♯91 ランタンは便利 ―おっと、そこまでだ!―
『重蔵、お主も変わらんなぁ』
『‥‥何がさ』
一人で湖畔に座り込みながら、サンドイッチを頬張りつつ六呂と会話中。
本当は指摘されるまでも無く分かっている。
と、自分では思っているんだけど、一応確認する僕に、六呂は失笑と言った風情で語りかけて来る。
『それは子供の癇癪じゃろ、確かにまだまだ子供じゃが、それでも、な』
『‥‥‥‥』
うん、まぁ、分かってるんだけどね‥‥。
ヴォルパの皆は、腹に据えかねる部分が有りつつ、それでも乗り越えて。
無かった事にするんじゃ無く、過ぎた事は取り返しがつかないと、飲み込んで前を向いているのだ。
それは分かっているのに、僕だけが独り思い煩って進めずにいる‥‥。
モヤモヤし続けているっていうか、思考停止状態というか‥‥。
自己分析したって、きっと答えは出ないんだろうけど‥‥。
『いや、答えはとっくに出てるのか‥‥』
『そうじゃなぁ‥‥。む‥‥』
「おう、ちょっと良いか?」
不意にベゲットさんが登場した。
見かねて僕の様子を見に来てくれたらしい。
一応、別行動中に何か有っても困るので、凛尾と太郎丸は休憩場所で待機して貰っていたので、ベゲットさんの動向は知っていた。(妃蜂はパルヴァレイトだかに、絶賛取り憑き中で、反応も有る為ちゃんと無事)
「ストーツさん一人残して大丈夫なんですか?」
「実力的には俺と同じくらいだ、問題無ぇさ。」
表情の窺えない僕に何かを感じ取ったのかベゲットさんは、警笛持たせて来たし、大丈夫だろ。と、笑いながら付けくわえた。
あぁ、そう言えばレベルとかステータス、ベゲットさんのは確認してなかったっけ‥‥。
「それで、お前らどういう関係なのか、聞いても良いのかね?」
「詰まらない関係ですよ。大切な人を酷い目に遭わされて、報復しただけの間柄です」
「壮絶じゃねぇか」
事の経緯を端折って説明して、今の住人のスタンスや、僕の気持ちの置き場を簡単に告げると、ベゲットさんは少し唸って考える様な仕種をした。
「分かってはいるんですよ。いつまでもグチグチ言ってたって仕方無いんだー。って」
それでも、未だに燻ぶるこの感情は、消えてはくれないんだけど‥‥。
そんな僕の返答に、寧ろベゲットさんは軽い調子で肩を叩いて来る。
「いや、こんな仕事してれば、色んな奴を見る事になるからな、お前の気持ちも分からんでも無ぇさ」
盗賊に村を襲われた生き残りの復讐劇や、魔物の群れに家族を殺された者の狂態等、それこそ今までに依頼を通して様々な状況を見て来たらしい。
「だからよ、折角周りが仲直りしても怒らないぜって言ってんのと同じ状況なら、分かりあえずに別れるよりゃあ、良いんじゃねぇか?」
「分かりあえずに‥‥ですか」
「おう、こんな仕事してりゃよ、いつおっ死ぬか分からねぇんだ、歩み寄るのも難しいなら、依頼だって割り切って、金の為に働きゃいいのよ。お前も言ってただろ?依頼なんだから、ちゃんと報告しろってよ」
「そう、ですね‥‥」
確かに、個人的感情よりも依頼の達成を優先させる気でいた筈なのに、道中でギスギスしてたら何か有った時に足元を掬われかねない。
分かってはいた積りなんだけどなぁ‥‥。
「まあよ、どうしても許せねぇっつーんなら、そのまま言っちまえよ。先にブチまけて、相手の気持ちも聞いて、それでもダメなら引き返そうぜ。たかが依頼だ」
豪快に笑いながら肩をバシバシ叩いてくるベゲットさんに、何となくスッキリして立ち上がった。
あぁ、そうか‥‥。
「分かった気がします、なんで納得いかないのか」
「お?そりゃ何よりだ。‥‥なら、戻るか」
「えぇ、戻りましょう」
気持ちの置き場は、思いの外近くに有ったらしい。
■■■
「なんだ、食って無かったのか」
休憩場所に戻った僕らを見て、おもむろに立ち上がったストーツさんの手には、僕が材料を準備して、ベゲットさんが調理してくれたスープが手つかずで残っていた。
「あ‥‥」
そして僕を見つめて固まるストーツさん。
それを見て罪悪感に苛まれる僕。
これが計算だったらもう女子怖すぎて近づけないな‥‥。
勿論、レーネさんになら騙されても尻尾振って近づくけどな!
