♯96 女神の使徒、炎龍王アサヒ ~やっぱり戦うことになる~
「それじゃ、迂回路とかご存じないです?出来ればまだ地下に降りたいんですよね」
折衷案というか、何というか‥‥。
可能なら戦闘は回避して、且つ此方の目的である地下探索は続行したい。
そんな僕の希望は、当然却下される。
「あー、迂回路?せやったら少し戻って貰ってー、て違うやん?探索自体止めて欲しい訳やん?ついでに言うたらキミあれやろ、ケルツォーバ殺した獣人。ちょっと話聞かせて貰えるかな?」
ゴゥと吹く威圧感が、実際に熱と圧力を伴って僕らに襲い掛かる。
まだ死ぬわけにはいかないので、結界を発動してそれを阻んだ。
『マジかよ‥‥』
「う、‥‥あ‥‥」
『マズいな‥‥』
「まぁ、とりあえずは自己紹介からやな。やぁやぁ、我こそは女神の使徒にして火の龍を統べる者、炎龍王アサヒである。いざ尋常に勝負せよ!なんつって」
可視化されて炎のように見えるオーラを迸らせるアサヒさん。
少し浮いた彼の真下の地面は、既に溶岩の如くに煮えたぎっていた。
司祭服の襟当たりから伸びる真っ赤なオラリ(細長い帯状の布)をはためかせるアサヒさんの目は、ギラギラと真っ赤に燃えている。
薄茶色の短髪も相まって、圧倒的に彼の方が主人公している。
『良いなぁ‥‥、じゃないや、炎龍王って、名前が違った様な気がするけど‥‥、これは面倒な感じになりそうだなぁ‥‥』
「あー、駆け出し冒険者のジュウゾウ・ミシロです。どうにか戦わずに済む方法が無いか、ご検討の程ヨロシクドーゾー」
「ハッハハ!キミおもしろいな。これで普通に出会ってたら別やったんやろ‥‥な!!」
言うが早いか、左手を振り上げる動作に連動して、アサヒさんの足元の溶岩が僕らに襲い掛かる。
見た目通りに直情系なんだろうか‥‥。
「まぁ、流石に食らいませんけどね」
密かに練習していたイ式結界を同時多重発動。
六呂とバレインさんを確りと囲ってから、空間を跳躍してアサヒさんの真後ろへ。
呼び出した円月での一撃は、真っ赤なオーラに阻まれて金属音を響かせる。
物理的接触が可能なオーラとか反則だよ!!
「【双龍岩】」
アサヒさんがポソリと呟いた一言。
そのたった一言が、余りにも大きな熱量となって僕の全身を苛む。
『重蔵っ!!』
おぉ、熱いし痛いし苦しいな、これ‥‥。
「ぶはぁっ」
危うく大火傷という所で、結界を解除して二つの溶岩流を魔法の【分解】で消滅させる。
今のは危なかった。
‥‥っていうか
「結界の中に攻撃系スキルねじ込むとかズルくないです?」
言いながら【空間操作】で取り出した投擲用のナイフに、新月の操る氷を纏わせてブン投げる。
【思考最適化】が有ると会話しながら式神の言霊を頭の中で組み立てつつ攻撃行動が出来る。
実に素晴らしい。
っとと、自画自賛はおいといて、まさか外界との繋がりを断つはずの結界の中に、スキルによる攻撃を発生させられるとは恐ろしい。
これが魔法にも適用されたりすれば、下手をすると一撃で決着を付けられかねない。
「ま、今のが切り札っちゃ切り札やしな、魔法もその他も、今の以外は【結界無効化】出来ひんから安心してええよ」
殺到するナイフの群れを、宙にフワフワと浮きながら悠々躱しつつ、僕の心配事を軽く、事も無げに否定するアサヒさん。
それが事実なら有難いけれど、鵜吞みにしない方が良いかな‥‥?
