23.大好きなお母さん~美華視点~
それは突如始まった。
レイディアさんがお母さんで、日本に居るはずのお母さんは死んでいて、帰っても一人なんだと理解出来る時間もないまま王様達は乗り込んできたのだ。
寝たままの私に頑張ったなの一言もないまま婚約者の話をされる。これだから屑は話にならない。
私を作った種の持ち主を仕方が無いからお父さんと呼んでいたが、それも本当は物凄く嫌だ。
男は糞種馬で十分だけど、お母さんが悲しそうな顔をするから心の中だけにしといたのに屑が集まればこの騒ぎ。
糞屑共が私の夫になりたいと名乗り出ているけど、単に聖女っていう肩書きを利用したいだけでしょう。
婚約ってことはその先に結婚があるわけだし、結婚しないで婚約したけど帰りますとか気まずい事ない。
帰さない為の強攻手段でしょ。
そんなことされなくても帰るかどうかは迷っているのに。
嫌がらせされたら帰りませんなんて言いたくなくなるじゃん。
「あの、私は…」
声を出す事すら疲れるし、それでなくても糞王太子のせいで体力なくなっているのに人の話を聞きゃしない。
これこそが女の腐ったような奴なのか。
煩すぎて面倒くさい。
お母さんも助けてくれようと口を挟んだのに軽く却下されるし、本当にどうなってんのこの国の王族。
スカートを握り締めるお母さんに手を伸ばしたいのに手が動かない。
「ぇ」
皺になっちゃうよって手を握りたかったのに、お母さんの握り締めるその拳から煙のように微かな黒い靄が見えた。
一瞬だったから見間違いだったのかもしれない。
でも先日まで見ていたものにとても良く似ていた。
木や川や花、家やら道具にも纏わり付いていた黒い靄、瘴気。
何かヤバイ気がしてきた。
「私はどちらとも結婚しません!」
持てるだけの体力で声を張り上げたが、以外と大きな声が出た。
しんと静まった室内に王様があっけらかんと言い放つ。
「それは出来ない。婚約だけでいいのだ。そうしたら万事上手くいく」
その言葉が引き金になったかのようにゆらゆらとお母さんの体の周りに黒い瘴気が巡り初めてしまった。
国王達もそれに気付いたのか護衛っぽい人達が前に出てきてお母さんを睨んでいる。
そして足を引き摺るように少しずつ国王達の方へ進んでいってしまう。ダメだよ、お母さん。
「レイディア、婚約者の地位が脅かされるからと自ら瘴気を出すなど愚行にも程がある!」
「人に瘴気を確認した事は無かったが…殺したらどうなるか」
やめてよお母さんを虐めないで。
王太子の声にも王様の声にも反応しないお母さんは少しずつ進んでいってしまう。
助けなきゃ。そんな考えも虚しく護衛が剣を抜こうとした瞬間、腹の底から声を絞り出した。
「お母さん!」
自分のお腹から光の玉が出てきたと思ったらグングン大きくなって、真ん中辺りが裂けてお母さんをパクっ飲み込んだ。
お母さんに巻き付いていた黒い瘴気は玉の中で蒸発したように消える。
「やはり瘴気だったか…」
「レイディアの処罰はどういたしましょうか」
「王族に危害を加えようとした時点で処刑は免れないだろう」
また勝手な事を言ってやがる。
処刑?冗談じゃない。
「レイディアさんを傷付けたら私が許しません」
さっきまで出していた声よりも小さい声なのに屑共の耳にも届いたようだ。
驚いた顔でベッドに少し近寄ってくる。
「これは謀反とも取れる行為だ。許すことは出来ない」
「レイディアさんを助けてくれないなら、これからどんな浄化もやりません」
「そんな…なぜレイディアなんかに」
レイディアなんかに?
屑如きがお母さんを語るな。
お前なんかが語って良い人じゃない。
「約束しますか?しませんか?」
「………約束しよう」
苦虫を噛み潰したような顔で呟く王様の声は今までで一番小さかった。
「それとレイディアさんと王太子の婚約も白紙に戻してくださいよ」
「なぜそんなことを」
今度は王太子が慌て出した。
婚約破棄をしたくないなら他の女性と婚約するなんて話を持ってくるなよ。
イライラする。
「私と婚約をしたいと名乗り出る人が婚約者持ちなんて有り得ないです」
「…了解した。レイディア嬢とヘライルの婚約は白紙に戻そう」
「父上!」
聖女という肩書きだけでそんなに何にでも頷く王様、大丈夫なんかな。
少し心配になりながらも言ったことは守ってもらう。
すぐさま書面にしてもらってから丁寧に部屋から追い出した。
口だけ男に気を付けなさいって良く言われるでしょう?
ちゃんと直筆で書いてもらわないとね。
「おか……レイディアさん」
屑男達と共に護衛達も叩き出すことに成功して、この部屋には侍女と女医しか居ない安心出来る状態になった。
お母さんを包んでいた球体は降ろしたいと願っただけで私の横にお母さんを寝かせてくれた。
二人きりじゃないから発言には気をつけよう。
さっき叫んだ言葉に屑達が反応しなくて良かった。
暖かくて記憶よりも柔らかく、すべすべした手を握りながら、久しぶりに同じ布団で眠った。





