31.瘴気の追う先
聖女の部屋前での騒動だったからなのか直ぐに沈静化する事が出来た。
初めて確認された王宮内での瘴気発見にもっと混乱するのではと思っていたのにそんなことはなかった。
発見した人の悲鳴以外は皆落ち着いたように行動していて、何より王族達の反応が穏やか過ぎて気持ちが悪い。
慌てふためき醜態を晒すと思いきや、迅速に対応していた王太子や国王に初めて尊敬の目を向けたくらい。
それでもやはり侍従や侍女達の困惑は付き物。
王家が堂々としていたとしても良くない噂が出始めて、最終的には瘴気は人間を飲み込むとまでされていた。
私が知る限り瘴気が現れるのは物体であり、生き物に現れる事は歴史の過程でも報告されていない。
「キャーー!!」
そしてまた王宮で悲鳴が木霊する。
昨日、美華の部屋の近くで発見された瘴気を皮切りに立て続けに三件と今日になって二件。
驚くべきスピードで瘴気が発生しているせいで怯える人が増えているのは当たり前の話である。
「聖女様!こちらです!」
悲鳴を上げた侍女を匿いながら近くに居た騎士が美華を誘導してくる。
これももう五回目ともなれば見慣れた光景だ。
……五回目。
そう、この現象に立ち会うのは五回目。
全部の現象は私の側で起きていた。
最初に発見して悲鳴を上げるのは私ではないが、第二発見者は必ず私。
そして私が通った直後に瘴気が発生しているのが気にかかる。
今通ったばかりの場所が瘴気の発生場所となると何かがあると思わざる負えない。
それを誰にも言えずに部屋に引き籠り、夕食の誘いすらも断って部屋から出られるバルコニーへと出てきた。
もう空は紺色で星が少しずつ見え始めている。
頭の痛い事ばかり起こるのにも何か理由があるのか。聖女を連れだそうとした報いなのか。
「瘴気が私の側に現れるのは一体どうして?私のせいなの?」
「そうだ」
一人でいたはずのバルコニーに男の声が響く。
「ハリウッドのイケメン俳優」
「はりう?」
「いえ、何でもないです」
私がここでこうしている原因であり、恩人でもある銀髪のイケメン。
そういえば人なのかも知らないし、名前すら分からない。
黒いローブのせいで闇に溶け込み、存在感が薄くなっているのに顔面偏差値のせいで変な主張を感じる。
手摺を掴んで外を眺めていた私の背後に居るのは部屋から出てきたって事だけど、扉が開く音はしなかったのが謎。
「貴方がなぜここに?」
「存在するはずがない魂をここに送り込んだから空間が歪んで瘴気がお前を追っている。それがまた変な亀裂を生みそうだから迎えに来た」
「どういう事?」
「居るはずのない人間が居るから世の理に反していると言っている」
「私を何処に連れて行こうと言うのですか?」
「一先ず私の居た場所に移動しよう」
私が頼んだせいでレイディアという人物が出来上がり、本来の理から反れてしまっているということだろうか。
だから元に戻す為に存在を消してしまおうと…するのは分かるけれど選んだのは私だとしてもその選択を提示してきたのはそちらだし、問題が出来たからと存在を消されるのは納得がいかない。
「貴方、神様なの?」
「神?そんな者ではない。私のダーディナ・レイ・ミラリューク」
真っ直ぐ見つめてくる赤い瞳にミラリュークの姓、髪の色は違えど王家の関係者なのは間違いない。
だが前国王は崩御している上に現国王と王弟以外の息子は居ないという。
見た目が国王と同じ位の歳なのを見ると御落胤だろうか。
軽いパニックを起こしていると赤い目を細めて穏やかな笑みを浮かべたダーディナ様の髪が風でふわりと舞い上がった。
「では、お前に一つ物語を聞かせよう」
部屋の主である私に何の許可も無く勝手に入っていくその様はそれが許されて来た人の態度であり堂々とした風格に包まれていた。
あれは絶対に王族のあれだ。
「殿方が無闇に女性の部屋で二人きりになるものではありませんよ。婚約者の居ない私と夜に密室で二人なんて噂が出たら身動き取れなくなってしまいますよ」
「私の事を覚えている者など居ないだろう」
ダーディナ様を覚えている人が居なくても、王太子の元婚約者である私が夜に男性と二人で居た事が問題なのだ。
ま、そんなこと気にしていないようだけどね。
颯爽と入室して当たり前のように広いソファーに腰を下ろす。
その所作すら人の目を意識した優雅なものだった。
「お話の前に一つ宜しいでしょうか」
「何だ」
「失礼ながら、ダーディナ様は王家の人間という認識で間違いございませんか」
「……そうだな。それこそが物語の始まりである」
長い足を組み、髪を肩に流し払ってから手を組んで私の目を見る。
お茶もお菓子もない薄暗い部屋で生まれる前からの縁を引き摺って再び出会って向かい合う二人。
恨みもしてないが、感謝もしていない、でも真実を知っている相手に何故か心が休まる。
そしてゆっくりと穏やかな声音でダーディナ様のお話が始まった。





