35.マキストという人物
サッチアス令息は私を一瞥するとダーディナ様に抱き付いた。
友情を感じる様子ではなく、そこはかとなくもっと情熱的な感じの包容。
この二人の関係性も気になるが、何故サッチアス令息がここに居るのかも謎。
ついでに言えばどうやってここに来たのだろうという謎もあった。
「ダーディナ、淑女をこんな格好のまま放置するのは如何なものかと思うよ」
「こんな格好?シーツ被ってるし寒くないだろう?ここは適温になるよう維持しているし」
「そういう意味じゃなくて、汚れた裸足に破れた寝間着とシーツなんてどう考えたって可笑しいでしょうが」
気安い話方に違和感しかない。
サッチアス令息とは王太子関係でしか会話したことが無いからこれが素なのかは判断が付かない。
それでも建国王の王弟であるダーディナ様には少し気安過ぎる感じが否めない。
しかも呼び捨て。
「侯爵令嬢なんだから少しは気を使いなさいよ。これだから顔は良いのにモテないままきちゃったのよ」
ん?
私の勘違いでなければ少し女性っぽい印象を受けた気がする。
ダーディナ様とサッチアス令息ってもしかして。
「初めましてじゃないけど初めまして。マキスト・サッチアスという自分とはもう顔見知りかと思いますが、本当の名前はアリーレラス・ドッズ」
「ドッズ……」
「そう、貴方のご先祖様系よ」
え、意味がちょっと分かりませんが。
思考がショートして瞬きもせずにアリーレラス様を見つめる。
どう処理していいか分からない案件です。
「貴女のご先祖様も建国には手を貸してくれてたのよ。お父様はダッタルシアの嫁にして王妃にしたかったみたいだけど、私の婚約者は元々ダーディナだし、ダーディナが好きだったからこんな所まで追いかけちゃったのよ。そしてダーディナの魔力で一緒に細々と長生きしているわけ」
「え、あ、はぁ」
「今じゃダーディナの為にこんな男になって王家の動向を注視してるんだけど、同じ人物が何年も同じ姿で生きてたら気味が悪いから姿や性別、名前を変えて潜入しているのよ」
軽く話しているが、かなり凄い事をしているという自覚がないのだろうか。
しかも私のご先祖様の一人であり、王家との婚姻が勧められていた人物。
重要人物では?
建国時には家があったのは知っていたが、立役者達の中に居たという話は聞いた事がない。
それなのに王妃にとは。
「ダーディナ、この子大丈夫かな?」
「急に色々話をしたからだろう。君がドッズ家だと言う事にも驚いていたし」
「家出して消えた娘の話なんて聞かないわよね」
「君の場合、家系図から消されてるんじゃないかな」
「あ、あの親父ならそれあり得るわ」
私の頭の中で考え込んでいる間にも重要な話が二人の口から聞こえてくる。
情報過多で頭を抱えていると優しく肩を叩かれた。
「で、貴女はなぜここに居るの?聖女様死んじゃうわよ?」
「今度の王太子がこの娘に無体を働こうとして逃げてきたみたいだ。あれは兄の血ではないな」
顔を上げると赤髪の綺麗なストレートヘアの美女がそこに居ました。
お父様と兄、私にそっくりな赤髪なのにとっても綺麗なストレート。
銀のドレスがとても似合っていてアーモンド型の碧眼だけが私達とは異なっている。
吊り目の私とは主人公と悪役くらいの違いがある華やかさと可愛らしさがあった。
何となく悔しい。
「その癖毛は父と弟のものよ。私と母はストレートなのよ」
サラリと払う髪を羨ましげに見つめてしまったのだろう。
ため息混じりで言われて恥ずかしさを感じた。
「すみません…」
居た堪れない気持ちで謝れば豪快に笑って流してくれる。
令嬢というより日本で出会った気のいい会社の先輩のような人だった。
柵など無く、自由に生きているような人。
羨ましいと思ってしまう。
「話は戻るけど、娘ちゃん大丈夫なの?浄化し過ぎで破裂しちゃわない?」
「あっちにはアイツが居るから大丈夫だろう」
「両人ともお互いの存在知らないのに浄化なんか出来るわけないでしょうが」
「あ………」
情けない。
浄化は美華の体に取り込むだけで私が居ないと上手く最後まで浄化が出来ないのだった。
失念していた。
それでも今は帰る事が出来ない。
「美華を助けたいのに私が瘴気の発生源になってるし、王太子も邪魔だし、どうすれば…」
「瘴気の発生源?」
私の独り言に反応したのはアリーレラス様だ。
何もかも話が筒抜けだとは思っていたが、瘴気の話までは彼女に明かされてなかったらしい。
首を傾げて考え込んだ彼女にダーディナ様が簡潔に話をした。
「なら、もう魔力を吸うの止めたら?」
「………なぜそんな話になる」
「だってこれじゃあ堂々巡りでしょう。もうダーディナとレイディア嬢が繋がっていて、尚且つ断ち切る方法が無いのならいっその事吸い上げるのを止めれば垂れ流す事はないでしょう」
「それは出来ない」
「何故よ」
「………兄の国の為だ」
「またそれ。お兄様の国が繁栄するのは良い事よ。でももう手を引く時じゃないかしら?いつまでも貴方の守りを受けているだけでは成長はないのよ」
「…………」
アリーレラス様の言葉にはダーディナ様を思いやる雰囲気が感じられた。
国がというよりもこれ以上ダーディナ様に無理をして欲しくないのだろう。
「お兄様の国を信じてないの?」
「そんな訳はない!」
「なら、そうする時が来たのよ」
手を取り合う二人。
二人の間に流れる空気は悲しげだが穏やかで思い合う心が見えていた。





