♯84 勇者と獣人 旅の途中 ―戦いの火蓋
「女王陛下からのご命令です、デナ・オウラ、ロルド・アルゼノ殿及びパーティメンバー、並びにアルゼノ殿・総指揮官ドサガン・ワガンの連帯指名する者以外は総員退避して下さい!」
アーサーとバルの胃袋がシクシクと痛み始めた頃、不意にギルド職員の高い声が周囲に響いた。
最上位冒険者たるロルドがゴウ・パサーツに到着した時点で、王城に残った女王以下数名の下にその報せが届いたのだ。
各国に勇名を轟かせる冒険者の頂、四名。
大英雄は隠れている一名を除いた皆、各国の長と面識が有る。
何せ、伝承に残る【最初の勇者達】と同じ力を持っているのだ。
災厄種に対抗し得るヒト種の切札。
魔王などついぞ見ない現代においても、人類存亡の危機程では無くとも魔物の脅威は未だ世界中に残っている。それらを退けるだけの圧倒的な力を持つ彼らは、無くてはならない正しく英雄だ。
自国が危機に瀕したと判明した途端に舞い込んだ幸運。
ゴウ・パサーツの女王、リアレ・フォラレ・クオーレア一世は大いに喜び、彼らに助力を願い出た。
「何でもいいけどさー、役に立たないのは帰らせるよ?」
と、興味等かけらもないと言わんばかりの態度で女王に告げるロルドには一同が肝を冷やしたものだが、通信の為の水晶越しの女王は、心底楽しそうに笑っていた。
『勿論、アルゼノ殿の良い様にしてもらって構わん。この大陸の未来、何卒よろしくお願いする』
こんなやり取りが、島での一触即発直前に、ギルド支部で行われていたのだ。
その後、アーサーの転移魔法でコダの島に到着したバル一行と、それに続く形で支部から島へ出発した大翼団のイーグルライダーが、ギルド職員の伝令係へと女王のお言葉の書かれた紙を渡し、冒頭の伝達場面に繋がる。
結局、島に残った冒険者は
バル、ネイア、ロルド、テヘレフェルト、アーサー、計5名のバル一行
イーグルライダーのパーティ、大翼団の4名を合わせて、9名。
国軍兵は
歩兵100名、魔法兵600名、海兵140名、軍船7隻の合計840名。
実に集結戦力の10分の9以上を送り返すという暴挙に、付き合いの長いテヘラフェルトもこめかみに手を添える始末だ。
「いや、しょうがないじゃん、無駄死にしたって何の得も無いんだよ?」
と宣いながら、顔面蒼白となったドサガンに砂浜に木の棒で図を描き、作戦指示を出している。
現存戦力の内、イーグルライダーの4名に魔法兵各1を付けた魔法遊撃隊を上空に待機させ、情報収集と敵の誘導を任せる。
次に、進行方向を固定された標的を囲いこむ形で配備する軍船7隻に、魔法兵各80名前後と海兵20名前後を乗り込ませ、コダの島への上陸体勢を取らせる魔法軍船隊を置く。
最後に余った魔法兵とその補給に歩兵を使う、超長距離魔法攻撃隊を、島の唯一の山、コダルカ山へ配置した。
残ったバル一行は、海岸線に陣取り、正面から標的を迎え撃つ殲滅防衛隊。
軍師どころか、従軍する兵員が見れば鼻で笑う様な戦術だが、この八百余名の中で唯一災厄種との戦いに勝利している拳王の立案に異を唱える者はいなかった。
というか、国軍兵居残り組は絶望的な悲壮感が溢れていて言葉が無いと言った状態だし、大翼団の面々は普段から命がけの作戦が多い上、上空からの魔法爆撃がメインなので危険性はそれ程高くない。
結果、ロルドに対立する案が出てこなかっただけとも言えるのだが‥‥。
果たして、海洋縦断中の巨大な魔物を討伐する為に島に残った千に満たない小軍勢は、戦陣を敷く為に行動を開始した。
会敵予測は、今から半刻後。
■■■
全身を包む泥濘が如き闇に浸ったまま、獣人は夢が覚める事を確信していた。
別に、この暗闇を経験したことが有る訳じゃない。
何か決定的な打開策が浮かんだ訳でも、残念ながら無い。
それでも自身を省みて新たな力を見つけ、今自分がどうしていて、どうなるのかは何となく予測が出来た。
シンカ・シュウシュウ
強くなっていく怖気を胸に、聞こえる声に耳を傾ける。
『そんなに大声で呼ばなくっても、ちゃんと起きるって‥‥』
そうだ、こんな所でぼーっとしてても始まらない。
終わりを、始めないと‥‥。
■■■
絶海の孤島という表現がカッチリと嵌る程、周囲数十㎞には島影一つ見当たらないコダの島。
普段は軍属の者が哨戒に訪れるだけの無人島に、現在は800名余りの戦闘員が配備されている。
バル・エネス・ソルザード率いる殲滅防衛隊、大翼団と国軍魔法兵の魔法遊撃隊、国軍所属の補給歩兵隊に超長距離魔法攻撃隊、そして軍船を駆る、魔法軍船隊。
