27.君との出会い~リョウイン視点~
あれから数週間経った。
日記の解読は少しずつ進んでいた。
ムーさん達に日本語を習い、習った文字を当てはめて解読するのは骨が折れた。
日記を誰かに見せる訳にはいかないからと頑張ってはみたものの、全部解読出来るには一体どれくらいの時間がかかることやら。
その日もヒヤトイという手伝いで得た少しのお金でセントウという公衆浴場に行ってきた。
「……ぐふ」
「おい、じいさん達は世の中のゴミなんだから俺らに掃除されて当たり前なんだよ!」
暗がりの中、不穏な空気と声に植木が密集する方へと足を踏み入れた。
そこには蹲るムーさんの姿、そして木の棒を持った青年達の姿があった。
これは明らかに暴行の現場。
「何をしている」
自分の中の怒りを押さえ込みながら声を掛けると青年達は体をビクつかせながら後退りした。
目で威嚇しながら彼等の足元に蹲るムーさんを抱え起こし、状況を確認する。
「これはどういう事だ?」
「は、おっさんもホームレスの仲間なんだろう?ホームレスは社会のゴミなんだよ!俺たちが成敗してやるよ」
金髪の青年はそう言って棒を振り回していたが、周りに居た三人の黒髪の青年達は気まずそうに身を寄せ合っている。
この金髪がリーダーであるのは間違いないが、敬われてリーダーになった訳ではなく力で従わせているのが分かる。
こんな奴、国にもいたな。
嫌な気分が更に膨らんだ所で金髪青年が棒を高々と振り上げた。
剣はそんなに大振りするものではない。
「おりゃぁぁぁ!」
振り下ろされた棒が頭の左側を打ち、ガツンという音が響いた。
そしてそれをまた振り上げ殴ろうとした所を左腕で受け止めると、明らかに困惑した表情を向けてきた。
棒は微かに震えているから、受け止められる前提で振るっていなかったとみた。
今まではヤるだけの人間だったのだろう。
「人の痛みは自分で経験しないと分からないものですよ」
掴んだ棒を青年から奪い、そのままの勢いで手と足を殴り尻餅を着かせる。
その瞬間黒髪の青年達は子猫のような小さい悲鳴を上げ、金髪を残して逃げてしまった。
「なっあの野郎!おい、おっさん!俺の親父は警察なんだぞ!捕まえてやるからな!」
「私の父は国王でしたよっ」
これでも王家の人間である。
武術は少し嗜んできた為、報復だとしても年下にやり返すのは出来ない。
近くの木の枝を叩き落としてから金髪の足の間に棒を突き刺した。
「なっこのっ、このっ、覚えてろよっ!」
棒は簡単に引き抜けず、苦戦しながらも引き抜いて走り去っていった。
覚えていたくなくても忘れませんよ。
「何しているんですか」
そこに聞き覚えのある声が聞こえた。
昼間に良い匂いと共に現れて暖かな食事を配っている女神。
「血、出てます」
睨んでくる焦げ茶の目は同僚を叱咤する時の目と同じで、怒られているのが分かっているのに嬉しい気持ちにさせてくれる。
王弟である俺を怒る人間など今はいないからなのか。
「この頃ホームレス狩りとかいう危険な遊びが流行っているって聞いてます。大丈夫ですか?」
「ふーーーー俺は大丈夫みたいだな。玲ちゃん、そいつだけ手当てしてやってくれ。俺の代わりにやられちまったみたいだからな」
問い掛けに反応したのは蹲っていたはずのムーさん。
泥は着いていたが無事だったようで、払い落とすといつもの元気なムーさんがそこにいた。
「良かったです。……ぐえっ」
何事も無かったムーさんに笑い掛けると胸ぐらを掴まれて引っ張られ、今まで出した事がない声が出てしまった。
胸ぐらを掴まれた事すら生まれて初めてだ。
「あんた人の心配してる場合?頭の怪我を甘く見たら死んじゃうんだからね!ムーさん、この人借りるよ!」
「あいよ。煮るなり焼くなり好きなように食べろよ!」
ニヤニヤしているムーさんを残して、腕を強く引かれて歩き出す。
白いワイシャツとカーキのパンツスーツ、ヒールの低い靴と一つに結んだだけの黒い髪。
全て彼女に似合った装いで、これは全部ムーさんに習った。
「入って、靴脱ぐ」
公園から十数分で着いたアパートに押し込められた。
電気が点くとシンプルな部屋が現れた。
玄関から入って直ぐの部屋と奥にもう一つある家だった。
ベージュで揃えられた部屋は良い匂いがして安心する気持ちの良い部屋だった。
「ここに座る」
テーブルの側にある床に座らせられて小さな箱を持った彼女が目の前に座る。
膝が触れそうな位近い距離にドキドキと胸が騒ぎ出す。
夜会でのダンスはもっと接触する事があるというのにこんな事で取り乱すとはまだまだ修行が足りない。
「痛かったら我慢ね」
箱の中から色々な物を出し、液体を白くフワフワしたものに染み込ませて俺の頭に近付く。
ピリッとした痛みに反応して体が震えたが、彼女は気にせず傷の手当てを続ける。
芯の強そうな瞳は真っ直ぐ真剣で、鼻は少しこじんまりとしている。
頬は化粧のせいか少しだけ色付いていて、唇はふっくらとピンクだ。
「愛らしいな…」
「は?」
思わず漏れた言葉に冷たい声と視線が突き刺さった。
これでも王弟。
今まで女性からのアプローチは数多く受けてきたが、ここまで拒否されるのは初めてだ。
炊き出しに来る彼女の姿は数多く見たきたが、ここまで拒否する所は見たことがない。
俺はショックを隠すことも出来ずに落ち込むしか出来なかった。
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