37.敵陣(?)へ
「何者だ!」
マキスト様と一緒に亀裂へと踏み出した瞬間、怒声が響いて体が恐怖に萎縮した。
驚きで固まりながらも周りを警戒して観察してみるとそこは王宮の謁見の間であり、国王の目の前であった。
御前に急に現れた人間に護衛騎士達が殺気だったのは仕方がない。
てか何でここよ。
「ダーディナの奴」
低い男性の声をもっと低めて呪詛でも呟いたのかと思うほど怒りを露にしているマキスト様には同情しかない。
私との関係は隠して王太子の護衛騎士として側に居るはずが、敵陣の真ん中に私とセットで放り出されたのだからもう可哀想という言葉以外に何も言えない。
「マキスト?これはどういう事だ」
「ヘライル殿下」
しかもこんな時に限って王太子までもお出迎え。
タイミング悪過ぎやしませんか。
幸か不幸か私達以外の謁見者は居なかったから変な噂が出ないかの心配をしなくて良いが、私達は去る口実を掴めずに目を合わせて困り果ててしまった。
何でこうなるかな。
「相変わらず堅苦しい場所だ」
皆が口を閉ざして睨み合っている所にダーディナ様の声が響いた。
急に呼吸がしやすくなって息を詰めて居たことに気付かされる。
ダーディナ様がこんなに頼もしく見えるなんて。
「おい、話があるから聞け」
頼もしくなかった。
根っからの王族ではないはずなのに横柄な態度は王太子に通じるものがあって縁者なんだと改めて感じた。
素性の分からない者から話を聞けって言われてはい分かりましたと聞く王族は中々お目にかかれない。
私はそんな従順な人知らな…。
「はい、どうぞお話下さい」
居た。
そういえば王族なのにそんな感じじゃない人が一人居た。
「叔父上、誰かも分からない奴の話など聞くに値しないでしょう」
「殿下、それは聞いてから判断されても遅くはないと思われます。聞かなかったから大事になったではどうしようもありませんから」
「ふむ…そう言うなら聞いてみましょうか」
敵対心剥き出しの顔が王弟の言葉一つであっという間に寝返った。
王弟の発言力は侮れない。
「だがその前にレイディア嬢とマキストが何故一緒に現れた。しかもそこの男と同じ空間から現れたではないか。こんな所業は報告された事はない」
不審人物なのに堂々としているせいで何も疑われていないダーディナ様はもう凄い人で間違いない。
疑いの矛先を私達に向けてこられて物凄く迷惑ではあるけれど。
「私はこちらのダーディナ様に助けられてここに居ます」
「マキスト、助けられたとは?」
「大分昔の話になりますが、私は大怪我を負っていた所ダーディナ様に助けられ、恩返しの為に王宮へと案内いたしました」
「お前の恩人だったのか」
マキスト様の説明に納得しここにダーディナ様が居ても良いなという雰囲気に包まれたのだが、そのダーディナ様から焦った声が紡がれた。
「アリー、怪我をしていたのか!?」
「ダーディナ様、お静かに」
瞬時にダーディナ様の口を閉ざしたマキスト様、いや、アリーレラス様の額に血管が浮き出ているのが見える。
余計なことは言うなという圧に流石のダーディナ様も口を噤んだ。
ダーディナ様の目が泳いでいるのはアリーレラス様を怒らせた自覚があるからなのか。
「で、お前はなぜここに」
氷でも張りそうな冷えた声が王太子から発せられた。
これって私に言っているよね。
ちらりと下げていた目線を上げると顎に青い痣をこさえた男が一人。
ああ…あれが私の頭突きをくらった場所か。
「私もダーディナ様に命を救っていただきました。この場には私も一緒にとの事なので馳せ参じました」
「ふんっ」
傷の理由、夜に女性の部屋で強行しようとした等と口が裂けても言えないだろう。
鼻を鳴らしながらそっぽを向く王太子に溜め息が出そうで止めるのが大変だった。
「それで話は進めていいか。座れる場所を用意しろ」
椅子に座っている国王と王太子と王弟に向かって黒いローブの不審者は不遜な態度で命令する。
それを王太子は怒りの様子で睨み、困惑した顔の王弟が見つめ、理解しているような国王が眺めて侍従に部屋の用意を命じた。
直ぐに部屋は整えられ、謁見の間の隣に位置する会議部屋に落ち着いた。
と思ったら急に国王が頭を下げてきた。
「な、父上、何をしているのですか!?」
「陛下、頭をお上げください!」
部屋には護衛すらも入れず、六人だけの空間。
王族、ましてや国王が人に頭を下げて良いわけがない。
それなのに国王は躊躇うことなくダーディナ様に頭を下げたのだ。
「ダーディナ様、貴方の話は国王にしか知らされない話です」
国王の話はダーディナ様が話してくれた話と寸分変わらなかった。
建国王の話、王弟の話、そして魔力についての話も全て話してくれた。
しかし最後は違かった。
建国王の為の人柱となったダーディナ様と言われているらししい。
国王になった時に建国王の王弟の話は必ず継承されるという。
ダーディナ様がこの国を安全に守ってくれているお陰で継承時の滞りなく伝わっていた。
「そんな事…」
それにショックを受けていたのは今の王弟。
魔力の研究に明け暮れていた彼には魔力の研究自体が危険なものだという事が衝撃的だったのだろう。
正体を明かす前に知っていてもらえたのは有り難いが、話が先に進む前にお通夜みたいな空気になってしまったのだった。





