22.婚約権利は誰の手に
体力もあまり無い美華に話すべきではなかったかもしれない。
それでも話すタイミングが今しかないのも現実だと思った。
玲子の記憶とレイディアの記憶は二人分の量がある。
だからなのか頭が割れる程苦しいのと、思い出した物が少しずつ消えていくのを感じていた。
思い出したと思ったら今見えていたものが何だったのか分からなくなっていく。
この世界に必要ない記憶の消去が始まっているのだろう。
だって私は今、レイディアなのだから。
「美華、落ち着いて聞いて。私は美華が帰る場所で待っている事が出来なくなったの。だから帰った時はすぐお母さんの失踪手続きを警察でしなさい。私の遺体はもうないから失踪手続きしかないの。七年経てば死亡扱いになって保険金が入ってくる。その間は預金とバイトで何とか暮らしなさい。美華なら出来る」
「失踪?死亡?保険金?何言ってるの?馬鹿じゃない!?」
「いい?預金通帳の暗証番号は…」
「冗談が過ぎるよ…」
泣き笑いの表情を見せる美華の顔にある人の表情が重なる。
顔が父親の方に似ていると常々思っていたし、周りからも私に似ていると言われた事は無かった。
やっぱり貴方に似ているわね。
少しずつ痛みが治まってきた頭には一人の男性が笑いかけていた。
お願いよ、美華を大事にして、護って、幸せにしてよ。
湧いてきた玲子の感情に苦笑いを浮かべながら立ち上がり、美華の頭を優しく撫でた。
「聖女様!」
ノックの音と共に聞きなれた声が響いた。
私の部屋ではノックすらしなかったくせに勝手に入ってくる事もしない王太子にイライラが積もる。
目で美華を見れば小さく頷き返してくれる。
「どうぞ」
代わりに返事を返すと同時に入ってきたのは王太子だけではなく王弟と国王まで入ってきたではないか。
物々しい雰囲気に嫌な予感しかない。
「聖女様、これからの生活に際して一つ提案を飲んでくれないか」
「提案?」
王が思ったよりも優しげな声と眼差しで美華に接するのはハラハラドキドキと落ち着かない。
「王妃の座、王太子妃の座、そして王弟妃の座で好きなものを選び、聖女様の権威を確固たる物にするという提案だ」
え、この王、息子と同じ歳の娘を嫁にしようとしている?
しかも王妃様いらっしゃいますよね。
「陛下、お戯れを。冗談が過ぎると寝首を掻かれますよ」
「ほんの冗談も言えないとはつまらないなぁ」
王弟の鋭い視線に寝首を掻くのは誰かなど口を挟む事は出来ない。
「勿論心は決まっているだろう?」
空気を読んでないのか、読まないのか、王太子がキラキラした目で美華を見つめるが、私は絶対に王太子の嫁にしたくない。母として。
苦労が目に見えてわかるし、何より王族との婚姻なんて何のメリットも感じられない。
「答えを急がせるのはどうかと思いますよ」
優しげに美華の味方っぽく装っているけど、花婿候補で辞退していない時点で王弟も敵だ。
王太子よりも絶対に阻止したい相手ナンバーワンだ!
「あの、私は…」
「聖女様は王太子の私と結婚して王妃になるのが幸せです」
「王妃等の重責よりは臣下として王に尽くす立ち位置の方が絶対に過ごし易いはずです」
美華の言葉も聞かない奴等が幸せなんて言葉を口にするな。
「陛下、発言をお許し下さい」
余りにも自分勝手な男達に我慢の限界がきた。
頭を下げて王に緩しを乞う。
「ならん。今は大事な話の最中だ」
私の言葉は不要。王太子の今のは婚約者は私やぞ。何茅の外に放り出しとんのじゃ。
ふつふつと怒りが湧きスカート部分を握り締めて堪える。
「だから私と結婚するのが一番です」
「いや、臣下に下った方が浄化に出掛けるのも楽になります」
「私はどちらとも結婚しません!」
奥歯を噛み締めて耐えていると、隣から大きな声が響いた。
体調が悪いはずなのにこんな労いも心配もない会話を聞かされて、守ってあげられない自分が悲しい。
「それは出来ない。婚約だけでいいのだ。そうしたら万事上手くいく」
美華を宥め丸め込もうとする王の心中がなんだか分かった。
婚約を大々的に発表してしてしまえば結婚の用意に着手出来る。
そして浄化が終わる前に結婚式を強行してしまえば聖女は元の世界に帰る事を諦めるだろう、と。
そして帰還の魔力は王弟が持っている。
もしかしたら帰す事を出来るだけ先伸ばしか、帰せなくなってしまった等の嘘でこの地に繋ぎ止めるつもりなのだろう。
小賢しい。
美華の気持ちをそっちのけで取り合いなんかしてるなよ小僧共。
わちゃわちゃと騒がしい男共の声に怒りは膨れ上がる。
三人寄ればかしましいとは良く言ったものだ、煩わしい。
体がゆらりと揺れたと思ったら目の前が薄暗くなって三人の見分けがつかなくなっていく。
足が勝手に前へと進むと護衛達が間に入ってきた。
剣を抜くことはしていないが、柄に手を置いている。
その気になればあっという間に切られてしまうのだと分かっていながら足は止まらない。
男共は何かを叫んでいるのに内容が分からない。
ああ、こいつらを始末したらきっと美華は助かるのだろう。
今なら出来る気がする。
「お母さん!」
耳に水が入った時のように聞こえずらかった音は美華の声だけが鮮明に頭まで響き、ふっと何かに包まれたと感じた瞬間、意識を手放してしまった。
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