最終防衛線たるコダの島南部海岸線に陣取るバル一行以外は、軒並み魔法を主とした部隊だ。
軍属の兵員は皆疑問に思っていた。
何故大規模な軍船隊を指揮し、直接攻撃を仕掛けないのか?と。
海に住む魔物ならば、甲羅や鱗を持つ種類と外殻を持たない軟体を持つ種類に大別される。
そして各軍船には、その両方に対応している、魔導大砲と攻撃・捕縛用アンカーが配備されている。
何より、ドワーフの魔法師団は信頼性が低い。
式典でこそ、火花散らし水流を巻き上げ、芳香を舞躍らせるが、いざ個人技となると格段に精細を欠くのだ。
団体戦は滅法強いが、個人戦だと成績の振るわないスポーツチームの様な、残念な印象が軍内部では定着しているのだ。
だからこそ、直接攻撃よりも魔法戦を想定しているロルドの戦法に余り乗り気ではないのだ。
これについては作戦立案者ロルド・アルゼノは、周りも理解していると思っていた為説明しなかった事実が有る。
一つは、魔法に強い耐性を持つ魔物と、物理攻撃に強い耐性を持つ魔物が居る事。
質問が無かったので周知の事実と思ったから。
というのが彼女が後に語った言い分だが、元々天才気質の彼女にとって、作戦立案は出来てもそれを周囲に理解させる事が出来ない辺り、天は二物を与えないと言った所か。
と、作戦が開始された今となっては意味をなさない事だが、進む時間はおいそれと止める事は出来ない。
ギルドの伝令係、非戦闘員の声が上がる。
「来ました!魔動輪に光です、標的目視、距離5000~5500!」
砂浜に設置してある魔動輪の一つが、淡い緑色を二度放ち消えた。
各国魔術院、所謂魔法学校で習う初歩の初歩、設置型魔動輪とその発動を応用した遠距離伝達だ。
各属性色と点滅回数で標的との距離を報せ、その返答を各自に持たせた羊皮紙に発信して指示を行う。
簡易的ではあるが、限られた時間、限られた人員が執れる手段。
ここでついに、コダの島南方・海上防衛戦は状況を開始した。
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「っぁあ"あぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!」
極限まで抑えられていた呼吸を平常に無理やり戻し、声を荒げる獣人が一人。
全身を赤黒い体毛で覆われ、それよりも濃い縞模様を浮かべた虎の様な人型の魔獣、重蔵。
一番新しい記憶は、敵対する女神の使徒が魔法を行使し、自身に向けられた掌が大きく光った直後に視界が真っ黒に染まった所までで、そこからは薄らぼんやりとした曖昧な【何か】が有った様な、無かった様な、フワフワした状態。
そんなまだ揺れている視界を、頭ごとを思い切り振るい。視界を固定して固まった。
目の前には全身の至る所が欠け落ちた大きな黒銀の狐と、それに対峙する、夥しい出血痕が生々しい、女神の使徒。
急速に視界が朱に染まり、思考は憎悪に染まる。
重蔵の変化に呼応して、人間じみた笑みを口元に湛えた狐が女神の使徒に言葉を投げる。
『ふふん、どうやら儂の勝ちじゃな。精々生き残る為に足掻くが良いわ』
憎々しげに睨め付ける女神の使徒に、哄笑を響かせながら掻き消えて行く黒銀の狐はどう映ったのだろうか。
■■■
『取り敢えず、無事でよかった‥‥』
『危うく消える所じゃったわ寝坊助め!』
六呂の責める様な声音に若干申し訳なくなりつつ、現状把握の為に質問をしておこう。
目の前に血塗れの女神の使徒である、アウリョイナさん。
僕の中に消える直前、恐らく物理的に削られたであろう痕跡が随所に見られた六呂の(確か式神に肉体を上げる時に阪鉢さんが言ってた)顕体。
今は中身と一緒に掻き消えてしまったけれど、直前まで戦っていただろう事は想像に難くない。
『危ない目に遭わせてゴメン。どうなってるの?っていうか、僕はどうなってた?』
視界の中にアウリョイナさんを収め警戒しつつ、頭の中で六呂と会話を続ける。
今のところだるそうなアウリョイナさんに目立った動きは無い。
警戒してくれてるなら、このまま‥‥。それはムリか。
『あの女の魔法を喰らった直後にお主が倒れ、そのまま仮死状態?みたいな感じになっておったな』
マジカヨ。
若干呆れ気味な感じで僕がどうなっていたかを教えてくれた六呂の言葉に愕然。
いや魔法怖すぎる。そういえば何かがごっそり抜けて行く感覚が有ったけど、そのまま昏倒とかエグすぎじゃないです?
