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14.権力の傲慢と怒りの矛先

瘴気浄化の旅の途中で意識を手放してしまった私は強制的に家へと戻され、三日が経った。

聖女は王太子と王弟殿下で旅を続行し、今は帰路となっているとか。

正直あの空間に居続ける事なく一人帰って来れたのは幸いだったと思っている。

そして体の疲れも癒えた朝。


「転居………?」


急な王命に開いた口が塞がらない。

朝食の席で父から告げられた言葉は王城への転居命令。

母も兄も義姉も驚きを隠せないまま食事の手が止まってしまっていた。


「今日の午後には迎えが来るそうだ」


「おっ、お待ちください!今日なんてそんな急過ぎやしませんか?」


「大事な物以外必要な物はあちらで揃えてくれるそうだ。身支度も時間はかからないだろうからと…」


肩を落とした父は困り顔で王命の書かれた手紙を力の無い目で見つめていた。

朝食の場が一気に暗く重たくなって誰もが視線を落とす。


「お父様はなぜそんなに気落ちしているのですか?殿下との結婚をあんなに喜んでいたではないですか」


初めて殿下に会って目を掛けられた時にはあんなに喜んでいた父に違和感が拭えない。

今は聖女に傾倒し始めた殿下が社交界で噂になっている。

殿下が自分から女性に近付いたのは私と聖女だけ。

その為に陛下が私を王城へ招くのは分かるけど、それを喜ばない父は不思議で仕方がなかった。


「娘が……娘が家を出るのに……寂しくない父親は居ないだろう…」


絞り出す様に父の口から漏れる声が苦しそうで胸が詰まる。

そんな風に考えてくれていたのかと涙が込み上げてきた。


「王太子殿下に嫁げば何不自由なく暮らせるのは分かっているが、やはり寂しい!!」


「まぁ、殿下との婚約を喜んでいたのはそんな理由?」


母が呆れた声を上げて父を睨むと、父はビクッと体を震わせてナフキンを手にモジモジと縮こまってしまった。


「王家へ嫁に行くという事は命の危険もあるのですよ!家格から見て娘の苦労を考えると殿下より侯爵や伯爵家へ嫁に出した方がどんなに幸せか分からないのですか?」


「でも…そこでお金に困るよりは王家の方が……」


「心労が違います!!私はてっきりあなたの出世欲に火がついたのかと思いましたよ」


「な!?私は娘を利用した出世に興味などない!」


私も今まで母と同じ意見でした。

まさか父が私の事を考えてくれていたなんて。


「お父様、ありがとうございます」


「あなた…この婚約お断り出来ないのかしら?」


「無理だよ母上。殿下が聖女様に入れあげていても聖女様は元の世界に帰る気なんだろう?なら王家からしたらレイディアを離すわけにはいかないからな」


成り行きを見守っていた兄が溜息混じりに話し出す。

父と私と同じ赤い癖っ毛を無理矢理撫で付けカッチカチに固めた髪はいつ見ても痛々しい。

義姉は何故兄を選んだのか今度じっくり話を聞いてみたいものだ。


「レイディアはどう思っているの?」


優し気な声で笑い掛けてくる義姉に自然と口が軽くなる。


「私は……今の殿下が信じられません。聖女様への対応を見ると私への笑顔や態度は全て作られたものだったと分かりますし、私の事を邪魔だという事を隠そうともしない。寧ろ排除しようとしているようですから」


「それに気付いた陛下が先にレイディアを繋ぎ止めようと動いたのね。まさか結婚前に転居だなんて…」


私の言葉を聞いて額に血管を浮かばせながらもそれでも笑おうと顔を引き攣らせた母がナイフを持つ手に力を込めた。

それに習うようにフォークを力強く握る義姉が私を見つめる。


「レイディアは殿下と結婚したいか?」


「正直…今は……」


父の質問に私の心は揺れていた。

王子様に見初められて幸せに暮らしましたとさ、という物語に憧れはあった。

私も物語の主人公のように幸せになれるかもしれないと。

でも主人公は聖女であって私ではないのが現実。

そして政略だとしても愛されているという気持ちを感じたから辛い王妃教育も乗り越えて来られたのだ。

ここまで来ると自分も好きだったのか、王子だったから好きになってたのか、それともただ夢に恋していただけなのかと混乱してきた。


「でも…王命は絶対だから……」


例え愛し愛されずとも政略とはそういうもの。

現実問題、顔を合わせた事がない者同士での結婚もある。

それを考えるなら私は幸せなのではないか。

自分に言い聞かせながら喉を通らない食事を終わらせて自室へと下がる。

どれだけ考えようとも、もう時間に猶予はない。

必要なものを掻き集めてくれたのはカリーナ。

アンナは結婚して今赤ちゃんがお腹にいる為に(いとま)を与えていた。

その穴を埋めたのが妹のカリーナ。

勉強に後ろ向きだった彼女も立派な侍女へ成長してくれて何よりです。

一緒に行きたいと言う彼女を宥め落ち着かせて一人で王城へ向かう。

侍女の一人も受け入れて貰えない扱いに憤りしか感じない。

なぜこんな扱いを?

と、用意された馬車に運ばれながらやさぐれるしかなかった。

何もかもが上手くいかない。


あの聖女が来てから…


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