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19.浄化の秘密

あれから考え込んだ王弟は私の机を占領して何かを書き殴りながら一人で唸っていた。

何もする事がない私達は邪魔にならぬよう静かにお茶を飲んでいる。

置物侍女も今は真面目に給仕していて、先程の態度から一転し聖女に茶菓子も出していた。

王太子の間者じゃなかったのかな。


「聖女様」


「はい!」


「色々考えたのだが、今までの聖女様の浄化で何か問題があったという話は聞いたことがない。美華様は何故か浄化が途中までしか出来ていないのかと思われます。元に自然の被害は食い止められていますから」


「途中ってどういう事ですか?これが浄化じゃないんですか」


「聖女様の浄化は濁った水を透明な水にして戻すような物ではないかと思うのです。美華様は瘴気を取り込んでその場は浄化しますが、その後ご自分の中で浄化する事が出来ずにいるのではないでしょうか」


「だから取り込んだ分だけ聖女様の体が大きくなっているという事ですか?」


「そのように考えられます」


「何それ、本当に食べてるみたいじゃない」


はい、食べているんですよ。

王弟の仮説は外れていないと思う。

食事したように見えていた浄化風景は王弟も見ていたからこの仮説が出たのか、でもそこで問題はなぜ今回の聖女だけ完全な浄化が出来ていないのかという事だ。

何の切っ掛けで消化することが出来たのかは謎のままだし。


「もう一度書庫にあるものを読み直して調べてくる事にするよ」


「私も考えてみます。これからも浄化があると思うので」


そう話して王弟は颯爽と部屋を後にしようとしたところに国王の勅書を持った使者が現れた。


「聖女様に浄化申請が出ました。用意出来次第すぐにとの事です」


問題解決していないのに次の問題。

三人で溜め息を吐きながら浄化の旅の用意に取りかかろうと立ち上がる。


「尚、今回の浄化には聖女様と王太子殿下で出発することとなっております」


「「「え…」」」


三人の声が重なった。

こんな時に王太子と二人旅って父親に泣きついたのか情けない。

情けない訳ではないか。

好きな女性を落としたいから積極的に動いているという献身的な働きである。

王太子の仕事どうするんだよ。


「分かりました。行ってきます」


ここで最初に正気に戻ったのは聖女で落ち着いて事態を飲み込んでいた。


「護衛騎士や侍女達も一緒に行くでしょうから話を通しておきます」


王弟も何をしなければならないのかを模索しながら部屋を後にした。

私は一人何も出来ない。

王太子からの命令である王妃教育を聖女へ教えるというのは聖女が居ないと出来ないし、聖女の体の事は王家の人間ではない私が調べる事は出来ない。

王太子が聖女と出掛けるなら果たして私はここ(王宮)に居る意味はあるのだろうか。

帰りたい。


「行ってきます」


聖女も軽くなった足取りでこの部屋を去った。



……のは何日前の事なのか。

王妃教育以外することもなく暇な時間を過ごしていた私に王弟から研究室に招待するという手紙が届いた。

何代か前の聖女の日記を解読することが出来たそうだ。


「レイディア様、やっと聖女様の日記の解読をすることが出来ました」


会ったのは数日前なのに急に大人びたというか、いや、もう二十四歳だったのにもっと精悍になったというか、雄味が増した感じ。

ドクンッ

心臓が嫌な音を立てた気がした。


「喜ばしいことですね。何か分かりましたでしょうか」


「聖女様の精神的な物が関係あるようです。精神的、血縁、信頼、愛情等の心の拠り所で心が開き、浄化の解放に繋がるそうです」


「精神的、血縁、信頼、愛情。全て私と聖女様の間には無いものです。やはり私とは何も関係が無いようですですね」


あの時聖女の浄化が成ったのは何か別の要因があったのだ。

例えば空腹で食べたサンドイッチの美味しさでとか。

飢餓に襲われると少しの食べ物で興奮したりするものだという。


「そうですね。それでも貴女と一緒に居た時に浄化がされているという事は聖女様に何か思う所があったのかも知れませんね」


「そんなはずは…」


「こればかりは聖女様ご本人に確認する他ありません」


「そうですわね」


言い方が急に素っ気ないというか疲れている?

目の下には隈があるし、少し頬が痩けた印象を与える王弟にそこまで身を削って調べていたのかと心配になった。


「王弟殿下、お疲れではないですか?お体ご自愛ください」


お互い向かい合って座っていたので声をかけると冷たい視線が突き刺さった。


「大丈夫です」


「あ、そう、です……ね…」


王太子の婚約者の位置に居る聖女の繋ぎである私ははっきり言って宙ぶらりん。

そんな女と仲良くしても何の利益もないのが分かっているのだろう。


「それでは失礼致します」


王弟との関係は聖女の事だけ。

私には関係ない人。

聖女が王妃になるのなら私には天上の人達になる。

会うこともないだろう。

そう何度も自分に言い聞かせているのに支えた胸は詰まったまま楽にはならなかった。

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