『重蔵、恐らく力を吸収されたと見て間違いないぞ』
え?抜けてく感覚の正体ってそれ?ステータスとか吸収されんの?マジで怖い何それ。
『あ、ステータス』
種族:人種 獣人 虎人(特異個体、変異種)
名前:ジュウゾウ ミシロ (三代 重蔵) Lv, 2
職業:[獣王 200] (式術師 200、武芸者 197、創造者 180、召喚師 150、狂獣 107、獣神 1)
HP 10005/10023 MP ―/―
攻撃力 8826
防御力 9201
素早さ 4110
耐久力 2810
知力 1720(1500)
魔力 8574
称号:[召喚者・崩] [拷問官・至] [武芸者・至] [探し出す者・至] [超える者・極]
[創造する者 極] [魔導師]
[暗殺者 110] [分け与える者 81] [統合する者 20]
魔法:[装備転送] [防御・耐久上昇(大)] [魔法速度・効果最適化] [召喚]
[空間操作] [分解] [能力譲渡] [状態異常無効(限定)] [広域化] [限定化]
[魔法創造] [幻魔導 完] [土魔導 初] [風魔導 中] [シュウシュウ]
スキル:[獣神化] [式術制覇] [降魔調伏] [無詠唱] [物質創造](転化{重量換算})
[重撃・改](攻撃力+500%) [絶守・改](防御力+500%)
[虎神身・黒](攻撃力50倍、防御力4倍、素早さ40倍、魔法・スキル最適化)
[与痛覚倍加] [被痛覚半減] [黒炎] [加護付与] [隠密] [思考最適化]
[スキル創造] [カミオロシ] [シンカ] [シンガン] [テンイ] [アメ] [クニ]
結界:[一文字]~[五文字] [イ式結界]
式神:[六呂 マジナイ][円月][珠][狛][凛尾][鳥之石楠船 イタミワケ][鉄鼠][妃蜂][刀鴉]
[雀禍 カタガワリ][太郎丸][新月][白華 アマノジャク]
召喚:[レクス・ロブナ](特殊契約) [海神](一時契約) [????](通常契約) [????](重契約)
装備:
頭 積層装甲式狐面・七
胴 三型積層装甲式ブレストプレート
腕 三型積層装甲式特殊手甲(ナックルガード付)
足 四型積層装甲式足甲
右 主:黒曜骨の波鎌 攻撃力+70 副:新月 攻撃力+800{スキル25%使用可}(防御力+40%、魔法付与:水、魔法付与:氷、魔法付与:圧)
左 主:なし 副:円月 攻撃力+800{スキル30%使用可}(攻撃力+50%、魔法付与:炎、魔法付与:光、魔法付与:壊)
アクセサリー 一型黒鷹紋の外套(防御力+110、耐属性防御+60)
丈夫な革鞄改
「ぬぉう」
変な声出た‥‥。
あれ?レベルガッツリ下がってる‥‥。旅の途中で色々あって、レベルやら能力値やら結構上がったと思っ‥‥ん?。
能力値は上がってるな、なんだこれ。
それにスキルとか魔法も増えて、その上結界だの海神だの、もうこれなんだか分かんないな。
むむ、[シンカ]ってなんだろう‥‥?進化出来るんだろうか。
などと、未だに睨みあう形でアウリョイナさんと対峙している僕の頭の中はかなり冷静に感じる。
これも思考の最適化ってスキルの恩恵だろうか?
と、意識がソチラに向いた瞬間に頭の中に情報が湧き出した。
[シンカ] スキルレベル無し、解放段階1。 一時的に真の力を得る。[真化]
[思考最適化] 思考時の情報集積及び細分化、解法等の最適化がなされる。スキルレベル21
[結界] 精神力による特殊防御法。発動文字が増える毎に、性能が向上。
[海神] 而耳自蒔・ゥハクサ嵂ス、ア・ム・�。ヲクヲス。ン。・。ュカ
「おぉう‥‥」
「さっきから変な声が出ていますが、どうかされましたか?」
どうかしてしまった様です。
「ナニカサレタヨウダ」
「はぁ‥‥、そうですか」
うん、そりゃ通じないよね。って、小ネタ挟んでる場合じゃないな、コレは‥‥。
六呂に突っ込まれない内に意識を切り替えないと‥‥。