っていうか、それよりも今、サラっとトンでもない事言った。
「【結界無効化】とはまた‥‥」
「自分かってまだまだ奥の手ぇ有るんやろ?早めに出してくれへんかな」
言いながら特大の火球を複数空中に生み出す。
魔導輪から、【女神の火】と分かったけれど、一回の魔法発動で複数同時展開か‥‥。
弱ったな。
次々飛んでくる火球は、戦闘に加わっていないからかバレインさんには向くことが無いけれど、それはそれでまた、不穏な気配を醸し出している‥‥。
と、そんな気配を感じた直後、僕の背筋を悪寒が走った。
此方を眺めるアサヒさんの目が細められた瞬間の事だ。
「うっわぁ、噓やろ自分‥‥。エゲつないスキル持ってんなぁ‥‥、魔法もステータスも、しんどい事なりそうや‥‥」
どうやらステータスを覗かれたらしい。
大仰に片手で顔を覆いながら天を仰ぐアサヒさんの表情は、此処からは伺えない。
笑っているのかも知れないし、引いているのかも知れない。
どちらでも良いや。折角だし、僕も彼のステータスを調べさせてもらおう。
オーバーリアクションから回帰したアサヒさんに躍りかかりながら、丁度良く天井に生えていた鍾乳石から【物質創造】を使って鉄パイプの様なものを作り、そこに新月を降して顕界した月刀ペアで切りかかる。
そのままいつもの通りに意識を集中すると、アサヒさんのステータスが目の前に浮かび上がった。
種族:神人
名前:ロンネリオ・アルハブウェリム・コウジ・アサヒ Lv,5000
職業:[女神の使徒 50]
HP 49999/50000 MP 49703/50000
攻撃力 50000
防御力 50000
素早さ 50000
耐久力 50000
知力 50000
魔力 50000
称号:[竜王] [救世の使者] [女神の使徒]
魔法:[女神の火] [女神の風] [女神の水] [女神の砂] [女神の樹] [火属性攻撃吸収] [炎龍召喚(限)] [空間操作] [状態異常軽減] [女神の声]
スキル:[双龍岩] [炎魔法速度・効果最適化] [炎魔法多重化] [被痛覚減少] [爆炎召喚] [加護付与] [炎龍化(限)] [火竜召喚] [攻撃スキル結界無効化] [水魔法弱化] [水属性攻撃・被倍化] [逆境]
召喚:[火竜・グラニカ](隷属契約) [火竜・アグニル](隷属契約) [炎龍レセ・ク・ゴルフィカ](一時契約) [炎龍・バフ・ル・メルフィル](特殊契約)
装備:不明
‥‥ぐへぇ、まじかよ。
僕のステータスで一番数字が大きい防御力ですら、この地下探索で漸く1万台に届いた所だってのに、アサヒさんのステータスは見事に5万でフィーバーしている‥‥。
詰まるところ、どれだけ全力疾走しても軽く追いつかれ、本気で殴っても大して効果が無く、相手の攻撃で僕はボッコボコになるっていう事だよな‥‥、単純に考えると。
‥‥むぅ、仕方ない。
六呂との検証で、由来するモノから依り代を作れば良いと分かった事だし、此処は一つ、大盤振る舞いの多勢に無勢作戦だ。
式神なら例え依代が破壊されても簡単に再使役出来るし、その依代だって、六呂ブースト有の【物質創造】で数なら用意できるのだ。
‥‥まぁ、洞窟が無くなるのが先か、敵の無力化が先かで、下手したら生き埋めなんだけどね。
ともあれ、未知数の敵と戦うなら数で押しつぶす形で様子を見よう。
「刻茶破軍・太郎丸、白尾紅口・白華」
先刻アサヒさんに投げまくったナイフよろしく、【空間操作】で取り出した巨大な肉塊2つに式神を降ろす。
おぉう。
今までの攻防でかなり広くなった地下空間。
そこに、3メートル近い、水色に淡い茶色の模様が毒々しい蜘蛛と、先ほどまでの愛らしさなど微塵も伺えない、虎すら見下ろすレベルまで大きくなった白華が、その重量を感じさせない静かさで着地した。
