33.弟とレイディアの繋がり
涙が溢れて止まらなかった。
愛する家族の為にとやってきた事が無意味な事だったなんてやるせない。
騙されていたとしてもその人の為に何かやりたいと思う心が悲しくも優しい。
そして人は目標が無くなると一気に力を失ってしまう。
それを私は身を持って感じていたから《弟》に感情移入してどうしようもない。
ハンカチで目元を押さえながら目の前の人の事を思う。
「泣くな」
「でも…貴方の事ですよね?今でもこの国を守っていらっしゃるのですね」
「まぁ…そうだな」
何でもない事のように話す建国王の王弟が目の前に居るなんて夢のような話。
生まれ変わる手伝いをしてくれていなければ信じていなかっただろう。
彼の赤い目がどこか王太子ともリョウイン王弟とも似ている事が信じる要因の一つかもしれない。
「私の名は知られていない。それは大罪を犯したからだ」
「それでもお兄様の為、国の為に尽くしておいででしょう?」
「だが、綻びが生じてしまった。だからお前という犠牲も生んでしまったのだ」
ふいと逸らす視線は後悔と懺悔が篭っているようで愛しい気持ちにさせる。
真っ直ぐダーディナ様を見つめると頬の緩みが止められない。
いつの間にか涙も止まり、改めてダーディナ様を観察してみた。
銀髪はキラキラと滝のように真っ直ぐと下に流れ、男性にしては白すぎる肌を羨ましい程引き立てている。
皺なんて存在していないし、髭なんかも見当たらない。
体は鍛えている人に比べたら細身だが、肉付きも悪くなく腕の感じから筋肉だって程好く付いているのだろうという予想は出来る。
身長も私より大分高いが威圧感はない。
目元は一重でキリリとしていて鼻も高いし、唇は薄くて全体的に冷たい印象ではあるが何となく母性本能を擽る。
うん、生まれ変わってから見てもイケメン。
「何だ」
「あ、いえ」
観察していたのがバレたのか、逸らされていた目が戻ってきて睨まれてしまった。
「魔力を吸い取る事は出来ても消化するのに結構大変なんだ。私の生命維持でもかなりの量を使っているとしても国民全員の魔力をとなると難しい。だから五百年に一度漏れ出してしまう。お前の魂をこの世界に投下させたのも魔力を消化させる手段の一つだったのだが、私とお前を繋ぐ事になってしまった」
「ホースのようなものかしら」
「ほーす?」
「穴が開いた紐のようなものと言えば分かるでしょうか?先端から水等を流すと反対側の先端から出てくるような仕組みになっている物です」
「お前の世界には妙な物が多いのだな」
特段興味をそそられる物ではなかったのか鼻で笑われて終わった。
でもホース状態のダーディナ様と私の関係はどうにかしないといけない。
このままここに居たら瘴気の発生源と化してしまうという事だ。
「ん?…私が瘴気の発生源という事ですよね?」
「端的に言えばそういう事になるな」
「なら美華の側に私が居れば浄化をする危険な旅に出なくてすむので万々歳ではないですか?」
「浄化の効率という話ならそうだな」
「他の話とは?」
「お前と私が繋がった状態でこのままだと垂れ流し状態が続く。お前と私が生きている限り瘴気が発生し続ける事になるだろうな」
「そんな…」
瘴気を早く浄化出来るという簡単な話ではなかった。
発生源が分かっているなら浄化しやすいだろうと思ったのにそれがずっと続くのなら美華が帰れる機会を持てなくなるということだ。
それは流石に嫌。
美華には帰れる選択肢も用意してあげたいから。
「だから一先ず私の元へ来い。話はそれからだ」
「でも何時こちらに戻ってこられるか分からないんですよね?」
「………そうだな」
私の存在理由は美華を助けたいという一つだけ。
まだ日本に帰していないし王族の動向も気になる今、ここを離れる訳にはいかない。
「少し考えさせてください」
「私は構わないが、この現実は変えられない」
「分かっていますが最後まで足掻いてみたいのです」
「……分かった」
その言葉を最後にダーディナ様は背景に溶け込むように透けて消えていった。
あんな存在感の塊のようなイケメンが消えていくのは何とも言えない高揚感に包まれる。
映画のワンシーンのよう。
「おい、開けろ」
映画の中に入ったような不思議な気分に浸っていると扉の方から王太子の声が聞こえた。
こんな時間にとも思うし、来ること自体が珍しい。
また美華の事で無理難題を命令しようとでもしているのかもしれない。
そう思いながら扉を開けると、そこには暗く怒っているようにも感じる王太子の姿がそこにあった。
「どういたしましたか、殿下。こんな時間に何か急用でしょうか」
「先程の男は誰だ」
お付きも護衛も付けていない殿下を部屋に入れる訳にもいかず、扉を開けたまま話出すとズカズカ遠慮無しに入ってきては、何かを探すように部屋を物色し始めた。
「何をなさっているのですか?」
ベッドの掛布を剥いだり下を覗き込んだり、衣装部屋等の扉も次々と開け放っていく。
整頓されていた部屋があっという間に汚部屋となった。
どうしてこうなった。
「あ奴はどこだ?」
「キャッ!」
大股で近寄ってきたかと思ったら手首を掴まれ引き寄せられる。
骨が軋むような凄い力だった。
「で、殿下…」
「お前は私のものだろう。他の男を連れ込むなど許される訳ないだろう」
痛みに顔を顰めるとそのままベッドに放り投げられ、その上に殿下が乗って来る。
力の差が私に恐怖を感じさせ、声とは言えないヒッという空気を飲む音が静寂に微かに響いた気がした。





