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30.婚約の邪魔致します

それは普通に聞いたら信じられない話ではあった。

それでも信じるしかなかったし、王弟の話を嘘扱いしていい案件でもなかった。私は信じる。


「リョウイン様も日本に行ってきたの!?」


「私の話が聖女様に通じるのであれば、聖女様のニホンと私が行ったニホンは同じ場所だと思われます」


テーブルの上に出された聖女の日記の最後のページを開き、《愛する家族へ 私は幸せです》と日本語で書かれた文字を見て美華が嬉しそうに声を上げる。


「初代の聖女様も同じ日本人だったんだね!こんな所で共通点とか嬉しい」


歓喜に叫ぶ美華とは裏腹に王弟は暗い顔で聖女の日記を撫でていた。

泣きそうで苦しそうで消えてしまいそうな雰囲気の王弟に胸が締め付けられる。


「それで衣装部屋から出てきたのと何の関係があるのでしょうか」


話を戻す為に敢えて冷めた声を出して王弟を見る。

私の声色に美華も状況を思い出して口を噤んだ。


「私はニホンで一年程過ごし、こうして聖女様の日記を解読することが出来ました。そして愛する人と出会ったのです。これからも一緒に居たいと思っていたのですが、何の因果かその場に居続ける事が出来ませんでした」


「それはお気の毒に」


王弟は嫌味とも取れる言葉を苦笑で流し、遠い目をしながら聖女の日記を胸に抱き込む。


「この日記を解読出来たのも彼女のお陰でした。だからもう一度会いたかった。ありがとうも愛してるも伝えられないままこちらに戻って来たので、この日記を持ってもう一度願えば会えると試したのです。そうして目を開けたら聖女様の衣装部屋に立っていました。決して疚しい気持ちで入った訳でも隠し通路があるわけでもありません」


まるで王弟の想い人の日記のように大切に抱き込み話しかけているように見える。

この王弟結構病んでる感が強いけど大丈夫かな。


「それなら私と婚約しちゃいましょうか!王太子殿下は嫌だし、結婚も考えてないけど婚約しなきゃいけないなら好きな人がいるリョウイン様の方が安心だし?」


「そんなの絶対に許しません!!」


危険人物から外れた王弟に安易に取引を持ちかける美華に声が大きくなってしまった。

一侯爵令嬢が聖女の婚約を許すも許さないもない。

承諾なんか必要ないのに感情が先走って大声が出てしまった。

唖然とする二人に咳払いをして話を反らしていく。


「それでは王弟殿下はその異世界の女性と恋に落ちたから聖女様との婚約には乗り気ではないという事で宜しいでしょうか」


「え、いえ。私の一存で決められるものではないので、聖女様が私を選んで下さるなら否はありません」


この世界はこうなんだよ。

政略結婚の最たるものが王家である。

例え想い人が居たとしてもこの世界に存在しない女性では話にならないし、誰も本当だと信じてくれないだろう。


「聖女様が私との婚約をお望みならこの命尽きるまでお側におります。なのでレイディア嬢、逃げるという言葉は聞かなかった事にするのでもうそんな軽はずみな発言は止めていただきたい」


駄目。

絶対にこの婚約は許すことが出来ない。

自分も政略結婚をすると思って生きてきた。

この世界の娘としていきてきたなら当たり前の事なのだが、無理なのだ。玲子として。

でもこれだけは言っておきたい。


「婚約をしなくても聖女様を命の限りお守りするのは皆心しなければなりません。それは分かるのですが、聖女様の行動制限になりそうな婚約には私は反対でございます。しっかりと考えてから決めて下さい」


美華と目を合わせて本気で諭す。

婚約は最善では無いという事と、それが無くても美華を守る人達が居ること。私を含めて。


「キャーーッ!」


美華を説得しようと意気込んでいた所で廊下から女性の悲鳴が響いてきた。

二人で反射的に扉の方を見れば、王弟が弾かれたように走り出す。


「お二人はそのまま動かないで下さい」


扉に張り付き緊張した王弟が少しだけ扉を開けて外を確認し、体を滑り込ませるように外へ出ていった。

美華と手を取り合って固唾を飲んで窺っていると扉が大きく開かれて慌てた王弟と王太子が走り込んで来る。


「聖女様!瘴気です。浄化をお願い致します!」


王弟の声で美華と顔を見合わせる。

王宮でも瘴気の発生が確認されてしまった。

これはかなり大変な事になるなと考えていると、手を離した美華は廊下の方へ早足で向かって行った。

こんな時にドレスなんて動き辛い事この上ないわね。


「こちらです!」


美華が姿を見せた瞬間に侍女の声が響き、瘴気の場所を教えてくれる。

後を追うように部屋を出れば悲鳴を聞いて集まった侍従侍女と共に貴族がちらほら居て騎士達に守られていた。見てないで逃げなさいよ。

部屋から出た直ぐ側の窓枠に黒い影が付いている。

近くに生けられていた花瓶にあった花が枯れ、茶色くカサカサになって落ちていた。

それに美華が手を組んで祈りを捧げると足元から光の帯が伸びて黒い影を縛り、そのまま美華の足元に戻っていった。

今回は食事に見えなかったがそれは見学者が多いからの配慮なのか、それとも単なるそういう仕様なのかは分からなかったが、確実に美華の体型が少し大きくなってドレスが嫌な音を立てたのだった。


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