閑話休題して。
「バレインさん」
「っ!ハイ!!」
「休憩は一時間程度取るつもりですが、そこからはまた戦闘しつつ進める限り距離を稼ぐつもりです、食事は確りとって、ゆっくり体を休めましょう」
「はいっ!」
喜色満面‥‥と言うには相変わらずの無表情なんだけど、なんだろう‥‥、犬がしっぽをブルンブルン振り回している様というか、猫が足元にまとわりつきながら尻尾を絡ませながらニャンニャン言っている様な感じと言うか‥‥。
「仲直り。って事で良いのか?なら俺らも食おうぜ」
スープを食べるバレインさんを見つつ、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて此方を窺うベゲットさんに、少し居心地の悪さを感じながら腰をおろして、僕達も食事を開始した。
六呂からは若干、怒っている様な感覚が伝わって来た。なんでじゃ。
「さてと、腹も膨れたな!少しでも進みたいなら、早速出発だ!」
ベゲットさんがとても爽やか且つヤル気満々といった風情で立ち上がる。
僕としても休憩は確り取れたし、異論は無いので、休憩場所の片づけを済ませて気合いを入れ直す。
「それでは、出発しましょうか。繰り返しに成りますが、小さな事でも異常が有ればすぐに報告して下さい」
「はい!」
「おう!」
威勢の良い返事に気を良くして、僕らは再び、地下を進み始めた。
道中は休憩時に結構な量の食材を出した僕の空間操作の話や、それぞれが使っている装備品について話をしながら、現れる魔物を倒しつつ進んでいる。
魔法の力が込められた、便利な道具を魔道具、装備品は付与装備と呼ばれている事や、魔道具の中でも袋や鞄で収納量や重量軽減量が多い物が人気なのだそうで、空間魔法自体も扱える物が少ない事から人気が出やすいのだとか。
「所で、お前は完全装備な上に食事の時も口の所が開いてたが、まさか日常生活も鎧で過ごしてんのか?」
「ベゲット殿、お姉様をお前呼ばわりしないで頂けますか」
「あ?なんだよ今更、別に俺が誰をどう呼ぼうと構わねぇだろうが」
「2人揃っていきなり喧嘩腰になるのやめてもらえません!?」
距離感て難しい‥‥。
そんな遣り取りをしつつ進んで、外では恐らく日も傾き始めた頃、僕たちは地下八階層へ続くだろう坂道の前の広場に到着した。
「ここまでは強い魔物も居なかったですし、イレギュラーも無かったですね」
「そうですね、ベゲット殿が私たちを嫌らしい目で見ていた以外は」
「なんでそうなるんだよ!俺は別にそんな目で見てないだろうが!」
「はいはーい、喧嘩しないでくださーい」
僕の日常生活の件で、普段はこんな感じです。と人間の頭部に虎の耳が付いた、人に近いほうの獣人形態になってから仮面を外してから、バレインさんとベゲットさんのやり取りが一層激しくなった。
ベゲットさんには性別からして驚かれたものだけど、そもそもお姉様って呼ばれた僕に姉妹なのか?とか聞いてた様な‥‥。
まぁ心は男なので、別にどう思われてても良いんだけどさ。
「さてとー、ここで野営準備を始めようと思うので、役割分担しましょうか」
収納空間からタープや薪、その他諸々を取り出しながら声をかける。
「おう、なら俺はここで寝床でも作ってやるか」
「偉そうに‥‥お姉様、私達はあちらで食事の準備を致しましょう!」
「んー、それじゃ、ベゲットさん、そっちお願いしますね」
「あぁ、任せときな」
不敵に笑うベゲットさんのサムズアップを背に、バレインさんと連れだって少し離れた水場に向かった。
▼ログロの地下洞窟 七階層
「お姉様、私ベゲット殿は信用ならないと思います‥‥」
紅潮させた頬と、潤んだ瞳のセットが定着して来たバレインさんと、隣り合わせで芋を洗う僕。
後ろには非実体の六呂。
『重蔵、今ならこの娘、簡単に股を開くぞ』
「直接的すぎるっ!!」
「あ、も、申し訳ありません!!あの、お姉様‥‥」
「おっふ、いや、いきなり大声出して済みません、バレインさんは悪くないです」
「お姉様‥‥!」
六呂、ほんと覚えとけよ‥‥。
「お姉様‥‥」
「なんですかー?」
洗い終わった野菜と肉を、手ごろな石の上で切っていると、バレインさんから声がかかった。
後は食材を運んで鍋に入れるだけなので、先に戻ってくれる様に言ったんだけど、一向に動かなかった。
そこまで嫌われたか、哀れベゲットさん‥‥。
人相は確かにアレだけど、面倒見は良いしそこまで毛嫌いしなくても良いと思うんだけど‥‥。
「私、しっかりやれているでありましょうか‥‥」
「‥‥そうですね、もう少しだけ、ベゲットさんへの態度を改めて頂ければ、文句無しですかねー」
バレインさんへの僕の態度?一旦 棚上げさせてもらう!