僕は僕で、日本刀というには装飾過剰な二振りの刀っぽい武器を持って、アサヒさんとバレインさんの間に躍り出る。
「さて、切りたくもない奥の手を切ったんですから、出来れば大人しく降参して下さいよ‥‥」
新月を肩に担いで、正面からアサヒさんに、精一杯強がりながらそう告げた。
――――――――――
「ふっ、ハッハハハ!ええやん、切り札!ええ切り札や!ほならこっちも出さして貰うで、隠し玉!!」
重蔵が大見得を切った途端に、堪えられないとばかりにアサヒの口からは笑いが漏れた。
これは勿論、アサヒの思考が狂ったからではなく、彼のとっておきの隠し玉が、限られた条件でのみ発動できる物であるが故だ。
スキル【逆境】。数的不利・数値的不利が発生した場合に、魔法とスキルの限定化を取り払い効果制限無しに発動する事が出来ると同時に、自身のステータス全てを1.5倍にする物。
つまり、今のアサヒには[炎龍化]と[炎龍召喚]が、制限がかかった状態ではなく完全な状態で十全に使えるという事。
そして、重蔵から見ればただでさえ遠かったステータスの数値が、更に引き離された事になる。
重蔵を危険視したアサヒが、それでも単体でここに現れたのも、この戦術の為。
最短・最速で無力化し、天界へと連行する為に心を砕いた結果だった。
結末は、アサヒの望んだものとは、遠くかけ離れた物になるのだが‥‥。
「いくで!火竜召喚!![グラニカ][アグニル]、炎龍召喚![レセ・ク・ゴルフィカ][バフ・ル・メルフィル]!!」
真っ赤な炎の塊が、紅蓮に燃え上がる竜巻が、地下空間を削りながら溶かし広げていく様は、圧倒的な力量差を重蔵達に見せつける。
幾重にも重なる結界に守られた彼らは、熱に浮かされた様に見届ける事しか出来なかった。
――――――――――
未だ音を立てて溶け落ちる壁や天井は、途轍もない熱を放ちながら滴り、動き続けている。
破壊の根源は、うねり、猛り、時折大音響の咆哮でもって己の存在を誇示しつつ、狭い狭い世界を削り広げていった。
『むむぅ、まさかここまでとはな‥‥』
『いや、無理ゲーだわ普通なら。本当良かったよ‥‥』
意識を手放して久しいバレインさんを太郎丸の糸で白華に括り付けて、成るべく全員で小さくまとまって、結界の中から地獄を眺める。
ここまで天変地異じみた事をされてしまうと、多勢に無勢作戦とか言ってた自分の矮小さに顔から火が出そうだ。
今更顔から火が出た所で、結界の外の異様な光景からすると詰まらなさ過ぎて誰も驚かないだろうけど。
と、思考が遠くに行っている間に、火球と炎の竜巻が徐々に勢いを弱め、段々と姿を変えていく。
いっそ美術品とも言える美しさを湛えた、ドラゴンの姿へと。
「堪忍な、これが俺の隠し玉や」
全身から迸る赤いオーラ。
主人公っぽさ全開のアサヒさんが、配下の竜を従えて此方に目を向けた。
「最初っから全力で行かせてもらう事にしたんよ、キミの得体のしれなさは、同郷のよしみで目ぇ瞑れるほど軽ないし」
ふむ、右からグラニカ、メルフィル、アサヒさんを挟んでゴルフィカ、アグニルか‥‥。
種族名と個体名が違うし、名前持ちって事だよね。
「ま、大人しく捕まってくれるんやったら、命までは奪わんし、そのお嬢ちゃんも地上に返したる」
どのドラゴンも、僕よりはアサヒさんに近いステータス値だから、それぞれを相手取るとなると式神2対ドラゴン1かな‥‥?
「ほなら答え、聞かせてもらえるかな?」
「答え、ですか‥‥」
意識を集中しながら、ゆっくりとアサヒさんの目を見据える。
「勿論、ノーです」
折角なので仮面をずらし、満面の笑顔でそう答えた。




