第六話
執筆辞めようかと思っていたのですが、ひとまず書けるところまで書くことにしました。気まぐれであげるとおもっていてください。
「良かったなぁ?シェフィちゃんが優しい人で」
唐突に後ろから聞こえてきた声に振り返ると、そこにはTシャツに短パンというラフな格好をした美少年がいた。
(なにこの幸せ。美味しすぎない?これは夢かな?夢ならどうか覚めないで…!)
フードをとったレイくんの姿のかっこよさで、目がやられそうになるのを耐えながら、わたしはなんとか言葉を紡いだ。
「レ、レイくん!あの…ここは?」
(しまった。様じゃないて、くん付けで呼んじゃった。心のなかだけで呼ぶようにしてたのに…。どうしよう、馴れ馴れしいって思われちゃったかな)
そう思ってレイくんのほうをちらっとみると、何故だか不思議そうな顔をしていたが、嫌そうな顔はされてなかったのでひとまず安心した。
「ん?ああ、僕か。えっと、アリスから聞いてない?ここは…」
「レイくんってだれ?あーもしかしてエアのことー?」
レイくんが続けようとした言葉は、横から入ってきたアリスちゃんによって遮られた。
「…エア?」
「ごめん、言ってなかったね。エアは僕のことだよ。本名をすっかり言うタイミングを無くしててね…」
そのエアと名乗る少年は、申し訳なさそうに頭をかきながらそう言った。
「いやいや、全っ然大丈夫だよ!レ…エアくんなら許す!」
わたしがそう言うとエアくんは「ありがと」と天使の微笑みを返した。…キュン死させる気ですか?
何故だかアリスちゃんはそれを見て、驚愕の表情を浮かべていたが。
(そういえばレイっていうのは、アレン殿下の従者の名前だったんだっけ。初めて会った時から、心の中でレイくんレイくん呼んでたからすっかり定着しちゃってたけど)
わたしは心の中とは言え、違う名前でずっと呼んでいたことに対して、逆にこっちが申し訳ないなと思った。
しかし、当の本人であるエアくんはというと、大して気にもしてない様子で、むしろニコニコこっちを見ていた。
「じゃあ、改めまして!僕はエルイアっていうんだ。君たち人間からは“破壊神„とか呼ばれたりしてるかな?多分、君は気づいていたでしょ?」
「破壊神…エルイア」
もちろん、気づいてなかった訳ではない。だけど本人から直接、自己紹介されるとは思っていなかった。
リール城の地下深くで、秘密裏に封印されていた存在。しかし、その名を知る者は多かった。
破壊神エルイアといったら、世界を簡単に破滅させられるだけの力を持っているとされる、残虐で冷酷な神である。
この国で信仰されているミレス教の至上神、ミランツェスと対になる存在だ。反対に創造神とも呼ばれるミランツェスは、世界を作り、守り続けてきたとされている。
どちらもミレス教の神話の中に出てくる伝説上の存在にすぎないが、これは子供から大人まで誰でも知っている常識のようなものだった。
本当に彼はあの破壊神なのか。そう、信じられないわたしがいた。エアくんの言葉を疑いたくはないが、それといって大きな証拠はないのも事実だった。ただ、名乗ってるだけかもしれない。それに、そんな恐ろしい破壊神がこんな優しいイケメンだろうか。
最後のが最も大きいが、わたしはエアくんの言葉に半信半疑だった。
「おや、信じてない?まぁそりゃそうか~。そんなやつが普通にこんなところにいて、普通に人間と会話してるなんておかしいもんな。たぶん僕、君たちのイメージとかけ離れてると思うし。…なにより僕、破壊神なのに優しいもんね!」
「どこが?」
「え?」
ボソッと呟いたアリスちゃんの言葉を聞き逃さなかったエアくんは、アリスちゃんの方を振り向き、笑顔で圧力をかけるという器用なことをしていた。
「…あっそうそう。話が逸れてて、ここがどこだかまだ言ってなかったね。リール王国の南の方に黄昏の森ってあるじゃん?ここはその中央に位置してるところで、元々こいつが住んでた小屋だよ」
レイくんはそう言って、片手でアリスちゃんを指差した。
「小屋ってひどくない?」
(あっ。否定はしないんだ。っていうか黄昏の森!?)
エアくんがいってたように、黄昏の森は王都から南へずっと離れた場所にある。馬車でも2日はかかるらしく、そこには危険な魔物がうじゃうじゃいると聞いたことがあった。「危険だから近づくな」と言われていて、わたし自身行ったことはなかった…いや、今日初めて来たけど。それより…
「…え、待って。アリスちゃん、令嬢なのにこんなところに住んでたの?!危なくない?」
「うん大丈夫!アリス実はね、貴族じゃないから!」
アリスちゃんは笑顔でとんでもない発言をした。それを聞いたわたしは、衝撃のあまり、あんぐりと口を開けて硬直してしまっていた。
「………」
「おーい。生きてるー?」
エアくんはそう言ってわたしの目の前で手をひらひらさせている。
「…はっ!」
「あ、よかった。戻ってきた。こいつの発言、いつも唐突すぎてびっくりするよね。
アリスは貴族に紛れ込んで、王宮内の地下に眠ってた僕の情報を探してたらしいんだよ。相応の身分がないと一般庶民は入れないからね」
唐突すぎてびっくりしたのはエアくんも同じだったけど。
そう言おうとした言葉を飲み込んで、わたしは適当に相づちをうっておくことにした。
「へぇ~。エアくんの情報を探すためにね…」
(…えっなにそれ。どこで手に入るの?めっちゃほしい。…というか、アリスちゃんはそれで貴族の令嬢を演じてたのか!だったら凄い演技力!全然わかんなかった)
「いや、こいつただ単に楽しんでただけ…」
エアの呟きはシェフィには聞こえていなかった。
「だけどな。こいつの軽率な行動のせいで、今回の件に君を巻き込んじゃったんだ。君はあの後、僕の転移魔法に乗ってここに来ちゃった訳なんだけど覚えてる?」
「乗ったところまではなんとなく…」
「そうか。でも安心して。ちゃんと家には帰れるから。家族にも心配かけちゃったかな?帰ったらゆっくり休むといいよ」
エアくんが何気なく言ったその言葉がわたしの胸にささった。
…家。…家族。
「…」
「どうした?」
家には帰りたくない。それをなんとなく言いたくなくて口をつぐむと、その場がしーんとなってしまった。
「もしかして、帰りたくないの?」
アリスちゃんの問いかけにわたしは目を伏せたまま、小さくこくりとうなずいた。
あんなところ、帰りたくない。あいつらの顔も見たくない。あの場所にはわたしの居場所はないのだ。そんな思いがぐるぐると頭の中を回っていた。




