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29.帰還~リョウイン視点~

彼女との生活は今までにない位幸せたっだ。

王族に生まれ、そして物心着いた時には王弟として王太子の座で何もかもが不自由だった。不自由だと知らずに。

こんなに息がしやすいのもこの国の特徴なのか、彼女の側だからか。


だが、この頃の俺には悩みがある。

彼女の家で一緒に住み始めてから与えて貰う一方で俺が彼女に出来る事は殆ど無いと言っても過言ではない。

この家の所有者も、働いているのも、金銭面も、全て彼女だ。

男としてここまで役に立たない自分にも腹が立つが、どうしようもないと諦めるしかない状況にも腹が立つ。

聖女様の世界の事をもっと聞いてくれば良かったと後悔しても遅い。

来てもらって帰すだけの関係と自分達の都合ばかりを考えて聖女様達に自分達の国の事を押し付けてきたつけが回ってきたのだろう。


ムーさん達ホームレス仲間の事も気掛かりだったが、情報はなにも無い。

あのケイサツ達が去った後は家として使っていた物すらも無くなった綺麗な公園だった。

皆の足取りも追えず、彼女の会社がやっていた炊き出しも無くなったそうだ。


だが、一つだけ良い方向に向かっている物がある。

聖女様の日記解読。

彼女にヒラガナとカタカナいうものを習い、辞書という物を借りた。

読めないカンジというものの読み方を習い、それを調べる。

半分位の解読に六ヶ月という長い時間を有してしまったが、それでも満足していた。


この生活が手放せなくなってきているからなのか。

彼女との仲も深まり、男女の関係であるといえる。

俺の置かれた状況を話せないせいでハッキリと婚約しているとは言えないし、俺は彼女と結婚出来るのかも分からない。

それでも側に居てくれる彼女の力になりたくて、料理にも掃除にも挑戦している。笑顔が見たいから。

そうこうしている内にまた六ヶ月が経った。


最近彼女の体調が良くないみたいで心配だ。

ご飯も偏食気味になり、顔色も悪い。休みでも横になっている事が多くなってきていて、心配でたまらない。

だが、体調不良な彼女の側に四六時中居る事も憚れるから図書館で解読を少しずつ進めていた。


「血縁、信頼、精神的繋がり………愛」


聖女様の浄化には段階があるそうだ。

聖女様が瘴気を取り込んだ後浄化をする行程を踏んで終了する。

初代聖女様は召喚した時から浄化までの時間が結構あったらしい。

そしてその間に召喚師である平民の男性と恋に落ちて恋人になり、浄化の旅でも仲睦まじく簡単に進めていったと書いてある。

最終的にはミラリューク国に留まり、平民だった召喚師に男爵の地位を与え、家庭を築いた。

その二人には子供は居なく、一代限りの男爵位でもう存在していない。


これで納得した。

次代の聖女様は護衛騎士である女性と姉妹と呼び合う程の仲になり浄化を進めたと文献に書いてあった。

その聖女様はご自分の世界へと帰られたが、これは信頼に値するものなのだろう。


後は血縁だが、この立証はされていない。

異世界の人間を召喚して行う浄化に血縁関係は立証不可能。

聖女様自身が血縁関係もあるのではないかと書いていた事実のみで立証が出来ていない。


今回の聖女様に当てはめると、王太子であるヘライルが婚約者を代える等という横暴な行いをしたせいでレイディア嬢と聖女様の仲が良いとは言えない。

信頼していないのに精神的なものまで繋がっているとは思えない。

そして血縁というならこれこそ有り得ない。

レイディア嬢のご両親は有名な相思相愛のおしどり夫婦で、外に子供を作る事はないと言えるし、異世界に子供を作る事など出来る訳がない。

ということは…愛?

見るからにレイディア嬢は聖女様を慕っては居ない。

むしろヘライルのせいで嫌っている可能性が高い。

と、するならば、聖女様がレイディア嬢を?

私には少し難しい世界の話になってしまうな。


全ての解読が済んだ。

これで粗方謎は解けたが、確認は必要となるだろう。

俺がここに居る理由が分からないが、この結果を持って帰れるのだろうか。

というか帰りたいと思っていない自分が居る。

彼女が居ない世界で生きていくことは出来ない。

今日、彼女は病院に行くと言っていた。

暖かな野菜のスープでも作って待っていよう。


日記を大切に持って着なれたワイシャツの上に黒のボディーバックを下げ、図書館を後にする。

公園には葉桜が並んでいて、着た時にもあったとな思い出す。

その時は葉桜なんてものは知らないし、少し早ければ満開の桜があった事すら知らなかった。

帰り際に立ち寄ったムーさん達と会った場所は綺麗なままで立ち止まっても何もない吹きっさらし。

その場で立ち止まって目を閉じ、大きく桜の匂いを吸い込んだ。


「殿下、どうかいたしましたか?」


ふと目を開けると聖堂にあった魔方陣の真ん中に立っていて、小間使いの見習いが白いローブを着て不思議そうに俺を見ていた。

自分の体を見下ろすといつも着ていた白いローブになっている。

ワイシャツもチノパンもボディーバックも無い。

左手に持った聖女様の日記は大事そうに胸に抱いたまま固まっていたらしい。


「今……今はいつだ?」


混乱していた俺の問いに不思議そうな表情をした小間使いは、ニホンへ行っていたという事が白昼夢だったのではと疑う答えをしてくれた。

今はニホンに行ったと思われる時間から数分しか経っていなかったのだ。


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