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26.逆転移!?~リョウイン視点~

初代聖女の日記。

それは聖女様がいた世界の言葉で綴られていて俺達には解読不能だった。

今回の聖女様の体調を考えると早急に解読を進めて問題に取り組まなければならない。

聖女様の命が掛かっている。


「はぁ…だが、どうしたら…」


聖女様の日記は王家が保管も管理もしていたが、今回の魔力保持者が王族関係者の俺だったので日記の全てを任された。

そして解読は神殿でも大いに関心を引いていた。

日記を丁寧に開いてみても難解な言葉が綴られているだけで手懸かりは皆無。

王家に貯蔵されている膨大な書物をもってしても解けるものではなかったのに、急に解読が進むわけもない。

だが解読しなくてはと逸る気持ちを持て余しながら聖堂へと何故か足が向いた。

聖女様を召喚した魔方陣を前に行き場のない気持ちを抑え込もうと目を閉じて大きく息を吐く。


「何だ兄ちゃん、変な格好してるな!これはコスプレっちゅーやつだろ?」


次に目を開いた時には見慣れない場所に立っていた。

目の前にはスラム等に居るようなお年寄りが満面の笑みで俺を指差している。


「え?」


「あ、外人か!俺は英語無理なんだ、日本語いけるか?喋ってる言葉分かるか?」


「あ、はい」


がははと笑う老人は身なりが汚れているが、(すさ)んだような表情はしていなかった。

寧ろ晴れやかな顔で元気に見える。

我が国のスラムにいる民達とは違う元気な様子に違和感しかない。


「ここに居るってことは新入りか?ここは住み易い公園だから有り難いんだよな!もう少しで炊き出しもくるからな」


「炊き出し」


見渡すと公園には何やら手作りらしき小さな家のようなものが建てられていた。

寝る為だけにあるような小さい家には一つ一つ人が入っていて暖が取れるようになっているらしい。

俺に話しかけてきた人間はホームレスのムーさんと名乗った。

彼の話によるとここはホームレスの溜まり場である公園で、彼らが家にしているのはダンボールやビニールシート、ハコにトタンというものらしい。

それで仕事もお金もない人達が助け合って生活しているそうだ。

やはりスラムに似ているものがあるようだ。

だが、俺の知っているスラムの人よりも明るくて楽しげに暮らしているのはなぜなのか。

そしてここはどこなのか、全く分からなかった。

ムーさんの情報ではここはニホンという国のようだ。

そんな国があったことすら知らなかったが、逆にムーさん達はミラリューク国を知らなかった。

大きな国だというのに知らないなんて無知にも程がある。

そう思っていた時もあった。

俺は気付いたのだ。ここが俺の居た世界ではないのだと。

こんな高度な技術があるのに我が国に情報すら入ってこないなんて事は有り得ない。

聖女様も言っていた、ニホン。

ここは聖女様が居た世界なんだと理解し、そして日記が解読出来るかもしれないと密かに心が踊った。


「こっちに順番で並んで下さいね!」


この公園には水曜日と土日に来る炊き出しがある。

無一文の俺はムーさんにお世話になりながらその炊き出しを楽しみにしていた。

初めて食べたトンジルなるものは本当に美味だったし、心の底から暖まった気がした。

一緒に出されたオニギリも素晴らしかった。

召喚の呪文にも同じような響きの言葉があるが、それがこのオニギリなるものなのかは俺には分からない。

自分で取りに行く形式も斬新で驚かされた。


「リョウさんは今日もイケメンね!」


炊き出しをしている人間は色々居るが、この栗色のストレートヘアが肩までしかない女性は俺にだけ話しかけてくる。

ムーさんや他の人々に施しはしても会話を楽しむ事などしていない。

太もも丸出しのスカートとヒールの高い靴、体を強調するようなピッタリと張り付いた服。

この公園内で一番目立っているのではないか。


「今日は肉じゃがなの!リョウさんは食べた事ある?日本の男は皆好きな料理だからリョウさんの口に合うといいなぁ」


しなだれかかってきては胸を腕に擦り付けるのは本当に止めてほしい。

社交界でもこんな女性はいなかった。

夜会にあまり参加しない俺でもそれは知っている。


「そうですね」


曖昧に頷けば並ぶ人達を通り越して鍋の場所まで連れていかれる。

着替えが無いからローブも汚れている。

そんな格好の俺にくっついて大丈夫なのだろうかと思っていた。


「リョウさんの分頂戴!」


香音(かのん)さん、皆さん並んでいるので順番でお願いします」


「は?私が配ってるんだから良いじゃない!足りなくなる訳じゃないし!」


声を張り上げながら俺の腕をぐいぐい引っ張るの止めてくれ。

周りの人達から迷惑そうな視線と不憫そうな視線と色々なものが混ざった視線が突き刺さった。


「配っているのは係りの人で香音さんではありません。ちゃんと担当の業務をしてください」


「何よ…リョウさん、私、頑張ってきますね!応援しててください」


キラキラした目を俺に向けてあざとい位に可愛さをアピールして業務へ戻っていった。

やっと解放された。


「イケメンも大変だな!」


がははと笑うムーさんを軽く睨むも、気軽に冗談を言ってくれる存在に嫌な気分ではなかった。

こんな存在はミラリューク国でも居なかったなと変な寂しさが残っただけだった。

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