を出した。
「吸い上げていた魔力を返すと言っていましたがそれは簡単に出来るものなのですか?」
「いや、語弊があったな。返すのではなく、今から生まれてくる者達の分は吸い上げたりはしないという事だ」
「今の人間には?」
「本来魔力量はその者の器の大きさが関わっている。最初に吸い上げてしまったから器が小さいままの人間しかいない。それなのに吸った分を急に返せば魔力量過多で死んでしまう」
「それではこれから生まれる子供達の中には聖女召喚に関わらず魔力量が多くなる子供が現れるという事ですか」
「そうだな」
「それは危険ではないですか」
「危険ではあるが、それを管理し導いていくのがこれからの王族の責務である」
真っ当な事を言っている風なんだけど、これは自分はもう関係ないから後はお前達でやれって責任転嫁してくる上司ににている。
自分のやれることはやったから後は頼むってさっさと帰った前世の上司野郎が急に頭に浮かんでしまった。
そして失敗したらお前達が悪いと責任取るよりも罵倒しまくっていた。
「あの、それは流石に勝手過ぎませんか」
思わず漏れた声に王族が全員目をかっぴらいて私を見てくる。
止めて、そんな赤い目で私を見ないで。
「お前は何様だ!これまでご尽力下さったダーディナ様に対して失礼ではないか!」
机を両手で殴りながら立ち上がって怒声を上げたのは王太子。
今まで一言も話していなかったくせに私が話し出すと怒り出すなんて、そんなに顎が痛かったのか。
「ダーディナ様のこれまでのお話、分かっております。ですが魔力の多い子供が事故や何か危険な事に巻き込まれないとは限りません。どこでどういう子供が生まれるかも分からない上に、この国自体が魔力の扱いに慣れていないのです。何かの対策をしておかないと、困るのは民衆なのです」
「煩い!お前に言われなくてもそんな事分かっている!女は黙っていろ。ここにいる意味も分からない奴が口を挟むな」
「ですが…」
「その事をこれからもう少し話を進める所なんだよ。交渉の仕方も分からない奴が知ったかぶりするな」
一人熱くなる王太子に同調はしていなくても反論や助けを出してくれる人はここには居なかった。
ただ隣に座っていたマキスト様が机の下で私の手を優しく握ってくれただけ。
マキスト様はアリーレラス様で女性。
ここに居ることすら推奨されていない私と同じ気持ちで居てくれているんだと泣きそうな気持ちが少しだけ救われた。
ちらりとマキスト様を見ると優しい微笑みを浮かべてくれる。
その光景をダーディナ様と王弟が射抜くように見ていたとは気付かなかった。
「聞いているのか!」
それを無視だと感じた王太子の反撃は続く。
もうこの人面倒臭い。
「申し訳ありませんでした」
「ちょっと!お母さんに何て事言うのよ!」
そこに飛び込んで着たのは綺麗なレモンイエローのドレスを身に纏った美華。
え、可愛い。
黄色い服も良く似合うじゃない。
「聖女様。どうしたのですか」
怒りに震える美華の側に王弟が駆け寄り、王太子も国王も驚きながら美華に目を向ける。
国の大事な話し合いに聖女を欠席させてしまったからか、慌てて美華の席を用意していた。
「ちょっと、お母さんの話聞かないとか本当にあり得ないから。女は黙ってろとか言って聖女である女の私達にこの国を任せているのはこの国の男共でしょう。自分の事を棚に上げて怒るとか頭どうかしてる」
「……聖女様、お母さんとは?」
「そんなのレイディアさんに決まってるじゃない!」0
「「「……………」」」
特大の爆弾は愛娘が落としてくれたようだ。