「私、必要ないでありますか‥‥?」
「そんな事無いですよ。そもそも、僕が勝手に引きずってるだけですし」
「お姉様‥‥」
大丈夫か、バレインさん、なんかユラユラしてるけど‥‥。
「何となく分かったんです、なんで気持ちの整理が付かなかったのか。特に今回は、依頼の真っ最中に気分で悪態ついてた節が多かったので‥‥」
改めて自己評価してみたら顔から火が出そうだ。
「結局バレインさんに同行をお願いしたのも、僕でしたけど、それも流されて決めてしまったのが、自分の意思で決めたって言えなかったのが、原因だったのかなー、とか」
取りだした籠に食材を乗せて振り返る。
「だから、バレインさんは‥‥あれ?」
居ないんかーい。
途中から返事も無いし変な感じは有ったんだけど‥‥、っていうか、なんだ!?魔物か!?
『重蔵、どうする?追うのか?』
決まってるでしょうが!
『追う、直ぐに!移動しながら何が有ったのか聞かせて』
■■■
種族:人種 人間
名前:ベゲット Lv,32
職業:[冒険者 17] (騎士級) [盗賊Lv,11] [剣闘士Lv,11] [拳闘士Lv,9]
HP 620/680(+600) MP 12/12(+500)
攻撃力 753(+530)
防御力 501(+522)
素早さ 137(+494)
耐久力 490(+551)
知力 420(+550)
魔力 12(+430)
称号: [女の敵Lv,40] [狡猾なる者Lv,29] [ギルド登録冒険者Lv,3]
魔法:なし
スキル:[強打](攻撃力+5%) [防御](防御力+5%) [隠蔽] [危険察知] [薬品の知識]
[姦淫の力](対♀筋力倍加) [格闘術](殴打・関節技時威力上昇)
[剣術](刀剣使用時威力上昇)
加護:[獣神の加護](各ステータス上昇)
装備:
頭 なし
胴 性麻の服(付与効果:性欲増強)
腕 絶倫の腕輪(付与効果:耐久力上昇)
足 倍感の靴(付与効果:感覚倍増)
右 吸魔のナイフ(付与効果:MP吸収)
アクセサリー 性赤石の首飾り(付与効果:性欲増強) 性赤石のピアス(付与効果:性欲増強)
‥‥‥‥‥‥うわぁ。
まじかよ。ドン引きだわ。
『どうする?重蔵、殺すか?』
『そこまでする必要はないでしょ。‥‥ふん縛ってギルドに連行しよう』
『‥‥ふむ』
気が付いて直ぐに追いかける事が出来たからか、まだベゲットは周囲を見渡して危険が無いかを調べている最中だし、称号・スキル・装備から、あいつの行動はもう割れてる。
捕縛する時にちょっと手違いで手足の関節が逆向きになるくらいは有るかもしれないけれど、今のところ未遂と言えば未遂だし、命を奪うまでは行っていないと判断した。
『の割に、真黒じゃな』
くくく。と、含み笑いを漏らす六呂には何も返さず、気配を完全に消して近づいていく。
[覆理魔導]はここでも大活躍だ。
[振動遮断]と[光波屈折]。
移動中にまた新しく種類を増やせた。
英語に関しては少しの日常会話が出来る程度だったので専門的な知識は無いけれど、スキルに増えていた自動翻訳の機能を信じる事にする。
ゴネゴネしてる最中に仕える魔法が変わったり増えたんだけど、それはまた今度の機会にして‥‥。
『先ずは犯罪者を懲らしめますかね』
『よし!逆削ぎにしよう!』
しませんよー。
暫くキョロキョロしていたベゲットが倒れているバレインさんに視線を落として気色悪い笑い声を上げている所にゆっくり近づいていく。
「おっと、そこまでだ!」
吸魔のナイフとやらでバレインさんの衣服を切り裂こうとした所で、声をかけた。現行犯逮捕じゃコラー。
と、そんな僕など意にも介さず衣服を切り裂いていくベゲット。手慣れたものである。
バレインさんは朦朧とした意識の中、涙を流しながらお姉様とか呟いていた。
あ、しまった、[振動遮断]か。
魔法を解除して、改めて声をかける僕。
六呂からは当然突っ込みが入ったけれど、取り敢えず聞かなかった事にしよう。
折角の正月休みなので、暇を見てせこせこ書いては投稿してしまおうキャンペーン。
今回の投稿で取り合えず連投は一旦終わりです、ゴメンなさい。
続きはまた、時間を見つけてはこっそり投稿いたしますので!
01/04 すっかり忘れてた部分を修正しました。




