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第七話

 わたし、シェフィ・クレエンスはリール王国の貴族、クレエンス公爵家の令嬢だ。でも血筋は全くといっていいほど公爵家に関係ない。なぜならわたしは公爵家に引き取られた養子の子だったから。



 クレエンス公爵は子供に恵まれなかった。そんなとき、たまたま公爵家の前で行き倒れていたらしいわたしを見つけ、引き取ったという。

 わたしが他とは違う大きな魔力を持っていたからって理由で。



 わたしは正直、両親に嫌われている。

 


 わたしは、生成色の癖っ気のある長い髪に、たれ目がかった目元と黄色い瞳という、ぼんやりした冴えない容姿をしていた。

 父と母の両方に似つかないその色彩と容姿は、一目でわたしが養子と分かってしまうということを意味した。


 だから周囲からは、わたしが養子の娘なのかとガッカリされたり、両親のどちらかが不倫したなどの噂がたったりすることも多かった。


わたしは公爵家の評判を落とす迷惑な存在でしかなかった。


 それもあってかわたしは両親から少々距離を置かれていた。引き取ったからにはまた捨てるにも、これ以上公爵のプライドが傷つくのが怖くて出来なかったのだろう。


 それだけならまだよかったのだが、両親に仕える使用人たちからも、無視をされたり嘲笑されたりした。わたしが公爵家の実の娘ではないのに贅沢な暮らしを送っているのを妬まれていたのだ。




 わたしはいつも一人だった。誰とも話さないことなんて日常茶飯事だ。

 身の回りのことも全部一人でやっていた。使用人たちは公爵の目の届かないところだからと、わたしには侍女も誰もつけなかったのだ。もちろん公爵の前ではちゃんとしているよう装っていたが。

 唯一食事だけは両親と一緒に食べていた。しかしそれも、ずっと無言で気まずい時間が続いているだけで、わたしは早く食べ終えることにしか集中していなかった。美味しいはずの料理の味は全くしなかった。


 わたしは本当はここに居るべきではないんじゃないか、と何度疑問に思ったことか。


 だからその感情を誤魔化すためにわたしは明るくなろうと、物事を前向きに捉えることにした。

 次第にわたしは、「周りのみんなは自分のことしか考えることができない可哀想な人間なんだ」と、心の中で相手を貶して自分を正当化するようになっていった。

 我ながら非情な性格だと思う。



 わたしは養子である以上、両親から切り捨てられる可能性が高かった。魔法も結局、大きな魔力を持っているにも関わらず、何故か精霊との契約を結ぶことができなくて、使えずじまいだったのだからなおさら。


 だから必死になって勉強した。周りからも認められる完璧な令嬢を目指した。そうして公爵家の令嬢の座に無理やりしがみついていたのだ。


 そんな時だった。アレン王子から婚約の申し込みが来たのは。


 両親は喜んですぐにその申し込みを受け、対談し、わたしたちの婚約は決定した。

 政略結婚という形になってしまったが、別にわたしもそれで構わなかった。両親の役にたてるのならそれでよかったのだ。

 実際、お母様は泣いて喜んでくれた。それがわたしのための涙じゃないと分かっていてもどれだけ嬉しかったことか。


 わたしが10歳になったころ。わたしの義弟、レオンが産まれた。流産などが続き、なかなか子供ができなかった公爵家にやっと血の繋がった後継ぎが産まれたのだ。

 それからはこれまでより一層、わたしは両親と使用人にないがしろにされた。お母様とお父様は、レオンをわたしとは違ってとても大切に可愛がった。

 そうしてわたしの居場所は更になくなっていった。



 それから、わたしは次第に部屋にこもることが多くなった。食事も断り続けて、少しずつだが痩せ細っていった。


 わたしは心の奥底で、こうなったら少しはお母様もお父様も心配してくれるんじゃないか、と期待していたのかも知れない。


 しかしその思いも空しく、両親は全くもってわたしのことを気にしていなかった。レオンに夢中な両親は少しわたしが痩せたところでその変化に気づくほどわたしのことを見てはいなかったのだ。



 もし、王太子の婚約者でなくなったらわたしはこの家にとって完全に邪魔な存在でしかなくなる。しかしそれも、わたしじゃなくても誰でもよかったのだ。結局のところわたしなんていてもいなくても変わらなかった。

 その事実は痛いほどよく思い知らされた。



 わたしは二人にとって都合のいい道具でしかなかったかもしれない。それでも…そんな人たちにでも愛されてみたかった。わたしのことをちゃんと見てほしかった。それだけだったのに…




* * *

 突然涙ぐんだシェフィちゃんを見て、アリスはどうしてよいかわからずあわあわしていた。


「…あの場所にわたしの居場所なんてない」



 僕は聞いてしまったことを後悔していた。



 彼女の記憶がどっと頭の中に流れ込んでくる。


「わたしには家族なんて、帰る場所なんてないんだよ…」


「…」


 半ば自傷気味に呟いた彼女の言葉でその場に気まずい沈黙が流れてしまった。



(…言う内容を間違えたな。こんなことなら、もう少しシェフィちゃんの記憶を確認しておけばよかった)


 目覚めてからの最初の頃は、状況を理解するためにも躊躇なく他人の記憶を覗いていた。だけど流石にずっと覗いているのも、プライベートなことだし、気が引けたのであまり深入りはしていなかったのだ。


 まぁ、それが仇となってしまったわけだが。



 出会ってすぐのシェフィちゃんの頭の中を見て、思わず吹き出してしまったのはまだ新しい記憶だ。彼女の考えることがまあ面白くて、それでいて変に思い込みの激しいところもあってすっかり油断させられた。

 てっきり幸せに育った面白い子なんだなと勝手に思い込んでいた。


 でも、違った。


 彼女にもちゃんとデリケートな部分があった。触れたら簡単に壊れてしまいそうな弱いところがあったのだ。周りに気づかせないようにしていただけで。

 それも知らず、無神経に首を突っ込んで傷つけてしまった。

 なんでも知ったような口振りで傷つけたくない相手も傷つけてしまう。昔からの僕の癖だ。


 「大変だったね」?「ごめんなさい」?。どれもこれもしっくりこなくて、僕はなんて声をかけていいかわからなかった。


 はっと気づいたとき、珍しく気を使ってアリスがそっとシェフィに声をかけていた。僕は悲しんでる人に声をかけることもできない自分が恨めしかった。

一から書き直したい _(:3」∠)_

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