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11.初仕事は驚きでした

ガタゴトガタ…

舗装されている道を王室の馬車が通っていく。

通る道には人が集まり、パレードのようになっていた。

それを小窓にかかるカーテンから少しだけ目を出して観察してみる。

本当に厄介な事になった。

聖女の話から十五日も掛けて予定を調節して準備を整え、やっと瘴気の浄化へと乗り出したのにこの人混みで前に進むのに時間が掛かり過ぎている。

それも王太子が自分も行くと我儘を言い出し、我儘を言った事がない王太子に条件付きで許可を出してしまった陛下達。

条件が近々に必要な仕事を全て終わらせるように。

それって当たり前じゃないの?

仕事投げ出すなんて王太子としても人としてもダメなんじゃないかな、行きたいという我儘ごときで。


「民は皆健やかでいいな」


王太子が出るなら馬車も王室のもの。

警備も厳重になるし、動きづらいったらない。

そんなことは誰も口に出来ないまま出発の日を迎えてしまった。


「そうですね」


王室の馬車は中々見れるものでもないので元気に手を振ってくる民に聖女も表情が明るい。

聖女の隣に座る王太子はそんな聖女の顔を見て相好を崩す。

婚約者であるはずの私の隣ではなく、聖女の隣に陣取っているのだ。


「殿下、このままではいつまでたっても目的の場所に到着することは出来ません」


「ゆっくり向かえば良いだろう。聖女様がいればすぐに瘴気も晴れるのだから」


呑気な事をいう。

瘴気は木を腐らせ大地をも殺すのだ。

広がらない内に食い止めたいのに。


「聖女様も早くお勤めを終了させて帰還されたいと言っていたではありませんか」


「せっかく聖女様にお越し頂いたのだ、この国を楽しんで帰られても良いだろう。お前はそんなに聖女様を帰したいのか」


はい。

そう言葉に出せたら楽なのに。

帰りたいと言っている人を帰しちゃいけないのかと問いただしてみたい。

王太子は出来るだけ長く聖女をここに留めて自分に振り向いてもらおうと思っているのかもしれない。

昔の聖女の中で王族と結婚したという記述も確かにあったから。


「いえ」


反論するのも疲れてきた。

聖女の憐れむような視線も気に入らない。

頭では分かっていても自然に目付きが鋭くなるのを感じて眉間に皺が寄る。

そのまま聖女を見るとヒッと怯えられ、また王太子の不興を買った。


「殿下、聖女様、これから向かう森は狂暴な動物は確認出来ていない場所ではありますが、瘴気のせいで変わっていることもあるでしょう。護衛騎士の側からは離れないで下さい」


私の隣に座っていた、相変わらずローブにフードのリョウイン王弟殿下は何事にも動揺しない様子で静かに声を出した。

隣に座って気付く体の大きさ。

魔術に長けた方と聞いていたが身長も高ければ筋肉もあると初めて知った。

その王弟殿下は私達のギスギスした関係を全く気にしていないみたい。


「叔父上は魔力で補助して下さるのですか?」


「残りの魔力は聖女様を無事に帰す為にあるようです。なので私の存在はただの付き添い以下ということになるでしょう」


自傷染みていない単なる事実を口にしたという感じで答える王弟殿下に王太子の方が口を閉じた。


「キャーーー!!」


そこに女性の悲鳴が聞こえ、周りの空気が緊張感に包まれた。

瞬時に聖女を抱き締める王太子を叱咤することは今は出来ない。


「どうした」


「今、確認しております」


王太子が外の護衛に確認するとすぐに外から返答がきた。


「近くの川に瘴気が発生したとの情報が入りました!」


その言葉に馬車内の4人が目を合わせ、王太子が抱き締めていた腕をゆっくり離した。


「どこで祈れば?」


「聖女様の目に瘴気が微かにでも見える位置であればどこでも大丈夫なはずです」


「そんな不確かな情報しかないのか。聖女様が怪我をしたらどうする!?」


聖女の初仕事、文献にしか載っていないので誰にも正解が分からないのに怒る王太子。

本当にもう黙ってくれないかな。

誰かこの人、気絶させて下さい。


「やってみます」


聖女の方が潔い。

馬車の扉を開けて外に飛び出していく。

それに続いて私達も出ていき、騎士の案内で道から逸れて行った。

いつの間にやら野次馬の民達の妨害から抜け出ていたようで清々しい緑の自然な匂いがした。

木や草むらを突き進むと水の音が聞こえてきて近くに川があるのが分かる。

そして視界が開けた所に小さな川が現れた。

川の流れに沿うように黒い物が蠢き、その場所に居たのであろう魚が死んで流れてきている。

黒いその場所だけ異質で鳥肌が立ってきた。


「ここで大丈夫なはずです」


「はい………えっと……祈る…?」


王弟殿下の声に聖女が悩みながらも手を組み合わせて目を閉じる。

私を始め、瘴気を相手に誰も何の手出しが出来ないのがもどかしい。

どのくらい待てば良いのかも分からない中、聖女の手がほんのり光り始めた。

そしてその丸い光りが手から離れてフウフワ浮いたと思ったら瘴気を食べた。

歯の様な物まで見える大きな口を開けてパクリと一口で。

祈っている聖女は目を閉じたままで見ていない。

しかし私達はそれを目撃してしまった。

丸い光から出来た大きな穴はまさに口で舌のような長いものが出たと思ったら瘴気をペロリと食べてしまったのだ。

衝撃的過ぎて誰も声が出ない。


「あ、本当に祈っただけで浄化出来たんですね」


そこには嬉しそうな聖女の声だけが響いた。

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