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15.婚約破棄宣言

「お荷物はこちらでお部屋に運ばせて頂きます。王太子殿下がお待ちですのでご案内いたします」


王城に着いて言われてたのは予想していなかった言葉だった。

王太子は聖女と一緒に居るはず。

そう報告も受けているし、まだ帰還の話も聞いていない。


「こちらでございます」


通されたのは王太子の私室であり婚約者だった八年、一度も足を踏み入れる事が無かった場所。

要するに私との時間は仕事であり、プライベートにまで入れる価値が私には無かったという事を示していた。

王城に呼ばれたその日に私室にまで呼ばれたと浮かれる程私は馬鹿でも脳内お花畑でもない。

案内してくれた侍女の態度も困惑気味だったのがその証拠だ。


「ドッズ侯爵家ご令嬢のレイディア様がお越しになりました」


「どうぞ」


何が起こるのかと緊張していた私の耳に聞こえて来たのは思ったより優し気な王太子の声。

通されたのは濃紺を基調とした大人っぽく品の良い家具の部屋。

調度品が並んでいるだけで装飾品が無い分さっぱりしていた。

家具の色が暗いせいか、一言で言えば物悲しい部屋。


「体調はどうだい」


「ご心配をお掛けしたこと誠に申し訳ありません」


「はぁ…本当にそうだ」


頭を下げた私から顔を背けながらの深い溜め息。

このそこはかとなくモヤッとする対応はどういうつもりなのだろう。


「聖女様にもお詫びをしたく。お部屋はどちらでしょうか」


優し気に感じたのは勘違いだったようで、この部屋に長居しても得は無いと早々に退室の意を表した。

知らぬ間に帰ってきていたのならお詫びをするのが当然だろう。

聖女の後には王弟殿下の所にも行かなくてはと計画を練っていると鋭い視線を感じた。


「……殿下?」


眉間に皺を寄せて鋭い視線で私を睨んでいる王太子に体が強張る。

何か機嫌を損ねる事を言っただろうか。


「お前のせいで私まで帰還を強要された。お前が倒れたせいで」


「そ…それは、大変失礼いたしました」


先程よりも深く頭を下げて許しが出るまで下げ続ける。

返事が貰えず頭を下げたまま暫く時間が経った。


「そこまで言うなら許してあげるよ」


「ありがとうございます」


やっと出た許しに頭を上げると王太子の顔はニヤリと歪んでいた。

今までに見た事が無い卑しい表情だった。


「お前は私の婚約者としてこれまでやってきた。だから王妃教育も完了していると報告を受けた」


受けているではなく受けた。

今気になったから聞いたような言い方にそれほどまで私に興味が無いのかと呆れを通り越して感心する。

興味の無い女をよく婚約者にしたものだと。


「聖女様が帰還したら直ぐに王妃教育を施せるように用意しておきなさい」


「………え?」


「貴女が学んだ全てを聖女様に教えて差し上げるのだ」


この人は何を言っているのだろうか。

百歩譲ってお教えするのは良いとしよう。

だがそれは果たして私の役目なのだろうか。


「何故、私が?王妃教育は教育係りもいらっしゃいますし、最終的には王妃様が自ら教鞭を振るう事になるのです。それを私がお教えするなんて畏れ多く…」


「だから言っている。母上はお前が王妃になると思ったから教えて下さったのだ。それなのに聖女様が王妃になるからまた一から教えを乞うのは大変だろう。少しは役に立て」


お前は王妃にしないと明言してきた。

もう傷付く事も無い。

傷というものは信じている相手だから受けるもの。

王太子への信頼はもう無いのだと自分でも理解出来た。


「私には出来かねます」


丁重にお断りしようとした私の手を王太子が両手で包むように握ってきて体が反射的に強張る。

引っこ抜かなかっただけ誉めて下さい。


「私は初めてこの胸の高鳴りを体験したんだ。幼少の頃から側に居たレイディアなら私のこの気持ちを分かってくれるだろう?」


元々の端整な顔立ちである王太子の頬はピンクに染まり、瞳を潤ませていた。

恋する乙女の表情。


「レイディアと出会った時は共に切磋琢磨出来る夫婦となれる気がした。だが、聖女様を一目見た瞬間から頭も心も全て聖女様だけになったんだ。これは運命なんだ。分かってくれるだろう?」


分かりません。

運命なんて都合の良い言葉を誇らしげに使う貴方を理解する事が出来ません、したくありません。


「だからお前が身を引いてくれれば丸く収まる」


解決するわけないだろうが。

聖女の意思は?

周りの考えは?

……私の意思は?

自分勝手にも程があるのではないか。


「聖女様は何と?」


「帰ると言ってたが、権力もお金もある私の隣が一番の幸せだとお前が教えればいいだろう。こんな高待遇は戻った世界にだって滅多にあるものではないからな」


それを欲しがる女だけしか知らないのか。

可哀想に。

ドレスを握りしめながら固く口を引き結ぶ。

咄嗟に反論してしまわないように。


「自分のものだった位置を人に譲るのは苦ではあると思うが、お前には分不相応だった。婚約破棄をするから諦めてくれ。ああ、謝礼をやろう」


それをお前が言うのか。

私という人形の立ち位置を決め、その為の力量を求め、分かっていながら苦渋を強要したお前が。

下唇を噛み締め過ぎたのか、血の味が広がる。

しかも解消ではなく破棄ときた。

怒りで震える事があるのも今知った。


「ご期待に添えるよう全力を尽くす所存でございます」


家族という守るものがある者が権力者を前にした時の無力感は胸が潰れてしまう程の苦しみであった。

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