夕闇の屋上
悠貴が通っている学校は、部活を作るのが容易にできるほど部活が盛んな学校だ。しかし悠貴は趣味が無いため部活を作ることもせず、部活に入ることもせず、とっとと家に帰って部屋に引きこもるような生活をおくっていた。
あのサキュバスに出会うまでは…
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つまりを何が言いたいかというと、みんな部活に行ってしまい悠貴が屋上に向かう道中、特に最上階である4階には人が全くいない。
教室の扉は固く閉ざされており、日没に近づいた太陽の赤い閃光が廊下と悠貴たちを照らす。
「──いよいよ…だな…」
「怖いの?大丈夫?」
「怖いに決まってるだろ!それに大丈夫じゃない!さっきから変な汗がすげぇんだよ!」
しかし、ミラとの会話のおかげでだいぶ緊張がほぐれた気がする。
悠貴の頭の中にはたくさんの疑問が浮かび上がっている。そもそも屋上など悠貴だって行ったことが無いのである。そんな場所に呼び出すとは一体凛は何が目的なのだろう。
悠貴は屋上に出る扉の前で何回も深呼吸をした。吸って。吐いて。吸って。吐いて。
そしてドアノブへと手を伸ばす。震える右手を左手で抑えながら回す。そこには鬼の形相をしたあの美しい少女が………
いなかった。
えっ!?いない!?…………
「ちょっと待て!俺集合時間を聞いてねぇ!もう帰ったのかな?」
確かに1番重要なことを聞いていなかった。とりあえず辺りを歩いて探してみるも、凛の姿はどこにもなかった。ただ夕闇に呑まれる街だけが悠貴の目に写った。
悠貴の心情は何事もなかったことに対する安堵感と、待ち合わせに遅れたのではないかという不安感とが混ざりあって複雑な感じである。
「────ッ」
悠貴は背後に気配を感じた。#怖気__おぞけ__#を感じた。
瞬間、凍てつくような冷気が辺り一面を覆った。思考が追いつかない。話の展開が早すぎる。悠貴の思考回路はフルスロットル。瞬時に情報を整理しようとする。
足が動かない。足の感覚がない。しかし前のクロのように首を刎ねられたわけではない。
悠貴が目線を自分の足に落とすと、初めて自分の足が凍っていることに気づいた。
「冷たっ!」
「とてつもないマナの力を感じるわ!悠貴、気をつけて!」
「気をつけろって言われても視界を後ろに向けることができねぇんだ!」
足の感覚がないのは#悴__かじか__#んでいるからだろう。悠貴の足が腐ってポロリということになるのも時間の問題だ。しかし全く足が動かないのである。
「くそっ…足がぁぁぁぁぁ!!!!!」
どんなに叫んでも。どんなに力んでも。どんなに足掻いても。足は動かない。
しかしその苦しみは一瞬にして終わったのだ。なぜならその苦しみはほかの痛みによってかき消された。
突然悠貴の体は強い衝撃により吹き飛んだ。体が軋む。視界が揺らぐ。意識がこの世から剥がされそうになる。
「ごはっ…」
悠貴の口から血が溢れ出した。
「痛ぇ…」
しかし今の衝撃で足を離さんとしていた氷が砕け散った。息を整え、口に着いた血を制服の袖で強く拭い、こう言った。
「手荒な歓迎だな…。こんな所に呼び出して何のようだ…」
「貴様はその亜人の味方なのか?」
はい?何て?今俺が質問しましたよね?もしかして聞こえなかった?
再び悠貴は、
「ここに呼び出して何のようだって聞いてんだ!答えろ!」
さっきよりも大きな声ではっきりと言ってやった。
「貴様はその亜人を#匿__かくま__#っているのか?」
?????
どうやらこいつには話が通じないらしい。